第3話 〜最上級錬金術〜
私は人をやる気にさせるのが苦手だ。
何故なら私は、ものっそい自分勝手だから。
今だって無難くんに直ぐに会って、無理矢理テレポートをさせて戦いに巻き込んだ。まだパーティーにもなってないから、体力もMPゲージも見えない。
正に究極のPVPの始まり。
だから、無難くんは私をウザイと思っているだろうけど、そんなの勝てば全部よし!
「無難くん、転ばないようにね!」
「......俺は子供か」
私の見込みだと約80パーセント勝てると思う。パティーを組んでいたら、100パーセントなんなけどね。
「おいおい!逃げられちまうぞ!」
「分かってるよ! 『火球』!」
2回目の『火球』。木にあたって爆発したけど『火球』並の魔法を連発できるということは、相手の魔道士のレベルは約30だろうと、月詩は考察する。
月詩の考察は流石の頭脳派のプレイヤーであるだけあって、的を射ている考察力だ。
あ、ここからは語り部の私が解説させていただきます。
1人は重戦士。後ろを見る限り隠れて移動しているが、チラチラと大斧と鎧が見える。走りながら月詩は、後ろを確認しているため確定は出来ないが、大斧の素材は鉄。あれは初期に貰う鉄の大斧だ。
対して威力は高くないが、問題なのは重戦士の鎧。緑色ということはボスモンスターからドロップした鎧かもしれない。
鎧の性能は分からない。物理攻撃に強いのか、魔法防御に強いのか。
「どう考えても、相手のパーティーの中では重戦士が1番強そうだな〜」
逃げてる状態で、私のMPの量じゃあ何も出来ない。
大事なのは無難くんだ。パーティー組んでない以上、無難の職業も分からなければ、個性も分からない。
この状況を打破するには無難の何かしらが必要なのだ。
「『電気の痺れ』」
そこは流石、PVPを好んでやってるだけある無難。月詩達のレベル帯のPVP最強魔法の『電気の痺れ』覚えてるとは。
でも、『電気の痺れ』ってこの距離じゃあ当たらないでしょ。
『電気の痺れ』の弱点は、魔法の有効範囲は長いが魔法の速さは遅く、当たり範囲も小さい。普通によけられてしまうのが落ちだろうな〜。
月詩はこれ当たったら奇跡だな〜っと後ろを軽く振り向き、魔法の行先を見てみれば——
「ぐああああ、体が動かねえ!」
「あはははは〜。流石、拳銃の悪魔……AIM神だわ」
姿が確認できている、2人のうちの1人。しかも、魔法職に就いている人物に電気の痺れを当てる。
これには月詩も無難を賞賛するしかない、化け物級のエイムだ。
「『電気の痺れ』の有効時間あと15秒!」
「……スキル『俊敏』発動」
これまた期待を裏切らない判断。
相手の魔法職のプレイヤーを何がなんでも殺したい場合である。その判断を直ぐにできるのは、ゲームをやってきた証だ。
「あ、でも、重戦士が邪魔だから私がサポートしないと!」
後ろに振り付き走り出した無難を見ると、両手には武器を所持しているのが見え、それが表すのは、無難の職業が《双剣士》だということだ。
速さのステータスが高く、力などのステータスは低いが速さのステータスを生かし、多段攻撃を主にする。
《双剣士》は現時点で、1秒間に最高10回攻撃を当てることが出来る職業であり、無難の速さと手数で相手を翻弄し、攻撃を与えるのが最高の戦い方。魔法職を殺す間に私が、サポートしないとと、月詩も無難と一緒に走り出す。
それなのに———
「ふんっ!」
「なんでナイフ投げとんじゃーーーーー!」
森を飛び交うナイフ。
いや、双剣士の武器であるナイフを投げるなんて、とんだイカれた野郎だと語り部なからも私は思う。
「いってぇ……!?」
「1人……死亡?」
…………異常
月詩は目を疑い、自分の常識がおかしくなる。
魔法の効果で、地面に平伏していた無難からは見えないはずの魔法職のプレイヤーを、スキル無しであんな曲芸みたいな事を出来るはずがない。投げたナイフは木々に当たる前に、全て無難の方へ返ってる。
いったいどういう事だ?
