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悪役令嬢に百合営業をしかけたら本気にされてペットにされました  作者: らびえ
番外編

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101/161

わずかな希望?

 ***


 ***






「ちっ……いつ起きんだよ、こいつ」

「落ち着け、まだ少ししか経っていないだろう」


「知るかよ……。起きねえしここに置いていけばいいんじゃねえの、こんな奴」

「そんなこと言うな、タケ。あんたも俺も色々あったんだろうが……少なくとも今、彼女は俺たちの敵じゃない」

「だからって味方でもねえだろうよ」

「昨日の敵は今日の友って言うだろ」


「うぜえ屁理屈を……。大体俺らがしたことって何だ? ただの国家反逆行為じゃねえの?」

「……まあ、そういう言い方もできるだろうが……。実際、俺もあんたもこの国に大した思い入れはないんじゃないか?」

「そりゃ別にねえよ。ねえけど、こんなことするメリットは何だって言ってんだ」

「…………」


「死刑なんだろ? どうせ色々やらかしてたってことだ。俺らが手を下すわけでもなかったし、こいつが消えるなら俺もお前も万々歳じゃないか」

「……そんなことを言うな。俺だって思うところはあるが、それはその死刑っていう結末に対してもだ。彼女は……確かに色々あったのかもしれないが、悪いひとじゃないよ」

「どこがだよ」


「……上手く言えない。でもな、タケ。そもそも、俺らにはそんなこと関係ないだろ?」

「…………」

「俺らにだって事情があった。このひとをあのまま殺させちゃいけない理由がな。それに……お前も、なんだかんだ悪いやつじゃないだろ?」


「……うぜえよ、クソデカ野郎」

「ジャンだ。さっき名乗っただろう」

「そんな綺麗事いらねえんだよ。実は悪人じゃねえとかさ。殺人事件の被害者に、でも加害者は悪い人じゃなかったんです〜あんたの運が悪いんです〜ってか? クソくだらねえ」

「……タケ……」


「それこそ関係ねえんだよ、そんなこと。悪は悪だ。憎まれるべきだし、憎むべきなんだよ。その方がちっとはマシになる……次に同じことが起きる確率を、もしかしたら減らせるかもしれねえだろ」

「…………」

「こいつはこのクソみてえな世界を生んだ。で、自分は好き勝手しておいて他は知らんぷりだ。俺は……いや、あいつらまで惨めに生きさせやがって……」

「あいつら……?」

「お前には関係ない。はあ……クソ、最悪だ。前もそうだが、何様なんだよあのガキ……」



「……確かに、そうかもな。悪は悪として憎まれるべき。その考えはわからないでもない……でも、タケ」

「何だよ」


「俺にはできないよ。もし、彼女が本当に許しがたい悪なんだとしても……悲しみがどこかで生まれるような形で、彼女を裁きたくはない」

「…………」

「悲しみ……いや、ちょっと違うな。心残り、と言い換えよう。俺もお前も、このままじゃ納得できないだろ……違うか?」



「…………。こいつ、叩き起こすぞ」

「た、タケ。だから乱暴なことはあまり……」

「違えよ、死なれちゃ困るからだ。下手すりゃもう一人の方もやらなきゃなんねえんだろ? 時間がねえ」

「……! そ、そうだな……!」


「……ちっ。死ぬまで憎めっつったのはそっちだからな……!」






 ***






 ……声が、聞こえた。

 目を開き、顔を上げる気までは起こらない。


 思考がろくに巡らなかった。

 私はどうなった、ここはどこだ、今はいつだ。

 ……クリスは……どこに。


「──おい。起きろよ」

「…………」

「起きろって」

「……っ。……?」


 何者かに、頬をぱしぱしと引っ叩かれた。

 軽い痛みが、感覚が、ここにいることを知覚させる。



 ……まだ……生きてる?


「マリーさん! 目が覚めたか!?」

「う、く……っ。……じゃ、ジャンさん……?」


 やたらと眩しい視界に、見覚えのある巨体が映った。


 巨人族の若者、ジャンさん。

 なぜこんなところに……?


「やっとか……ったく、呑気に眠りやがって」

「っ!? な、なんで……!」

「なんでお前がここに、ってか? ちっ……お前含め、お前の周りにはろくなやつがいないってことだよ」

「はあ……?」


 ……かつて、別の世界の私を殺した張本人。

 仮に世界Bとするそこでは、私とクリスが喧嘩別れをする原因を作った。



 私は彼を許さない。

 そして向こうもまた、私を憎んでいるだろう……そんな男だ。

 彼までがなぜ……!


