ともだち
「いやー、結構食べたねー」
「ほ、ほとんど私が……うぷっ」
三人分である。
胃がはち切れそうだ。
相変わらず両脇を掴んでくれているクリスとイリーナちゃんのおかげで、なんとか歩けていると言っては過言であるが……。
「それにしても、キミたちはやっぱり仲が良いんだね。羨ましいよ」
「ふん」
「し、知りません!」
「ボクはすっかり嫌われちゃったみたいだけど。ま、しょうがないか」
「そ……そんなことは……?」
私たちの前を後ろ向きに歩きながら、彼女はへらへらと笑っていた。
……クリスとイリーナちゃんも、本気で嫌っているわけではないのだと思うけれど。
意地というか、なんというか。
ミラちゃんもそれは分かっているのかもしれない。
「……うん。本当、羨ましいくらいだ。マリーちゃん、一つ聞いてもいいかな」
「な、なに?」
「キミは、違和感とかないの? 今生きている自分の体が、自分の体じゃないみたいなさ」
……?
質問の意味を捉えかねた。
「いや……特に。私は私だし、不自由はないよ」
「そう」
彼女はそう言って、くるっと回り前を向いた。
まるで体ごと顔を逸らすみたいに。
違和感。
自分の体じゃないみたいな違和感?
……やはり、私には覚えのない感覚だけど。
「ね、ねえ。ミラちゃんは……」
「ボクにはあるよ」
「え……」
今度は首だけ振り向いて、じっとこっちを見つめてきた。
いや……睨んできた。
「時々無性におかしくなるんだ。ボクは、この体に生まれ変わってからこの歳まで生きてきている。少なくとも十数年間、ボクはこの体をボクのものとして扱っている」
「それは……そうだろうけど」
「それなのに。確かにそのはずなのに……ボクはたまにおかしくなるんだ。気持ち悪い、すごく気持ちの悪い感覚。頭や体がばらばらになって、記憶が保てなくなって、心がどこかに行くみたいな」
「…………」
ふと、鈍い思い付きのようなものを感じた。
一つの推測に過ぎない、それどころかまだ言語化すらできないあやふやななにか。
ただ、微かに感じられるのは……それが、恐ろしく気味の悪い事実だということで。
「そっか。そうだよね。キミは……やっぱりボクとは違ったか」
「ど、どういう……」
「キミを見ていて確信したよ。ボクは、キミを同類だと思って声をかけたけれど……むしろキミは、ボクの憧れに過ぎないんだって」
「……憧れ?」
その言葉が持つイメージからは、かけ離れた雰囲気を感じた。
憎悪? 嫌悪? 嫉妬? わからない。
どれでもあるように見えるし、どれでもないようにも思える。
「ああ、そうだよ。キミは……」
「やめなさい、ミラさん」
「……? 何かな」
静かだったクリスが、不意に声を上げた。
腹立たしさに何かが混ざったような声だった。
「見限ったならそれでいい。勝手に失望するのもいいでしょう。どうせ、この方は大したものを持ってはいませんから」
「く、クリス?」
庇うような言葉で貶された?
いや、そういうつもりじゃないんだろうけど。
……そういうつもりじゃないよね……?
「あなたは何を求めてマリーに声をかけたんですか。傷の舐め合い? もしもそうならお門違いです、それはわたしの役目ですからね」
「……ボクは」
「誤魔化さないで。ほんの少し傷ついたからって、心にもないことを言おうとしないで。わたしは、あなたみたいな人間が大嫌いです」
クリスが、彼女の何を見てその啖呵を切ったのか。
何を感じて、珍しく声を荒げるに至ったのか。
その真意は、今はまだわからない。
「…………」
「あなたがもし、マリーを傷つけるためにここにいるのなら早急に去りなさい」
「……クリス?」
クリスは私の腕を離して、彼女に歩み寄って行った。
それに倣ってか、イリーナちゃんも逆の腕を解放する。
場違いな解放感だ。それに浸っている場合でもないけれど。
「けれど、もしもそうでないのなら。例えばそう……本当に、友達を求めてきたのなら……」
「……きたのなら?」
「わたしに好かれるようになさい。そうでなければ、わたしのマリーには近付けさせません」
握手を求めるかのように、手を差し伸べながらそう言った。
いっそ清々しいほど束縛の激しい言葉だ。
なんかイリーナちゃんが得意げな顔をしているが、それはひとまず置いておいて。
「──あは。本当、仲良いんだね」
「当然です。婚約者ですから」
「へえ、そうなんだ。そりゃいいね、ボクもそうしたい」
「あ゛?」
クリスのこめかみに青筋が浮かぶ。
早まるな、多分そういう意味じゃない。
「そんなに警戒しなくても奪わないよ。できる気がしないし、そもそもボクには心に決めたひとがいるから」
「……そうですか」
「それより……うん。ありがとね、クリスちゃん。おかげでちょっとすっきりした、かも」
「……別に、そういうつもりじゃありませんよ。腹が立っただけです」
あ、照れてる。
さすがクリス分かりやすい。
「友達になりたいって言ったのは本当だよ。ボク、こう見えて友達少ないから」
「こう見えて……?」
「そこ突っかかる……? ひどくない……?」
そう言いながらも彼女は笑っていた。
先程一瞬見せた影は……やはり消え去りはしないけれど。
「それじゃ、改めてよろしくってことでいいのかな。ボクは……キミたちと友達になりたい」
クリスの手を握りながら、そう言った。
いにしえのゲーム風に言うのなら……ミラちゃんがほんとうに仲間になった、のかな?
***
***
『見て見て、これ』
『どうしたのルーシー……あれ? 肌、焼けてないね?』
『日光を防ぐ魔法。作ってみた』
『おー! ほら言ったでしょ、ルーシーならできるって!』
『まあ、だるさは変わんないけどね……。でも、もう昼間に外に出ても熱くないよ』
『やったね! それじゃほら、行こ!』
『ど、どこに?』
『ルーシーは友達でしょ? 連れて行きたい場所、いっぱいあるから!』
『…………。そっか』
『ん? 顔赤いけど、どうかした?』
『なっ……なんでもない! これはほら、えーと、顔だけ魔法を使い忘れたの!』
『そ、そっか……まあ、そういうことにしといてあげる』
『う、うるさいうるさい! 別にわたしはそういうんじゃないからね、ミラ!』




