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悪役令嬢に百合営業をしかけたら本気にされてペットにされました  作者: らびえ
番外編

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いつかまた出会えますように

「…………」


 ……真っ白な世界。

 上も下も右も左もなく、ただ存在だけがある空間。


 ……またか……。


「よう、元人間」

「お前なあ……。とっとと戻してよ、私は疲れてるの」


 相も変わらず癪に障る神は、へらへら笑いながら──実際のところこいつに表情なんてものがあるのかどうかすら判然としないが──現れた。



 どうもこの場所には、私の肉体が存在するわけではないらしい。

 なので眠気なんかは感じていないが、それはそれとして疲れは疲れだ。


 今日一日、平穏に過ごした。

 笑えちゃうくらい平和で、特に何の動きもない日常は、ただあっさりと通り過ぎた。

 いつも通りクリスと目覚めて、一緒に過ごして、眠りについて。

 その間に起きたあれこれを反芻する間もなくこれだ……全く不愉快極まりない。


「そうつれないことを言うなよ。何も私だって用もなくお前を呼び出したわけじゃない……伝言があるんだ」

「……何?」

「『もしも許されるのならば、いつかまたどこかで会いましょう』だとさ」

「…………」


 誰が、どういう意図で。

 それはまた、考えるまでもないことだ。


「神を仲介に使うなんてな。贅沢なやつだ」

「……そうだね。本当に」


 贅沢なことだ。

 とても欲張りで……どこか物悲しいことだった。


 だってそれは、その意味するところは。


「傷の舐め合いでもしたいのか? 互いに伴侶を失ってからなんて、よくもまあ」

「やめろ」

「……ふむ、言葉が過ぎたな。だが事実だろう?」

「…………」


 終わってみれば、今回の件はあっさりと終局を迎えた。

 けれどそれは、裏を返せば……想像以上にあっさりと、かつ理不尽にそんな日常は崩れ去るってこと。


 当然のことだ。人はすぐ死ぬ、言うまでもない。


「別に今の伝言を果たそうと果たさなかろうと変わりはしないさ。どっちでもいい、あえて言うならどうだっていい。あいつだって本気で言ってはいないだろう」

「…………」

「その気があればそうするといい。もしもなければそれまでだ。ま、好きに考えるんだな」


 そう、考える時間はたっぷりとある。

 それもまた、自明のこと。


「それでも今は……あの子と離れるようなことは、想像できないよ」

「いつかそうなると知っていてもか」

「……っ。それの何が悪いの」


 本当、不愉快極まりない。


「どうだかな。ま、用件はそれだけだ。お望み通り元の場所に……」

「……そうだ、神」

「なんだ」


 だが、それはそれとして。


「ありがとう。あの子を……クリスさんBを呼んでくれて。……助かった」


 あの子が自分から来るわけはない。

 世界同士を移動するなんてそうそうできることでもないし。

 意図はどうあれ、協力してくれたのだろう。


「怒らせると面倒な相手が複数いたものでな……よいご友人をお持ちのようで何よりだ」

「そりゃどうも」


 ルーシーちゃんかソフィアさんか。

 ひとり別行動をとっていたようだし多分後者だろう。


 今度またお礼を……言っておきたいところなのだけれど、あのひと中々会えないんだよな……。

 ルーシーちゃんに伝えておくか。


「じゃ、またな」

「あんま呼ぶなよ面倒臭い」






 ***


 ***






 曇天の下、時折差し込む日差しを気にしながら歩く。

 浴びたところで大した負荷はないけれど、まあ気分の問題だ。


「……さてと、今日はどこに向かいましょうかね」


 誰に話すでもなくひとり呟く。

 誰かと話すとすればそれは……いや、期待するものでもない。


 想うのは勝手。

 想ってほしいとまで願うのは強欲すぎるというものだ。


「しかし、この世界のこの土地は……この髪だといささか目立つような……」


 読んで字の如くの世界旅行。

 吸血鬼の力と余りに余った時間を活用し、あちらこちらを転々として流れ着いたこの地。


 気に入った理由は、どことなく空気があの人(・・・)と似ていたから。

 未練がましい自覚も、今となっては苦笑に変わる。



 違う可能性を見られたから。

 ほんのわずかでも、私にとって何の利にならなかったとしても、あのひとの役に立てたから。


 あるいは……?


「……まあ、変えるのも面倒です。このままでいいでしょう」


 旅をする理由は何だろう。

 今日を生き、歩く理由は何だろう。


 わからない。いや、今はわからなくともいい。

 生を保つことに苦悩はあっても、本当の意味での苦労はそうそうない。

 それを知れただけでも収穫だった。


「──おや?」


 他愛もないことを考えながら歩いていると、冷たい雫が頬を打った。

 降り出した、それを理解する。


 しかし、ルーシーさんも気が利かない。

 あれだけ永く生きているのなら、雨に打たれない魔法くらい作っていてくれればいいのに……。


「傘……いえ、そこまでは必要ありませんね」


 まあいいか。

 あの少女と次にいつ出会うかも知ったことではない。


 ……もう一度あの人と出会えるよりは先だろうか。

 あるいは、そんな日は永遠に来ないかもしれないけれど。


「しかし、ううむ……この辺りだとは思うのですが……」


 巨大な石と鉄の塔が辺りを囲む。

 車輪のついた金属の塊は広々とした通りを駆け抜け、こそばゆいものが宙を飛び、道ゆく人はみな小さな機械を手に持っていた。


「まあ、気長に歩きましょうか。……どうせ時間だけはたっぷりとあります」


 限りない生を歩むため訪れたこの地で、とうの昔に亡き婚約者の面影を探す。

 なんとも無意味で、無慈悲で、途方もない旅路だろうか。

 最近ようやく楽しみ方が見えてきた……ような気がしないでもない。


「そちらもちゃんと生きていてくださいね、マリーさん」


 また一つ、役に立てたのかな。






 ***


 ***

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