……大嫌い?
『……ごめんなさい、ミラ』
『……うん』
間違えた。
ボクはきっと、全てを間違えてしまった。
いつから? ……初めから。
キミと過ごした時間の全ては、間違いでしかなかった。
『──ねえ、ミラ。……ミラ?』
どうして、あの時キミに声をかけてしまったんだろう。
どうして、今になるまでキミと共に過ごしてしまったんだろう。
どうして、あの時キミから離れられなかったんだろう。
『返事してよ。いるんでしょ?』
全てを恨みたくなる。
全てを消してしまいたくなる。
キミは何も悪くないのに、悪いのは全部ボクなのに。
キミを汚してしまったボクが、たまらなく嫌になって。
『……? 開けるよ……?』
キミは、何も知らなくていい。
『…………ぇ』
キミはひとりでも生きていける。
『な……に、して』
キミが知るよりもずっと、人は弱い。
キミの思うよりももっと、人は愚かだ。
接するたびに傷つくのなら。
関わるほどに抉られるのなら。
『…………や』
キミにはもう、友達は必要ない。
***
***
あなたはわたしを置いていった。
誰にも愛されなかったあなたは、長い永い時間が経って、ほとんど何一つのこっていない。
自分のことは忘れて、最初で最後の手紙にはそう書いてあった。
……でも、忘れられるはずないじゃない。
あなたの存在は、深く深く心に突き刺さっている。
いつもそれを抜こうとして、綺麗に取れずに絡みつかれる。
痛いことも、ずっと何かが滲んでいるのも、いつまでも慣れはしない。
それでもそれはボクの一部となって、次第に想いが薄れていった。
ふと思い出した時には、あなたの声が聞こえない。
そう、感じて。
『……ミラ』
あなたの名前を呼ぶ。
その記憶すら薄れる前に。
『なんで……そんな酷いこと言うの』
あの時、何を考えていたの。
わたしはどこまで、あなたのことを知れていたの?
『…………わからないよ。なにも』
***
***
***
「──全くもう。どういう了見ですか!」
「「ごめんなさい……」」
「マリーを連れ出したのは許しましょう。ですが気絶させて帰ってくるとは何事ですか! ぼーっと突っ立ってないで働きなさいチビ吸血鬼!」
「ち、チビ吸血鬼……?」
……なんか聞こえる。
「はあ……あ、マリー。おはようございます」
「……おはよ、クリス」
急に落ち着いた。
「あなたもあなたですからね! 全く心配かけて!」
「え、な、何の話……?」
どうやら眠っていたようだ、ようやく思考がそこに至った。
ここは私の部屋、寝転んでいたのは座っているクリスの膝の上。
その横では、ルーシーちゃんとミラちゃんが気まずそうな表情で佇んでいた……。
「突然倒れたと聞きましたよ! 何があったんですか、襲撃ですか、とっ捕まえてきます誰ですかどこのどいつですか!!」
「お、落ち着いてクリス……。大丈夫、大丈夫だよ」
……まだ頭がぱちぱちするが、状況はなんとなく把握できた。
今……というかここ数日にかけて見ていたものは、夢だが夢じゃない。
遠い過去、本当にあった出来事だろう。
そして、その仕立て人は……。
「……ソフィアだろうね。あの子ったら、マリーちゃんには妙に入れ込むんだから……」
「ソフィア? 誰それ?」
「ああ、ミラは知らないんだっけ。わたしの……あー……友達」
「……そう」
ふたりの仲は一周回ってちょっと良くなった……のか?
どっちもクリスに怒られてしょんぼりしているせいかもしれない、なんて思うとちょっと笑える。
慌てているふたりの姿が目に浮かぶようだ。
それはそれとして、あの夢は……。
「……何、その目つき」
「別に」
「わたしがどうしようと勝手でしょ。口出ししないで」
「ふん。懲りないね、ルーシー」
ああもう、また始まった。
こんなに嫌そうに言葉をぶつけあう喧嘩見たことない。
むしろどんだけ仲良かったんだって話である。
いや、いっそ歪にすら見える。
それだけ仲を深めておいて、なんでどこか他人行儀なんだ。
互いが互いに遠慮しているというか……恐れているというか。
「……はあ。ふたりとも、どうしたいと思ってるの?」
「えっ?」
「な、何の話……?」
とぼけられてもしょうがない。
意識が落ちる直前の声からすると、確かにソフィアさんがなんらかの仕込みをしていたのだろう。
となれば、あの夢は。
妙に現実味のある、それでいてやや順番がおかしい夢は……。
「……とりあえずさ、どっちか片方外にいてよ。お互い、話しにくいこともあるだろうし」
「「え……?」」
まあ、ここまで来れば乗りかかった船だ。
中途半端にするくらいならとことん首を突っ込んでやろう。
というかルーシーちゃんに関して言えば、そういう話題はお互い様である。
「クリス、ちょっとだけ付き合ってくれる?」
「ええ。なんのことだか知りませんが、痴話喧嘩は大好物です」
「ち、痴話喧嘩って……」
間違ってはいないかもしれないけど。
それでもなんかこう……ふたりがすんごい微妙な顔してるし、もうちょっと言い方を……いや、まあいいか。
直接お互いの話を聞いてみよう。
まずはそれからだ。




