真実と書いてデマ
「マリーさん、おはようございます」
「ぐはぁっ!?」
寝起きにファイト一発。
クリスサンナンデェ!?
……はあ。
「夢じゃなかった……」
「夢のような時間だった、ということですね」
ものは言いようということか。
おはようございます、ねえ。
全く……。
「もうお嫁に行けない……」
「何言ってるんですかマリーさん、私がもらってあげますよ」
「ぐっ」
照れくさくなるのをテンプレセリフで誤魔化そうとしたら、より深刻なダメージを受けた。
どうやらもう逃げられないらしい。いや、逃げる気もないけれど。
「さて、そろそろ行きましょうか」
「え……どこにですか?」
「朝ごはんです。今日はパンとスープだそうですよ」
「そうですか……うん? 何で知ってるんです?」
メニューとか公開されていたっけ?
「ああ。先程ある方が尋ねてきていましたので、私が代わりに出ておきました」
「……え? ここ、私の部屋ですが?」
「…………さあ、行きましょうか」
クリスサン!?
ナニヤッテルノ!?
え、どんな反応されたの?
わざわざ尋ねてくる人って……いやいやいやいや。
……まあいい、やってしまったものは仕方ない。今更言ってももう遅い。
そう思っておこう……。
「はあ……それじゃあクリスさん、私は着替えるので」
「はい。お待ちしています」
「い、いや……え?」
お待ちしていますじゃなくて。
何でそんなにじろじろと……着替えるって言ったのに。
「嫌ですねえマリーさん、今更私に裸を見られたところで何も変わりませんよ」
「ええ……?」
変わりは確かにしないだろう。
いやそれでも、そうだとしても、着替えをそんなまじまじと……。
へ、減るもんじゃないってこと?
精神はすり減るけどね??
……まあ、もういっか。
***
食堂に向かう。
もちろんこれも手を繋いだまま。
ドアを開ける……とその瞬間、なぜか室内の注目を浴びた。
手を繋いでいるから? いやそれは昨日も同じだった。
まさか……。
「……あの、クリスさん」
「さあ食べましょうか」
「話を逸らした……」
視線も逸らした。
今のはあれだ、カップルに向ける視線だ。
絶対そうだ!
私が文字通り生涯向けられることがなかった視線!
「あの、マリーさん。そんなに見られると私、照れてしまいます」
「さっき人の着替え見てた人のセリフじゃないよ……?」
どの口が、とはこのことだ。
しかも予想が正しければ……。
「──あ、クリスさんとマリーさん! おめでとうございます!」
あ、イリーナちゃんだ。
昨日と同じようにドアを開け放ち、こちらに駆けてきて……そのまま私たちの近くに座った。
今日は転ばなかったね、よかったよかった。
…………うん?
「お、おめでとうございます……?」
「はい! ご結婚なされたんですよね!」
「……クリスさん?」
さっと目を背けるクリスさん。
自白したようなものだ。
罰として──別に悪いことをしたわけではないが──軽くほっぺをつねる。
やわらかい。
「い、いやほの、さひほどそのひゃははたうえてひたのへ……んう。その時、マリーさんの部屋にいる理由を聞かれたので、つい……」
私の指を途中で首の動きで振り払いながら、クリスさんはそう話した。
つねられたこと自体には文句を言わない辺り、反省はしているらしい。
まあ、なるほど。
イリーナちゃんは私の部屋の場所知ってるもんね。
さっき言ってた部屋に来た人って、イリーナちゃんだったんだ……私が知らない人よりはマシ、か?
……いやマシではないな。少なくともこの場にいる人にはバレてるようだし。
「つい、ですか……」
「反省はしています。後悔はしていません。遊ぶ金欲しさに、むしゃくしゃしてやりました」
「…………」
補導された学生みたいなことを言うな。
やっぱり反省してないようなのでもう一度ほっぺたをつねった。今度はもう少し強めに。
……クリスさん?
どうしてそんな、悦に浸ったような顔を……?
「いいなあ……やっぱり仲がいいんですね!」
「んっ……ふう。私のようになりたければ、精進することです」
「はい! 頑張ります!」
頬に赤い痕つけた状態でよくそんなことが言えるよね。
逆にすごい。
なりたくないよ。頑張るな。
……というか冷静に考えて、どうして人の部屋にいる理由を尋ねられただけで結婚の話が出てくるのかすごい気になるんだけど……。
お泊まり会とかじゃ駄目だった? それ。
「……ふう。それにしてもこのスープ、おいしいですね。ね、マリーさん?」
「いやその、クリスさん……」
「なんなら私が食べさせてあげましょうか?」
「あの」
「はい、あーん」
ぐっ、避けるわけにもいかないか。
というか避けたくない。
「あ、あーん……むぐっ!?」
「はい、よくできました。いい子いい子」
半分無理やりスプーンを口に突っ込まれた。
ちょっと熱いけどおいしい。
……いや、じゃなくて。
「私は犬か」
「可愛さという意味で見るならばそうかもしれませんね」
「なるほど……勉強になります!」
イリーナちゃん?
何を勉強してるの?
どういうことなの本当に。
「ふふ、貴方も早く相手を見つけることです」
「むう……負けませんよ!」
んなことで勝ち負けを競うんじゃない。
というかもういいから。
さっきから視線が怖い。
早く食べて?
一日は始まったばかりなのに、もう帰りたいんだけど。
「ところでマリーさん、今日は休日ですがどうしますか?」
「え? 休日? なんで?」
「えっと、なんでも学園長に毒が盛られて、その治療と犯人が見つかるまでしばらく休みだそうです!」
「大事件じゃん……え? 大事件じゃん」
周りが全然騒いでなかったから、てっきり何事も無かったのかと……ええ?
学園長の命の軽さよ。
みんな平然としてるけど?
寝ている間にとんでもないことになってない?
……ざまあ、と思ってしまう私がいるのも確かなのだが。
「あ、もしかしてそれで……」
「はい! それを知らせるために、私がとりあえずマリーさんの部屋を訪ねたら……その、クリスさんが」
「く、クリスさんが」
なるほどなるほど。
クリスさん?
「え、えへへ……今日はいい天気ですね?」
クリスさん……。




