食べすぎ注意
「あそこです!」
「え? あれって……」
「マリーさん、知っているんですか?」
「知っているというか……いや……」
おいしそうなものが色々あった。
そんな曖昧なイリーナちゃんの発言に釣られてやってきた先……思っていたのとは結構違う光景に、ほんの少し戸惑う。
想像と違うわけではない。
むしろ、想像そのままだった。
「いい匂い……」
「ええ、そうですね……私も初めて来ました。マリーさん、あなたは?」
「あー、私は……」
この世界ではない。
ただし、前世において何度か行ったことはある。
それは、お祭りのような場所だった。
お祭り騒ぎとかそういう比喩ではなく、本当のお祭りだ。
「なんか……不思議な場所ですね!」
「ええ、そうですね」
広い道の両脇に並ぶ、色とりどりの屋台。
ほとんどが木枠と布だけで構成された簡素な小屋に、この世界の言葉で食べ物の名前や絵が大きく書かれている。
焼きそば、わたあめ、りんご飴。
ここは異世界のはずなのだけれど……目の前に広がる光景は、前世のそれと大差なかった。
「あ! 私あれ食べたいです!」
そう言って、イリーナちゃんが近くの屋台へ走っていく。
あれは……焼きそばか。
いまいちこの世界のイメージとマッチしない光景に、まるで違う世界に迷い込んだような感覚に陥る。
いや、『まるで』も何も本当に違う世界ではあるんだけれど。
「ああちょっと、待ってくださいイリーナさん……ほらマリーさん、行きますよ」
「え? う、うん」
……まあ、考えるのは後でいいか。
ひとまず、クリスさんとイリーナちゃんについていこう。
***
「美味しいですね!」
「ええ」
「うん……」
おいしかった。
普通に屋台料理の味だ。本当にどうして異世界にこんなものが?
ゲームにもこんな場所はなかったと思うんだけど……まあ、細かいことはいいか……?
ともかく、お祭りである。
三者三様に別の料理を持っているのもなんだかそれっぽい。
クリスさんは焼きそば、イリーナちゃんはりんご……りんご? りんごもどき飴。
りんごというより、いちごに近い形状の果物だ。サイズは顔ぐらいあるけど。
「……ど、どうしたんですかマリーさん? これ、食べたかったですか?」
「あ、いや、ごめんイリーナちゃん。大丈夫だよ、あとで自分で買ってくるから」
果物の形をじっと見ていたら、怪訝そうな顔を向けられた。
実を言うとこの世界に来てから、あまり食事に気を遣ったことが無かったからなかなか新鮮だ。
まあ、二人の反応からしてそこまでポピュラーな食べ物ではないようだが……美味しければいいだろう。
そして私が食べているのは、タコもどき焼き。
うん、タコではない。
タコではないのだ。
なんだろう……食感? 何かが違う。ちょっと割ってみよう……。
「……えぇ……?」
すごい緑色……緑色……?
いや、中身は紫……?
外が緑、中は紫?
どういう生物? いやそもそも生き物か?
たまにネットで売ってる体に悪そうな色のお菓子かな?
「え……な、なんですかそれ……?」
「ま、マリーさん! あなたは私のものなんですから、怪しいものは食べちゃ駄目です!」
いつの間にかイリーナちゃんとクリスさんが私の皿を覗き込んで、タコ? の色を見ている。
あとクリスさん、さりげなく私をクリスさんの所有物にしないで。怪しいものじゃないよ。
いやまあ、気持ちはわかるけど。
「結構美味しいよ?」
「え、遠慮しておきます……」
「マリーさんは変わったものが好きなんですね……そんなところも好きですが」
すっかり私が変人扱いされてしまった。
ああ、そういえば一部の外国の人はたこを毛嫌いするって聞いたことあるような。
こんな感じなのかな? いや、これとは違うんだろうけども。
……そう考えると、これを売ってたあの屋台の人って何者?
「……でも、マリーさんが食べさせてくれるなら食べますよ」
「あ、それなら私も! 私も食べます!」
ちょっと二人とも?
