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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

散華ーある悪役令嬢といわれた妹の手記

作者: 離砂

 散華、散る華のようでいい。

 これから私がすることは罪と人々は言うでしょうが……。

 私はただ愛がほしかっただけ。


 そうですね、私の人生を語りましょう、あなたはご存じだとは思いますが。

 私はある侯爵家の次女として生まれました。

 私には姉が一人おりました。

 姉はとてもやさしく麗しく、慈悲深く、まるで聖母のような人と言われておりました。

 

 私はそんな姉が自慢で、私をかわいがってくれている姉を見上げて笑いかけると、姉も笑ってくれる。

 そんな日々を幸せと思っておりました。


 ええ、四つ上の姉は本当に完璧な人でした。

 それに比べ私は……出来損ないといわれておりました。


 両親は姉一人を愛し、私を出来損ない、どうしてお前みたいな子が生まれたのかとなじりました。


 しかし姉は違いました。


 あなたはやればできる子よと優しく微笑んで、いつも頭をなでてくれたのです。

 ええ、まるでそれは聖母のような笑みで。


 私は頑張りました、しかしそこそこはできても、姉には敵わず、魔法のお勉強でよい点数をとっても、姉のほうがよかった。その年でそれしかできないとはといわれ。

 魔法力は姉に対して劣っておりました。

 

 容姿もごわごわの髪、茶色の目、顔にはそばかす。

 両親にはちっとも似ておりませんでした。

 姉の柔らかくさらさらな金色の髪、優しい青の目とは違いました。

 白肌をうらやみ、おしろいを塗り、顔中が真っ赤に荒れたとき、姉は大丈夫よと優しく微笑んでくれました。


 ええ、私はあの時が来るまで、姉の愛を信じておりました。


 両親に愛されてなくても姉の愛があればいいと……。ええしかし、ある時……。


 そして私が十三、姉が十七になったときでした。

 姉は王太子殿下の婚約者に選ばれました。

 王太子殿下は私たちの従兄に当たる方で、館にはいつもお忍びで遊びに来ていたので、これはもう決められたことと人々は言いました。


 王太子殿下は姉以外で、はじめて私に普通に接してくれた方でした。

 レディーの扱いをしていただき、手には口づけを、名前を呼んで笑いかけてくれました。

 ええそれだけで舞いがった私、普段からどんな扱いをされているのだということです。


 いつの間にか私は従兄である彼を慕うようになっておりました。

 だから……姉の婚約者に彼が決まった時、少しだけ泣きました。

 でもお姉さまが相手ならいいかと思うようにしたのです。


 そして……。


『ごねんなさいね、私が王太子殿下にとついだら、あなたをかばってあげられる人がいなくなってしまう……』


 姉がこの一言を言ったとき、私は姉が、そう姉の唇の端に笑みを見たのです。

 どこか嘲るような……両親が私によく見せるその嘲笑。


 そこから私は姉の顔や声音をよく見るようになりました。

 ……気のせいだと思いたかったのです。でも違いました。

 いつもいつも姉は優しく笑っていました。でも目が笑っていません。

 どこか……空虚というか、愛なんて欠片もないそれは目でした。


 姉はいつも鏡をみておりました。そして満足気に笑っているのです。

 ……私はそれを気のせいだと思うようにしていたのですが。

 ある時……それは気のせいではないことを思い知ったのです。


『うふふ、誰よりも美しい、それは私、あのバカな妹よりもずっとずっとずっと美しい、あんな醜いものは見たくないわ。もうすぐあれを……』


 そう姉は魔女でした。

 古の鏡に己の美を語り掛ける魔女でありました。

 いつもいつも鏡を見て、姉は笑っておりました。

 己の美を誇り、そして己の美を礼賛する。古の魔女は己の美しさを鏡に語りかけたというお話がありました。その魔女のようでした。


 私は姉が私を愛していないことを思い知りました。

 そして観察していてわかったのですが、姉は両親すら愛していないということもわかったのです。

 両親もいつものうつろな目で見ているのです。

 鏡を見ているときの輝く目とはそれは違いました。


 世界が暗転しました。


 姉は王太子殿下を見るときも虚ろな目をしているのです。

 愛していると囁きながらも……。

 姉は誰も愛してはいない。王太子殿下すら愛していない。

 

 姉は……己しか愛せない人だったのです。


 それを知った時私は絶望しました。

 誰より優しく麗しい自慢の姉の愛は己にしか向けられない愛だったのです。


 王太子殿下を愛していない、なのになぜ婚約したのか? 私は姉に問うてみることにしたのです。

 すると……。


『あら、ようやくわかったの? 私は誰も愛していない、あなたのような醜い妹、誰が愛するものか、王太子殿下と婚約するのは、私の美をもっと高めるため、そう王太子殿下に嫁げばもっといい化粧品、もっといいアクセサリ、もっといいドレス、もっといい美容法を試せるでしょう? 私の美のためよ』


 そう姉は言い放ったのです。


 そういえば、我が家の財政はずっと下がり続けておりました。

 そう、姉が新しいドレスを仕立て、新しい装飾品を買い、新しい化粧品を買い、そして新しい美容法を試し……そうするうちに侯爵の家といえども財政が傾くまでになっていたのです。

 帳簿をみて私は愕然としました。このままだとわが家は破綻する。姉一人でこうでした。


 そして……私はある決意をしたのです。



 多分、この手紙を読むのは、従兄殿あなたしかおられません。

 これは真実か? と言われたら、どうこたえるのかはあなたにお任せします。

 さようなら、従兄殿、私はこれからあの魔女を殺しに行きます。

 そして身内殺しは死罪、連座です。両親も……。


 しかし後悔は致しません。

 私は……あなたのいるこの国を守りたかった。

申し訳ありません、あなたは姉を愛していたのに、私は……。

 私は、私は。


 銀の短剣であの人は殺せるでしょうか? いえ他にも罠を仕掛けました。

 従兄殿、どうかどうか……もし、もし、私のこの手紙を信じてくださるのなら、小さな従妹を憐れと少しは思ってください。

 申し訳ありません。姉殺しと呼ばれても私はあなたを守りたかった。

 申し訳ありません。ああ、来ましたわ、これで終わります。

 ではお元気で……愛しい愛しい従兄殿。

 

お読みいただきありがとうございます。

評価、ブクマなど頂けると励みになりとても嬉しいです。よろしければどうぞ宜しくお願い致します。

リクエストあれば別視点のお話も投稿します。宜しくお願いします


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