大嫌い
「どの面下げて言ってんの、ルーシー。ボクはキミのせいで……」
「ミラ。あなたの体のことが分かったよ」
「……なに?」
あくまで落ち着いた調子で、ルーシーちゃんは喋り出す。
ミラちゃんの方は……努めて冷静でいようとしている、という感じだろうか。
やはりふたりの間に距離を感じる。
ごく断片的にしか事情を知れていないのが歯痒い……。
「お父さ……神に直接聞いてきた。あなたのその体は別の世界で生まれたとある人間のもので、魂は単なる生まれ変わり。輪廻転生ってやつ、よくあることだよ」
「……! その別の世界って、まさか……!」
「勘がいいね、マリーちゃん。そうだよ、あなたが生まれた世界。と言っても、前のマリーちゃんとミラには特に接点はなさそうだけど」
厳密には一点。
おそらくは、生まれた国は同じだったのだろう。
ミラちゃんが日本語であの手紙をよこしたのは……無意識か、それを知ってのことなのか。
「……ふうん。で、なんでボクはここにいるわけ? 世界を渡るなんて真似、した覚えはないけど」
「暇つぶしだってさ。よくあることだよ、あの神にとっては。ある時偶然死んだあなたの魂が、昔々わたしと友達だったミラのものと同一だってことに気づいて、親切心で傷を治してこっちの世界に送ったんだって」
「趣味わる……」
あの神らしいのが腹立たしい。
暇つぶしに世界を創ったあいつなら確かに、ほんの手遊びでそれくらいしてもおかしくない……。
「記憶に関しては明確に戻した覚えはないけれど、覚えていてもおかしくはないって。人間如きの執念にしては大したものだ、とか笑いながら言ってたよ」
「執念……」
「まあ、そこは別にいいんじゃない。体自体は別人ではあるけど、あなたはあなただ。生きてて後ろめたいこともなければ、元の世界に戻ることもない……何せ向こうでは死んでるんだから」
「…………」
……まあ、そうかもしれない。
私だって仮に前の体に戻ったとしても、前の世界に帰ろうとは思わないだろう。
居場所なんてないだろうし、戻ったって困る。
向こうの私はとっくの昔に墓と鬼籍の中だ。
「じゃあ、そういうことで」
「え、ルーシーちゃん? どこ行くの?」
「帰るよ。もうこの場所に用はない。迷惑かけてごめんね、マリーちゃん」
「待って……っ。な、なに? ミラちゃん……?」
立ち去ろうとした彼女を追おうとすると、ミラちゃんに腕を掴まれた。
制止するように。
影のように無表情な彼女は、余計なことをするな、そう目で訴えかけていた……。
「…………。その子に手を出すな、ミラ」
「キミが利ける口? とっとと失せなよ、もう用はないんでしょ」
私を挟んで、冷たい目線が交差する。
私のために争わないで、なんて茶化せるような雰囲気では到底ない。
……いっそ、そう言えた方がよほどいいだろうか。
「自分で言っていたでしょ、孤独には慣れてるって。斜に構えて拗ねてどうしたの? 今更人恋しくなった? どうせ人との関わり方なんか知らないくせに」
「昔の話だよ。キミは変わらないね、ルーシー? 自分から不幸になりにいくとか馬鹿みたい。なんのために生きてんの?」
容赦のない言葉の応酬だった。
深く傷ついた顔をしているのを、本人たちは気付いているのか。
頭が痛くなってくるようだ……。
「……はっ。忌み子風情が偉そうに」
「……そっちこそ。化け物のくせに」
──いや、本当に頭が痛い。
なんだ、これ。
割れるようだ、なんていうけど、大袈裟じゃなく割れそうだ。
ただ痛い、苦しい、痛い痛い痛い痛い痛い……!
『──悪いね、マリーちゃん。下手に私が出ていくと余計にこじれそうだから』
「……ぇ」
『きみにしかできないんだ。本当に申し訳ないとは思ってるけど……頼んだよ』
……だれかの声が……きこえる。
この……感覚は。
「……マリーちゃん? どうし……マリーちゃん!?」
「なっ……どうしたの!? しっかりして!」
夢の中に落ちるような、思い出の中に引きずりこまれるような。
そんな感覚が、した。
***
***
『──ねえ、ルーシー?』
『なあに、ミラ』
『人は、いつか死ぬんだって』
『……? そうらしいけど、なんで?』
『じゃあ、ルーシーは? ルーシーはどうなるの?』
『わたしは……さあ。知らないけど』
『吸血鬼って、寿命とかないんでしょ? それに怪我もすぐに治っちゃうし、病気だってあんまりならないんでしょ? じゃあ、ルーシーは……』
『……死なない、かもね。少なくとも、あなたより前には』
『えー』
『……嫌?』
『だって、ルーシー友達できないし』
『それが何か……いやそんなことないし』
『ボクが死んだら、ルーシーはひとりぼっちだよ。寂しく、ないの?』
『…………』
『ルーシー?』
『……見てて、ミラ』
『……? う、うん』
『光れ、想い朽ちるまで。守れ、命果てるまで。飛べ……その身が尽きるまで──!』
『──わ。すごいね、意識飛んでたかも』
『だ、大丈夫……?』
『うん。それより今のがあれ? えーと……』
『魔法で衝撃波を作ったの。詠唱はなくてもいいけど、あったほうが安定する』
『そうそれ。それでええと……何の話だっけ』
『ミラ。わたしが、あなたを守るよ』
『えっ?』
『何にだってあなたは殺させない。いつかお別れだったとしても、それまでにたくさん……たくさん遊べるように。そうすればきっと、ちょっと寂しく無くなるでしょ』
『…………』
『ミラ……?』
『……うん。そうだね』
『……!』
『たくさん思い出を作ろう。いつまでも持っていけるくらい、たくさん』
『うんっ!』
『──そんなもの、必要ない』
『──そんなこと、覚えていたくもない』




