第67話 〜それぞれの夜 with傘比 前編〜
「あ、無難くんー。ごめん、寝てた?」
「……寝てはない」
「あー、そうなんだ〜。良かったー」
傘比の安堵した声と、少しなにか引っかかる声色。
無難はその違和感を無視する。
「それでどうした?」
「うーーーーん、どうしたかって言われると……。なにも用はないけどー。なんか……無難くんの、声が聞きたくなってさ」
やはり何か傘比の声色と、理由もなく自分の声が聞きたいということに、鈍感な無難でも気づいてしまう。
「……元気がないな」
「う、ううん! そんなことないよ!」
傘比の歯切れが悪い返答に、無難は「はぁ〜〜」と深いため息を着く。
傘比の違和感の理由には、本当は当の昔に気づいていた。
傘比の違和感に気づかないようにしていた自分も居たし、気づいたとしても、声をかける理由もなければ、声をかける……。そういうこともする役目ではないと、思っていた。
声をかける役目は、月詩がやればいいと勝ってに思っていた。
「......間違いだったか」
月詩には、傘比の違和感に気づく事は出来なかった。目の前の問題 テーベ、テルセウスという圧倒的絶望に対策するため、頭の中はそれだけ。
視野も狭ばっていたことだろう。
傘比はどこにも不満を言うことも無く、この1週間を過ぎていた。
無難はこのいつもみたいに”装ってる声色”と、電話越しからでも分かる笑顔が無性に腹が立ち、思わず頭を掻く。
「お前が……話しかけてきた時、覚えてるか?」
「え? なんで?」
「覚えてるかって、聞いてるんだ」
無難の問に傘比は何故、今それを聞くのかと分からないが、懐かしむような声色で答える。
「覚えてる」
傘比のその一言に、無難は話を進める。
「……俺がいつものように、誰も俺に近寄らない日々を送ってる時に、お前が現れた。また、お前だった」