「いや考えたら分かった……!」
月詩が導き出した答えは簡単なもの。
《双剣士》の初期に選ぶスキルで最強の雑魚スキル。『武器戻し』なんてモノがあった。剣が手から離れた時に直ぐさま自分の手に戻せる。なんとも、雑魚スキル。
結果的に《双剣士》が剣を離すことなど、無いに等しいので、月詩自身もマークしてなかった。
月詩の考えを抜きにしても、正確にナイフを当てるのは常人離れはしている。
「……考えたってしょうがない。魔術師は消えて後は重戦士……といきたいけど相手は後もしかしたら4人、最低3人は潜んでいると思うから……中級錬金術『音波』」
月詩は指をパチン! と鳴らすと森中に高音の音が響き渡る。
うーーーーーん、なんとなくだけど……あそこかな。
「中級錬金術『色爆弾』」
月詩は現実世界で言う、防犯用カラーボールを錬金する。普通のカラーボールのような物だったら、下級錬金術で物足りる。
今回は中級錬金術。
これを投げると———
「えいっ!」
『色爆弾』を投げると勢いよく——
『音波』で違和感を覚えた所へ一直線へ移動する。
「なにっっっ!?」
「あーやっぱり3人居たんだ。じゃあ、後はブーナくんやってしまって!」
「「「があああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」」」
エイムが異常すぎる元世界1位の無難。一瞬でペイント、マーキングしたプレイヤーをすぐさま殺すとは。
これには流石の月詩も「バケモンかな」っと言葉をこぼすほど。
無難のファイプレーにより、残るのは重戦士ただ1人。ここまで来れば殺せるのは確実だ。
「あ」
しかし、ここで異常事態が発生する。
重戦士と月詩の距離は離れていたはず。なのにいつの間にか、月詩の近場に移動していた重戦士に月詩は、余裕の心からから絶望の心に変わるのは時間の問題だった。
「あの〜私は見逃してくれませんか?」
「無理だよ」
「ですよねーーー!?」
重戦士の重い攻撃は地面を抉り、大斧の振動で木々をも切り倒すほどの一撃を月詩は辛うじて避けることに成功し、物凄い勢いで走り出す。
「やばいってーーー!?」
これほどまでに綺麗な逃走の仕方は初めて見たと、語り部の私は感服するがそれも時間の問題。
「もぉーーーーーー! 能力向上魔法かけてたんだあの3人!?」
このゲームで月詩達を苦しめさせたパーティープレイが炸裂した。
先程、マーキングし無難の投げナイフで倒した3人が《付与魔術師》であり、3人がこの重戦士に重点的にバフを付与をしていたと考えられる。
バフと、このゲームの特徴的なシステムである、”パーティーゲージ”を使い、重戦士は限りないほどに強くなってしまった。
「ちょっとブーナくーーーん! 助けて欲しいーーー!」
「……俺のナイフでそいつの装甲壊せないな。後はお前がやれ」
————っと無難は逃げ出した
「流石、毒舌王子! 私の上昇していた好感度爆下がりだわ!」
いや、いつもこの状況みたいなことになって負けてるのに、私一人でやれって地獄でしょ!?
さっきの錬金術でMP使い果たしてもう無いし!
この『炎の剣』でやるしか……。
でも、あともうちょっとで初めての勝利を掴み取れそうなのに……!
「おおらああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
後ろを振り向くと眼前に見えるのは大斧。これを受け止める技量も、魔法も力もない。そんな私に出来るのは、死ぬかアレを使うしかない。
だけど、あれは仮設上の物で成功するかも分からないし、デメリットももちろんあると思うし!
それでも、確実にそして無難くんを私に惚れさせるには十分……いいや、それ以上の効果を発揮する。
もおーーーー最悪、これがネット上に出たら最悪なのに!
私は上級錬金術で創った『炎の剣』
上級錬金術で創った『転移の書』
そして、私の知人に貰った最強アイテムを触媒に使う。
『転移の書』は燃え、『炎の剣』砕け散る。
最強のアイテムは私の体に”吸収”される。
「最上級錬金術 『炎の天脅』」
鳴り響く轟音、そして圧倒的な炎。全ての物を燃やし尽くし、全ての物を消し去る。それは正に、災害クラスの魔法。このゲームではまだ出来るはずがない、魔法を最弱職の《錬金術師》が……出来るとは———
流石ヘラと言うべきだろう。
完全に頭がイカれてる。
「ふいーーー終わり終わりーーー」
轟轟と燃え盛る森を見ながら笑顔でいられるのは、こいつだけだろう。
いつも、もうちょっとって所で負けてたのに……。最後のピースがヘラなんて……。
でも、勝ちは勝ちだ。勝ったんだ……
「「よしっっっっ!」」
不意にも2人の声は重なった。2人は目を合わし、無難は嫌な気持ちなる。正に宿敵、過去の醜態、自分の黒歴史が目の前にいる。
なのに自分の爽快感。今回は個々の力を活かしただけ。それでも初めてのチームプレイに快感を覚えた。
同じ戦いに挑むのがこんなにも楽しいのか、勝った喜びを2人で分かち合うのはこんなにも気持ちいいものなのか。
2人は思わず声を昂らさせ言ってしまう。
「「私とパーティー組んでください! (組め!)」」
「あはははは、思ってることは同じか〜」
「ああ、そうだな……」
2人には壁がある。
ゲームではぼっちを貫き通した女。
現実でもゲームでもぼっちを貫き通した男。
女は現実では喋れてもゲームでは何を喋ったらいいか分からない。
男は自分の毒舌のせいで他人を傷つけまくった男。
折角仲良くなったゲーム友達を早々に失いたくない。
——————だから2人とも喋らない!———————
パワーワードを覆したのは男の方だった。
「いまから……またPVPするか……?」
羞恥心と、自分を崩した喋り方。それを程、先程の戦いには無難に対して効果があった。
それに対して女は————
「くがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜」
——————————寝ていた!——————————
圧倒的なパワーワード! 私ですら驚いている!
