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悪役令嬢に百合営業をしかけたら本気にされてペットにされました  作者: らびえ
番外編

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112/161

かつての友人

 ***


 ***






 ……懐かしい。

 とても懐かしい景色の中に立っている。


 けれど、思ったように体は動かない。

 確かにそこにあるはずのものが、透き通って消えていく。

 足元はおぼつかないし、頭もなんだか働かない。



 ……ああ、これは夢なのかな……?


『ねえ』

『……っ!? な……に……?』


 驚きが二重に走った。


 一つは、紛れもない幻影に話しかけられたこと。

 もう一つは……それが忘れられない、忘れられるはずもない人物の姿だったこと。


『キミ、大丈夫? 変な顔してる』

『へ、変って……いや、そんなことより』


 なぜ会話している。

 なぜ、今更彼女が。

 なぜ、なぜ、そんな混乱ばかりがあった。


『あっはー、まさかまだ迷ってるとか? 心配性だなあ、ボクは大丈夫だって』

『……そりゃ……心配はするでしょ』


 当時の光景が、意識的に思い出すまでもなく想起される。



 そうだ、わたしはあの時。


『ねえ』

『うわっ!? う、後ろにも……!?』

『なんで?』

『え……?』


 現実的ではないことが平気で起こる。

 当然だ、これは夢なのだから。

 ……あるいはこれは、後悔なのかもしれないけれど。


『助けて』

『ひっ……!?』


 足元にも彼女が出現する。

 最期に見たそれと同じ、血塗れで無様な姿だった。


『なんでわからないの』

『や、やめ……やめて……』


 横にも。


『止めてほしかったのに』

『そんなこと……言われても……』


 上にもだ。


『ねえ』『ねえ』『ねえ』『ねえ』

『ボクは』『キミは』

『まだ』『なんで』

『死にたくなかったのに』『助けてくれなかったの』

『友達じゃ、なかったの?』


 それは、確かに言われた言葉だった。

 いや、ただの幻影の妄想だった。


 彼女はそんなこと言わない。

 わたしが勝手に怯えてるだけだ。

 死者は喋らない、動かない、脅さない、怖がらない。

 だから、なにも、なにひとつ……。


『なんで?』

『や……やめ』

『ボクとキミは、友達じゃなかったの?』

『…………やだ』


 逃げられない。

 埋め尽くされていく。


 今となってはかすかな思い出が、思い出したくもなかったそれが、少しずつ塗り替えられていく。

 きっと楽しかったはずなのに、最後の最期に聞いたそんな言葉が……何もかも全てを覆い隠す。


『いいよ。キミのことなんて知らない。……さよなら、ルーシー』






 ***






「…………」


 痛む頭を、そっと抑える。

 自分の真っ白で長い髪が、今に限ってはうざったい。


 控えめに言っても最悪の寝覚めだった。

 マリーちゃんたちの件が落ち着きを見せて緊張が解けたか……だから今更あんな夢を見たのか。

 ……本当に、それだけかな……。


「んあ……ルーシー? どうかした?」

「ソフィア……いや、なんでもないよ。ボク(・・)は平気」

「……そう」


 時に怠惰にさえ見える彼女は、そのまま再び目を閉じた。

 別に咎めるつもりもない。

 時間なんて普段は余り過ぎている、無駄にするくらいでちょうどいい。


「……マリーちゃんたちのとこ、行ってくる」

「んー。私も気が向いたら行く」

「はいはい、行けたら行くんだね」


 ボクは知っている。

 これは来ない。

 絶対に、絶対に来ない。

 断言できる。


「失敬な、いつだって行こうとは思ってるよ。思ってるうちに夜なだけで」

「はいはい」


 適当な生き方を。

 まあ、ボクに言えたことでもないけれど。


「いってらー」

「いってきます」






 ***


 ***






「ねえねえ、マリマリ」

「どうしたクリクリ」

「なんですかその呼び方」

「えっそっちがそれ言うの?」


 いや、まあいいけども。