どういうことなの?
「というかそもそも、あと一個しかないよ」
「ふむ。どうやらここで決着をつける必要があるようですね」
「受けて立ちます!」
「ちょっと?」
何の決着だよ。
そんなことで対抗心を燃やすな。
なにをする気なんだ……と思ったら、ただのじゃんけんだった。
平和な世界。
ちなみにこの世界のじゃんけんは『最初はグー』ではなく『ロック、シザーズ、ペーパー』の方だ。
「ふー……行きますよ」
「かかってこい、です!!」
ただのじゃんけんだよね?
なぜそこまで気合いを入れるの?
どこの戦闘民族なんだ。
「「……はあっ!」」
掛け声がもうじゃんけんじゃないが。
とはいえ……イリーナちゃんがチョキのクリスさんがグーで、勝者、クリスさん。
「私の勝ちです」
「くっ……次は負けませんよ!」
「次があるといいですね?」
「むぅ……!」
謎の勝負に勝ち、渾身のドヤ顔で勝ち誇るクリスさんであった。
まあ、それならそれでいいか。
じゃあこの最後の一つを……。
「あーん……」
口を開けて待機するクリスさん。
食べさせろと? そういうことなのか?
「あ、あーん」
「あづっ!? ……ん、むぐっ、もぐもぐ……」
なんだこれ。
どういうプレイだ。
二つに割ってできるだけ冷ましたけど、そりゃ熱いよね。
「お、美味しいですか……?」
「んっ……。ええ、色はひどいですがこれはなかなか……」
「ひどい言うな」
わかるけど。ひどい色だったけど。
ゲテモノ食材みたいな扱いをするな。
「マリーさん、それではお返しです。あーん」
「え? あ、あーん……むぐっ」
クリスさんが、自分の手に持っていた焼きそばを私の口に突っ込んできた。
ちなみに箸とかはないので、スパゲッティみたいにフォークでぐるぐるってして食べる。
なぜかクリスさんの目から生命の危機を感じた……が、普通に焼きそばの味だった。
「どうですか?」
「んぐ……ん、美味しい。ありがと、クリスさん」
「よかったです」
「むー……」
イリーナちゃんが何故か悔しそうにしている。
自分のりんごもどき飴をみながら。
まさかとは思うが……いやまさか……。
「……マリーさん」
「いや、それ食べかけだよ!?」
差し出してきた。いらない。
焼きそばとかならまだしも、人の食べたりんごにかぶりつくのはちょっと……。
「ううう……」
「ふふ、私の勝ちです」
「つ、次は負けませんからね!」
なんでライバルみたいになってるんだよ。
なんの対決?
***
そんなこんなで色々あって──具体的には何度も同様の勝負が繰り返されて──数十分後。
「ふう、食べましたね!」
「ええ、楽しかったです」
「ああうん、そうだね……」
疲れた。めっちゃ疲れた。
なぜかは分からないが、ずっと二人が私に食べさせようとしてきたのだ。
それも勝負形式で。
勝った方が私に食べさせて、負けた方がまた別のものを買ってくる……という無限ループの勝負が繰り返された。
太るわ。
「でも、マリーさんはもっと太ってもかわいいと思いますよ!」
「そこはイリーナさんに同意しますね。マリーさん、小さいですし」
「はあっ!? 小さい!? はあああ!!? なんのことかなねえねえねえクリスさん!?」
心外だ!
そして人権侵害だ!
小さいだっ……んなわけ……くっ……!
「あ、あははー……」
「いえいえ? 別に私は? マリーさんの『なにが』小さいなんてかけらも言ってないですし?」
「ぐあっ……くあっ……!」
墓穴を掘った……いやなんでもない!
げ、下世話な話はここまでにしよう!
うん!
いたずらに私の身体情報を暴露するべきではない!
「えっと……そ、そろそろ帰りましょうか!」
「ええ、そうしましょう」
「わ、わかった……」
そ、それにしても食べすぎたな。
はち切れんばかりだ。息が苦しい。
……晩御飯、どうしよう……?




