長期休み突入(学園生活三日目)
「……はあ」
暇だ。急に暇になった。
誰だ学園長に毒盛ったやつ。
おかげですること無くなったわ。
あの学園長がどうなろうと構わないけども、犯人が見つかるまで休みは正直勘弁してほしい。
別にいいだろ、学園長いなくても。
「全くもう、だらしないですよマリーさん。部屋の中だからってそんな格好して……」
「当然のように人の部屋でくつろいでるご令嬢には言われたくありませんね」
そう、ここは私の部屋である。
学園生活三日目にしてすでに入り浸っているクリスさんの方がどうなんだ。
あと私、そんなにだらしないか?
至って普通の格好でしかないけど?
「ふふ、当然ですよ。それにしても休みですか……。特にすることもないですし、どうしましょう?」
「疲れたし部屋でのんびりしません?」
「それは私とイチャイチャしたいと言うことでよろしいですか?」
「かんべんしてください」
昼間からそれは堕落にも程がある。
せめて夜……いや……うん。まあ、そういうことだ。
「またまたそんなこと言って。ニヤけ顔が隠せてないですよ?」
「ウッソまじで!?」
「嘘です。ですが嬉しいんですね?」
「ぐっ」
嵌められた。
否定はしない。否定はしないけど。
「さてそれでは……あれ? わー、偶然こんなところにロープがー」
「な、なぜそんなものが……!?」
棒読みすぎる。
いつ仕込んだ?
というかそもそもなぜ持っている??
「ふふふ……覚悟はいいですか」
「ひっ……あ、あのその、ちょっとそれはえっと」
ロープを手に持ち、満面の笑みで近づいてくるクリスさん。
悪役令嬢っていうより女王である。
「逃しませんよ、マリーさん?」
「あっちょ、やめて絞めないで。せめて息はさせて?」
対処に戸惑ううち、壁際まで追い詰められてしまった。
クリスさんが手に持ったそれを私の首にかけ、慣れた手つきで私の体の自由を奪う……見ているだけしかできなくなっていく。
何もできない。
そんなことをしていると。
「……おや? 誰でしょうか、全くこんな時に……」
「た、助かった……?」
トントントンと、ノックの音が部屋に響く。
クリスさんが不満げな顔で私の体からロープを外し、自らドアを開けにいった。
そしてふんと鼻を鳴らし、振り返りもせず……。
「……夜に持ち越しですね」
「ヤメテクダサイオネガイシマス」
そんな恐ろしいことを呟いた。
私今晩……というか今後どうなるの?
将来の展望に不安がよぎるが、そんな私をよそにクリスさんはドアを開ける。
「こんにちはー……あれ? クリスさん? そのロープは何ですか?」
案の定というか予想通りというか、そこに立っていたのはイリーナちゃんだった。
慌てて少し乱れた服を直し、私もクリスさんと並んで彼女に向かい合う。
「イリーナさんですか。ちょうどいいですね、今からこれを使ってマリーさんを」
「いや違うからね? それはその、クリスさんが勝手に言ってるだけで……」
「……邪魔でしたら帰りますけど……」
「やめて! 置いていかないで! このままじゃ私の身体の自由が!」
「わ、分かりました」
危ない危ない。
心なしかクリスさんの視線が厳しくなった気がするがいや、関係ない。
昼間から物理的に縛られたくはないのだ。
……夜なら良いとかいう問題でもないが。
戻れない。戻れなくなる。
「それで、イリーナさん。何の用ですか? 学園長の容態が悪化したとか?」
「何それ怖い……」
真顔で言わないでクリスさん。
まるで何とも思ってないみたいな……いや、何とも思っていないだろうが。
私も思ってない。
「あ、そうでした。全員に外出の許可が出たので、それを伝えに来たんですよ」
「え? 外出の許可? 何で?」
いくらなんでも早すぎない?
まさか本当に学園長が悪化して帰らぬ人に……?
「はい、なんでも犯人に目星がついたとかで……取り調べやら何やらがこれからあってまだまだ長引きそうなので、生徒のストレス緩和の意味もあって外出が許可されたとか、なんとか?」
なんだ、そっちか。
イリーナちゃんもそこまで事情を把握しているわけではなさそうだが、まあそういうことならいいだろう。
「なるほど……ちなみに許可というのはどこまででしょうか?」
「門限は十八時。それまでなら自由行動可。ただし外泊する場合は事前に許可が必要だそうです」
「結構自由ですね」
「まだ三日目なのに……」
三日で始まる夏休み。
学園の意義とは?
というか、ゲームではこんな展開なかったんだけどなあ。
この世界、人物や地理とか大まかなところはゲームと共通してるんだけど、違うところも結構ある。
悪役令嬢これだし。
「むむっ……マリーさんに馬鹿にされたような」
「き、気のせいでは?」
「そうですか」
なんで分かった。さては心が読めるのか。
いや、別に馬鹿にはしていないけど。
あと引き下がるんかい。
……まあいいや。
「それで、マリーさんとクリスさんも一緒におでかけしないかなと! せっかくの機会ですし!」
「ふむ……」
悪くない提案だった。
部屋にいてもクリスさんに襲われるし、私の貞操が危ない。
それもそれで悪くはないけど、一日中それはちょっと勘弁してほしい。
「私は構いませんよ。マリーさんは……」
「うん、私も行く。というか、クリスさんが行くなら私はどこでもついていくよ」
「マリーさん……」
……素で言ったつもりなのだが、改めて考えると結構恥ずかしい台詞だな。
赤面してこちらを見つめるクリスさん、それとなく私も見つめ返す……どちらからともなく距離が縮まっていき、そして。
「……こほん」
「あっ……ご、ごめんイリーナちゃん」
「むぅ……」
忘れてた。
イリーナちゃんがいるのを。
三人とも、顔を赤くして俯いてしまう。
なんとも気まずい空気が流れる……。
「そ、そういえば、この近くには個人商店などが多くある通りがあるそうです! 特に行くところがないなら、そこへ行ってみませんか!?」
「あ、う、うん! そうしよっか、あはは……」
「…………」
気まずい、というか気恥ずかしい沈黙を破り、イリーナちゃんがそんなことを言った。
私もそれに乗っかる……と同時に、なぜかクリスさんが私の腕を掴んできた。
「えっと、クリスさん? 動きにくいんですけど……」
「マリーさんは私のものですからね」
いや、なぜこのタイミングで。
デレるタイミングが分からん……いや常にデレデレではあるけど、それにしたってなんで今?
照れ隠しか……?
「あ、その……行きますか?」
「はい、そうしましょう」
「あの、クリスさん……腕を……」
「行きますよ、マリーさん」
う、動きにくい……。