 何が言いたいんだ。


「やっと。やぁーっと、また授業が始まりますね」

「まあ……うん」


 長い、長い休みだった。

 危うく私自身、私が学生であることを忘れかけたレベルだ。

 そういえば、学生の本分は勉強だったなあ……。


「しかし、こんなに人が少なかったでしょうか?」

「ああ……まあ、色々あったし。事情は人それぞれなんでしょ」


 クリスと一緒に席に着いた教室内で、改めて辺りを見渡す。

 決して少なくはないものの、それでも以前と比べると明確に人が減っていた。


 寂しいが、まあしょうがない。

 クラスメイトのナントカ君もカントカちゃんも、絶対に忘れない……!


「さすがはマリー。いかに周囲の人が減ろうと、揺らぐことはないのですね」

「うーんなんか気になる言い方……」

「友達すっくないですもんね」

「すっくないとか言うな!」


 い、いるし!

 多少はいるし!

 わずかにいるし!

 いなくはないし!!


「──おはようございます、マリーさん!!!」

「あ、おは……おっふ」


 『マリーさん』の『さ』のあたりで、数少ない友人の一人が突貫してきた。

 脇腹に。

 ……正直ほんの一瞬三途の川が見える勢いだった。


「朝から元気ですね、イリーナさん……」

「あ、クリスさん! クリスさんもやりますか!?」

「丁重にお断りいたします」

「そうですかー……」


 めっちゃ残念そうにしている。

 が、それはそれとして。


「イリーナちゃん、アンさんは?」

「別の教室です! 本当は一緒に受けたかったんですが、どうしても時間割と合わなくって……」

「ああ、そうなんだ」


 まあ元気ならよし。

 また前みたいに、気づいたら避けられてたなんてごめんだからね……。


「あっ、そうだマリーさん!!」

「な、なに? 声大きいよ……」

「実は、マリーさんとお近づきになりたいという方がいらっしゃいまして!」

「……?」


 お近づき?

 ど、どういうことだ……?


「詳しく聞きましょうか、イリーナさん」

「んえっ? あっ、す、すみません、そういう意味じゃなくってですね。マリーさんの知見というか、経験といいますか……つまるところそういう(・・・・)話でして……」


 ……ああ、なるほど。

 クリスからものすごい殺気を感じたが、それはとりあえずしまってもらうとして。


 そういう(・・・・)話。

 人が集まるこの場では大きな声では言いにくい、ちょっとばかり複雑な話。

 転生だの転移だの、異世界だの別世界だのという意味だろう。

 ……また厄介ごとの匂いがするんだけど……。


「ま……まあ、そういうことなら」

「ありがとうございます! ではお呼びしてきますね!!」


 イリーナちゃんは先ほど突貫してきた時と同じように、すばしっこく走り去っていった。


 頭を抱えたくなる衝動をなんとか抑える。

 正直関わりたくない……関わりたくないけど、見過ごすこともできない……。


「ま、マリー……。わたしがついていますから、ね?」

「ありがと、クリス……」


 そうしてクリスと一緒に待つこと数十秒。

 私たちのところに、一人の女の子が近づいてきた。


「──や、はじめまして。ええと……キミがマリーちゃんって子?」

「え……ええ、はい。はじめまして」


 真っ先に目を引いたのは、硝子細工のように繊細な色の瞳だった。

 それなりの長さの赤毛をくりっと結っていて、着ている服はやや大きめ。

 身長は……クリスや私よりは少し小さく、イリーナちゃんよりは少し大きいくらいだろうか。


 美少女という表現がぴったりと似合う──もちろんクリスには及ばないけれど──そんな彼女は、どこかで聞いたような口調で喋り出した。


「そっか。ボクの名前はミラ、よろしくねマリーちゃん」

「あ、うん……よろしく」


 ……隣のクリスが何も喋らない。

 というか固まっている。


 その理由はなんとなくわかった。

 おそらく、私と同じように……ミラと名乗った彼女から、知り合いと同じ雰囲気を感じ取ったからだろう。

 

「で、早速で悪いんだけど……キミ、前世の記憶があるって本当?」

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