仕返しと伏線
「うう、気持ち悪い……」
「全くもうマリーさん、調子に乗って食べすぎるから……」
「半分はクリスさんのせいだよ?」
もう半分はイリーナちゃんだ。
言うまでもなく、私に責任はない。
「私のせい、ですか……ふふ、私の存在がマリーさんに影響を及ぼしたと考えれば」
「なにこの子こわい……」
もはや思考がストーカー、もしくは行き過ぎたオタク。
そのうち同じ空気を吸っているだけで興奮しだしそうだ。
「まったく、仕方ないですね。ほら、こっちにおいで?」
「いやそこそもそも私のベッドだし」
「まあまあ、些細なことですよ」
些細とは。
というか、もう当然のようにスルーしてたけど。
「クリスさん、自分の部屋は?」
「マリーさんと一緒にいたいです」
「ぐっ……」
ふ、不意打ちだと……?
しかも返答になってない。
そういえば私、クリスさんの部屋には行ったことないような……いや、クリスさんが当然のように私の部屋で暮らしているから行く機会がないだけか。
機会というか意味がない。
だって部屋主がいないんだもん。
「ふむ……ではマリーさん、少しこちらに」
「え? なんで……」
「いいですから」
何をする気だ。
もう断る気力もないんだけど。
「はあ……ここですか?」
「そこです」
クリスさんの指示通り、ベッドの上に向かい合うような形で座る。
何をされるのかと思い身構えたが、別にそんな大したことはなく……クリスさんが私の頭上に手を這わせ、そして。
「え? な、なにを……」
「よーしよしよし……」
「私は犬か!」
めっちゃ頭を撫でられた。
勢いが強すぎて頭がガクガクと揺れる。
「マリーさん、どうどう」
「それは馬!」
「真っ赤なお鼻の〜」
「トナカイさんも関係ないよ!」
全くもう……本当に、この人は。
「ふふっ、マリーさん……」
「な、なんですか……?」
「ぎゅーーっ」
「ひゃああああ!」
抱きしめられた! しかも効果音付きで!!
なんだぎゅーーって!
「マリーさん」
「は、はい……?」
「愛していますよ」
……うぁああああああああ!?
耳元小声でそれは効く!
死ぬ! メンタルダメージで!
くっ、このままいいようにされてなるものか!
いくら相手が悪役令嬢とはいえやられっぱなしは嫌だ!
こうなったら!
「く、クリスさん!」
「なんですか?」
「さっきのクリスさん、かわいかったですよ……!」
こ、これでどうだ!?
「……さっきの……? あっ」
クリスさんの顔が真っ赤に染まる。
何を言いたいのか察したらしく、分かりやすく慌て出した。
うん、かわいい。
「犬に吠えられて悲鳴を上げてたところとか、そのあとずっと私の腕に絡みついてたところとか……」
「あ、あああああ……ちょっと……?」
ああもう、ぷるぷる震えて。
手が何かを求めるようにさまよって。
可愛い可愛い、可愛いなあクリスさん。
もっといじめたくなってしまう!
「そのあと…『しばらく、こうしていてもいいですか?』って言っていたのも、全部!」
「う、あ……」
「……全部、すっごくかわいかったです」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!?」
どさり、と。
背中を柔らかいものに打ち付ける感覚。
……そういえば私、ベッドに座っていたんだっけ。
「そ、そこまで私のことをコケにするとは……」
「あ、いや、別にそんなつもりじゃ」
「言い訳無用! こうなったら全て忘れさせて……思い知らせてやります!」
私をベッドに押し倒し、クリスさんが馬乗りになる。
その手には……ロープ?
……はっ!
今朝イリーナちゃんが来る前に持ち出していたあれか!?
「く、クリスさん、そのロープで何を」
「ふふ……うふふふふ……」
こわい。
こわいよ。
「ねえあの」
「あはは、ははははは!」
悪役『令嬢』じゃないよ、それ。
ただの悪役だって。
「やめっ……!」
「マリーさん……ふふあははははは」
その問いには答えず、私の体にロープを巻き付けていくクリスさん。
手足を縛られ、体の自由を奪われる。
もう、抵抗できない。
「い、いた……くない……?」
痛くはない。
ただ動けないだけ。
それが何より致命的だった。
「今夜は……いえ。明日もお休みなので、明日もずっと……ですかね?」
「ひ、ひぃ……」
「ずっと、逃がしませんよ!」
「いやああああああああああああああああ!!」