「タケ……そんなんじゃ通じないだろ。ええと、マリーさん。あの白髪の子……ルーシーさんと言っていたな。彼女とは知り合いなんだよな?」

「ルーシーちゃん……? まあ、うん。友達だけど」

「彼女が俺たちをここに呼んだんだ。俺たちは、あんたを救いに来た」

「なっ……」


 ……死刑。

 そうか、私は死刑を執行される直前になって。


 ……どうなったんだっけ……?


「……すまない、混乱するよな。実を言うと俺らもそこまで事情は知らない……ただ、俺らにも俺らなりの理由があってあんたを助けることになったんだ」

「あのクソガキ、俺の妹二人を人質にとりやがったんだよ! てめえを助けりゃ解放してやる、やらなきゃずっとこのままだってなあ!」


 タケと呼ばれた男は、唐突に感情を爆発させた。


 そういえば名前は知らなかったな。

 妹がいたのか。

 それに人質とはなかなか強引なことを。

 事情……事情……?



 ……駄目だ、頭がごちゃごちゃする。

 うまくまとまらない。


「落ち着いてくれ、タケ……それでマリーさん。あんたの婚約者のことなんだが」

「……っ! く、クリスは! クリスは無事なの!?」


 状況は分かりにくい。

 だが、少なくとも今の二人から敵意は感じなかった……タケくんからの殺意は感じるけれど。


 それでも、今のところ彼らに直接危害を加えられることはなさそうだ。

 朧げに思い出せる最後の記憶……あれが確かならば、私は本当に間一髪の状況から救い出された。

 完全に信用はできなくとも、少しは信じてみるべきだろう。



 何より、今はまずクリスのことを考えなければ。


「それが……分からない。ルーシーさんともう一人、アンさんと言っていたか? 彼女らも急いでいたようで、あまり詳しくは聞けなかったんだ。なんとか分かったのは、あんたらが冤罪で死刑にされようとしているってことだけで……」

「本当に冤罪かは知らねえけどな」

「タケ。今はその話をする時じゃないよ」

「へーへー」


 ジャンさんとタケくん、やけに仲がいいな。

 知り合いだったのか?

 多分そんなことはないと思うんだけど……。


「……とにかくだ。マリーさん、あんたの婚約者……クリスさんだったか? 彼女もどこかに囚われているんだな?」

「……うん。間違いなくどこかには」


 言いながら周りを見渡す。

 意識していなかったが、ここはまだ室内……埃をかぶったものがいくつか置いてあるのを見るに使われていない倉庫か何かのようだった。



 だが、妙に明るく見える。

 眩しいくらいだ。

 壊れ気味の窓から日光こそ差してきているけれど、明るさはそんなにないはずなのに……。


「ならまずは……」

「……あれ?」

「ん? どうかしたか、マリーさん?」


 ……いや、それよりも。

 何か一つ見落としているような気がする。


 一つというか、ひとりというか……。


「じゃ、ジャンさん。二人に、私たちのことを言いに行ったのって……誰?」

「……? ルーシーさんとアンさん、だったかな。ええと、白い髪に赤い花の髪飾りをつけた女の子と……」

「やたら背の高い女。それがどうしたってんだよ?」


 確かに、そのふたりか。

 ……別れる前には確実にいた、ソフィアさんは……?


「…………。もしかして……いや……」


 何か考えがあって、あえてルーシーちゃんたちと行動を別にした可能性。

 この状況ではそれが一番しっくりくる。


 だが……断定は危険ではないか。

 私は別に彼女のことを深く知っているわけでもなんでもない。

 血の繋がり──吸血鬼的な意味で──はあるけれど、だからって知り合ってからの日数はそう長くはない。



 ……何を考えても推測にしかならない。

 そんなものに命を……他ならぬクリスの命を預けるのは……。


「…………」


 考えろ。

 何が一番マシになる。



 私はどうするべきだ?

 どうすればクリスを助け出せる?

 いや、仮に助け出したところで……。


「マリーさん……? 何か考えがあるのか?」

「……なくはない、けど。危険な賭けっていうか……うーん……」


 彼らやルーシーちゃんたちのおかげで、辛うじて命を繋いだ。

 あそこで終わりだと思っていた道は、未だ闇の中であっても続いている。



 けれど……それだけじゃ、やっぱり駄目なんだ。


「うざってえ言い方すんじゃねえよ、クソ女」

「タケ……だから口が悪いって」

「うるせえ、迷ってねえでとっとと話せ。俺がどんだけ我慢してここにいると思ってる?」

「タケ……全く」


 確かに、迷っていられるほど時間はない。


 これは賭けだ。

 人任せの運頼りでしかない。

 けれど……この賭けが成功しないのなら……!


「……協力して、二人とも。多分、私ひとりじゃ辿り着けないから」

「ああ」

「ちっ……」


 長々と説明しているわけにもいかない。

 だから、とりあえずのところは簡潔に。


「直談判、しに行くよ」

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