1.ひたすらに現実は見たくない。
─────…知らない天井だ。
…そんな某アニメの名台詞が、何の躊躇いもなくするっと出てくるのは仕方ない。
私が混じりっ毛無しの完全なるオタクだからだ。
そして視界いっぱい広がる天井に掛けられた、繊細な技巧を数々を施し、朱色に金の糸で花々を描くこの贅沢を極めた何やら煌びやかで物々しい天蓋にも一切に見覚えはないのだから。
そもそも部屋に天蓋とかホコリ積もって手入れめんどーなんだよ、
…なんて思いながら身体を起こす。
決して現実逃避している訳ではない。
うちの高級ベットよりは身体にジャストフィットしてないものの、それなりに寝心地の悪くないベットから身体を起こして部屋の状況を見渡した。
脱出ゲームにしては夢系女子の部屋過ぎるし、並んだぬいぐるみに見覚えもない。
そもそも、だ。
うちのヌイ様(※キャラクターをデフォルメしたぬいぐるみ)にはクローゼットにCP毎に仕切られた各部屋でお休み頂いてるので、部屋に晒す趣味はない。
なんのコラボでもないぬいぐるみを置くほどの心とスペースに余裕はない。
それに30年近くリア充に擬態している私の部屋は某北欧系で揃えられているから、こんな部屋では無いのだ。
ふと、金装飾に縁取られた鏡の前で足が止まる。
いや、むしろ思考も止まる。
桜色にゆるくカーブを描いた髪は鎖骨の当たりまで伸びており、長い睫毛に縁取られた二重の瞳は空色。
まってまってまって!!!!
最推しCPの旦那と嫁のカラーが目の前で共存してるだと?!
けしからん!!!
非常にけしからん状況だ!!!
オマケに天然物で長い睫毛とか
二重テープなしでくっきり二重とか、
天才なのか…?
感動のあまり鏡に手を当てると
鏡の向こうの手のひらと重なる。
ほほう、VRか。
いいセンスだ。悪くない。
しかも作画が某アイドルアニメを担当されている雪子先生だと!!!
ウマウマ過ぎる案件に膝から崩れ落ち、思わず咽び泣いた。
良物件過ぎて泣いた…。
「お嬢様っ!!!!」
床に転がりうち震える私を抱き起こすようにして、クラシカルメイド様が私の視界に入る。
やべー美人キタ。
エプロンのレースも足枷の布もセンスの塊じゃないか。製作者かもんぬ!
妄想は爆走気味ですが、皆様ご安心ください。
これは全て心の声。
長年の擬態歴により眉一つ動かす事なく妄想を展開させる事など雑作もないのだ。
そうこうしてるうちに未だ無表情のままの私をメイドさんが抱き上げた時、ふわりと揺れた視界の中にピンクの前髪が映り込む.
そのピンクの既視感に、ざわりと胸が震え肌が粟立つ感覚を覚えながら遠回しな現実逃避を止めて私は全てを察してしまった。
あれはVRではなくて
──────…私本人?
すると流行りの転生ものに転生したということ、…なのか?
ベットに私を戻すと部屋を出ていったメイドさんが、いかにもな老医師をつれてわちゃわちゃやってるが、そんな事はどうでもいい。
正直、どうでもいいのだ!
──────…やってしまったのか。
そう、私は完全にやってしまったのだ。
でも何故だ?
人なんか助けて死んだりするタイプでもないし
過労で死ぬほど労働にやる気を見い出せるドMでもなければ、誠実性が高い人間でも無い。
十数年待たされた某アニメ映画ののラストが公開前なのに…
アプリが終了して絶望にくれたゲームがコンシューマゲームとして戻ってきてくれた!そんな大切なゲームが発売される前なのに。
兄弟対決が目前の人気漫画はもうすぐクライマックスなのに…
あの声優さんのライブもコロナのせいで1年も行けてないのに…っ
なんもかんもこちらとしては
終わってないんじゃーボケー!!!!!!!
走馬灯のように過ぎる全ての愛すべきもの達が、もう二度と手の届かないところに行ってしまった喪失感は心の死を意味するようなもの。
転生とか、そんなのどーでもいいんだよ。
夢ならばどれほど…何処かのアーティストのように歌ってしまいたいよ。
心ここにあらずな私を置いて
代わる代わる人が来る。
あー、作画綺麗。
思考を放棄した私には全てが他人事だった。
初投稿になります。
寛大な評価頂けると幸いです。