こんな時に寝るなんて頭がおかしい、狂っている。
いやこの女、美少女だけど本当におかしいだろ!?
月詩に対して男は————
「くがああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜」
——————————寝ていた!——————————
世の中には不思議なこと……いいや必然的なことがある。
二徹した人は他人が寝ているところを見ると自分も寝てしまう。
本当に馬鹿なこの2人。
そのおかげかこの場に急いできた運営のキャラクター、野良プレイヤー達は誰もこの悲惨な状況を2人が……いや、ほぼ1人でやったのだが……。
悲惨な状況を誰もこの寝落ちしている2人のプレイヤーだとは思わなかった。
「「くがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜」」
でもここで幸運なことが。2人がこんなにも息を揃えて寝てる仲慎ましい光景は今後一切、見ることは無い。
そう……2人はまだ知らなかった。
2人のプレイスタイルは全く違うことに…………
剣と魔法と失われた技術攻略情報 掲示板 最新情報チャット
1名前:情報屋
お前ら! サイミ森林に今すぐいけ! 何かやってても今すぐ行け! あんな光景一生見れねぇぞ!
2名前:名無しのプレイヤー
そんな慌ててどうしたんすか?笑
3名前:情報屋
サイミ森林で大火事が起きてるんだよ! しかもその大火事の原因は誰かの魔法だ!
3名前:名無しのプレイヤー
そんなことある訳ないだろwwww 俺はこの目で見たもんしか信じんよw
4名前:情報屋
信じねぇやつはどうでもいい! 見たいやつは今すぐいけ! そして犯人を探せ!
5名前:名無しのプレイヤー
おおおおおおおおおおお!? 俺今見てきたけど本当に燃えとる!!!!!!?????
6名前:名無しのプレイヤー
ぷぷぷwwww そんな訳……燃えとるやないかぁぁぁぁぁぁぁ!?
7名前:名無しのプレイヤー
いやそんな訳な……燃えとるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
8名前:名無しのプレイヤー
wwwwwwww そんなeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!?
9名前:名無しのプレイヤー
お前ら馬鹿だな。俺も今からうぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
1 0名前:名無しのプレイヤー
何このノリおもろwwwwwwwwwww
1 1名前:名無しのプレイヤー
はい、このノリに便乗しねぇクソが!
1 2名前:名無しのプレイヤー
>>1 1
はい、暴言しかいない奴wwwwww
1 3名前:名無しのプレイヤー
>>1 2
黙れよカス
1 3名前:名無しのプレイヤー
>>1 3
はい、小学生wwwww
1 4名前:情報屋
喧嘩してるなら早く見てこい! もっともっとこの情報を広げろ! 犯人だ! 犯人を見つけろ!
1 5名前:名無しのプレイヤー
情報屋さん! この大惨事の森に寝ている2人のプレイヤーがいました! この人たちでしょうか?
1 6名前:情報屋
んなわけねぇだろ! そんな所で寝ているやつは馬鹿だ! 大馬鹿だ! 放っておけ!
———1時間後———
1 7 3名前:名無しのプレイヤー
サイミ森林に入れなかってしもうた!wwww 運営が制御かけたと思うぞよw
1 7 4名前:情報屋
もう制御かけやがったか……犯人は見つかったか!?
1 7 5名前:名無しのプレイヤー
にんにん! そんな奴はいなかったでござるwww
1 7 6名前:名無しのプレイヤー
俺も見つけられなかった。モンスターも全くいなかったし
1 7 8名前:情報屋
クソっ! いったいぜんたい誰なんだよ!?
チート……こいつぁチートや!
大変や大変や! この月詩ってやつチートなんやぁぁぁ!
ブックマークありがとうごさいます!