ぱらどっくす
久しぶりの授業を凌ぎ、お昼の休憩時間。
相変わらず多くの生徒たちで賑わう食堂であっても、彼女を見つけるのにそう時間はかからなかった。
なんというか、すごく浮いている……。
「ん、マリーちゃんか。さっきぶりだね」
「ミラちゃん……。ええと、聞きたいことがあるんだけど」
「なんでも答えるよー。答えられることならね」
なんでもじゃないじゃないか。
そんな突っ込みはさすがにできなかった。
「まず、ミラちゃんには前世の記憶がある……んだよね?」
「うん、そうなるね」
「それってどんな風に?」
結局彼女はさっき、押しかけるだけ押しかけて大して何も話さずに別れてしまった。
自分から近づいてきた割に、積極的にことを進めようとしない。
焦ることでもないというスタンスなのか……とにかく、まずは彼女のことを知るのが第一だった。
「んー? んー……。例えばご飯を食べる時、こうしてキミと話す時、眠った時に起きる時。消えるわけでも現れるわけでもなく、いつでもずっとそこにある。……そういう感じじゃない?」
……迂遠な言い方だ。
つまりはそれを思い出すというより、そこにあって当たり前のもの。
地続きの記憶ということだろうか?
例えば物語でよく見る記憶喪失のように断片的なそれではなく、確固とした自我として。
前世の私と今の私が、死を挟んでもなお同じ直線上にいるように?
……こんがらがってきたな……。
「つまり、前世と現在のあなたに大きな違いはないということでよろしいでしょうか? 前世で生まれ、そして死に、今世で生を受けて現在に至るまでずっと同じ意識を持ったままと?」
「そーだね、そんな感じ。前も今もボクはボク、多少の差はあれど同じボクだ」
クリスが引き継いでくれた。
それなら、状態としては私とほぼ同じと見ていいだろうか。
一度死んだ後、たまたま続いた自我。
眠りについて目覚めた時と同様に、ほとんど全く同じ自分がそこにいると。
「す……すみません、ちょっと待ってください」
「イリーナちゃん? どうかした?」
未だに私の腕を掴んだまま、イリーナちゃんは口を挟んできた。
……逆側にいるクリスからずっとほのかな殺意を感じるのだけど、そろそろどうにかしてくれないだろうか。
「よくわかってなくてごめんなさいなんですけど……ミラさんって、本当に一度はその……」
「死んでるね。濁さなくってもいいよ、話がややこしくなるだけだし」
「は、はい。すみません。……一回死んじゃってるってことは、その体って……?」
「……まあ、体は違うね。多少似てはいるけど、前のボクと形は違うよ」
ミラちゃんの瞳がぴくりと動く。
私も私で、イリーナちゃんの言わんとすることはなんとなく察した。
「それって……どうなんですか? 体が違ってて、それでもミラさんがミラさんのままってことはありえるんですか? もし、記憶がおんなじだったとしても」
テセウスの船。
たしかそんな感じの名前だったはずだ。
手も足も脳も内臓も、何もかも前世とは違っている。
けれど、記憶だけは同じ……裏を返せば、記憶以外で自分が自分であると証明する手段がないとして。
それは、本当に同一人物だと言えるのか。
『自分』の記憶だけを持った別人、そう考えることもできるのではないか。
……まあ、これは私にも同じことは言えるけれど。
ともかく、そういう疑問。
前世とかそういうことを考えるに当たって、切るに切れない問題を……。
「さあ。知らない」
「え、ええ……?」
「てかまあ、わかんないよ。そんなこと言い出したらきりなくない? ボクはボクこそがボクであるとボク自身が認識している、ならばボクはボクだ。それ以外の答えとか出しようもないし」
……あっさりと、切って捨てた。
というかまあ、実際それ以上の思考は無駄だった。
だって確かめる手段もないし。
記憶のDNA鑑定でもあれば別だけど。
自分が本当の自分であるかなんて、自分じゃ分かりっこない。
ならば自分が自分と認識している自分が自分である、そういう結論に辿り着くしかないのだ。
……ややこしいことこの上ないけど、要は『彼女』は『ミラ』だった。
『マリー』が『私』であるのと同様に。
まあ、そういうことでいいんだろう……。
「そ……そうかもしれません。すみません、変なこと聞いて」
「あー、いーよいーよ。ボクだって実際よくわかってないしね、どうしてここにいるのかとか」
「どう……して?」
彼女は手に持ったスプーンをくるくるさせながら、また気になることを呟いた。
あ、私たちも何か食べなきゃ……。
「実はさー、そこに関してはあんま覚えてないんだよね。自分が生まれ変わったってことは認識してるけど、どこでどう生まれてどういう経緯でここにいる……とかそういうことはぜーんぜん」
「それって……記憶喪失じゃ」
「んー、そうかも。だからねー、マリーちゃん?」
「な、なに……? あっちょ痛っ痛いって」
ミラちゃんの顔が間近に迫る。
ほとんどガチ恋距離だった……が雑念など入る余地はない。
両脇から、両腕が、痛い痛い痛潰されるっ!!?
「そこも含めて、仲良くしてほしいな。ちょっといろいろ教えてほしいんだよねー」
***
***
『ルーシーってさあ、なーんか暇そうだよね』
『そ、そう……? そんなことないと思うんだけどな……』
『だってほら、昼も夜もずーっと起きて、なにしてるの?』
『……なにも』
『ほらやっぱり。なんで?』
『だ、だって日光は焼けちゃうし……かといって夜は暗いし寒いし……』
『大変だねー、吸血鬼って。どうにかできないの?』
『どうにか……?』
『ほら、できそうじゃん。魔法? だっけ? ああいうのでほら、日光を防ぐ魔法! みたいな?』
『そ……そんなのできるかな……』
『できるできる! ボクが保証するよ!』
『いや、なんでそんな自信たっぷりなのさ……』
『だって、ルーシー暇そうだし』
『答えになってないよ!』




