愛していると言われたい2
あれから数日が過ぎた。
毎朝の日課に加わった事がある。
「いってらっしゃいませ。」
アリシアはそう言いながら、両腕を広げて待つ。
「行ってくる。愛している。」
ハルトは妻を抱きしめながら、そう答える。
満足そうに頷き、「私もです。」
目を潤ませながら妻は言う。
かわいい。安定のかわいい。
はぁ、旦那様かっこいい。
後ろに流したオールバックの髪。
キリッとした目元。
かっちり着こんだ軍服にがっしりした体。
周りには無表情で無口で強面で怖いなんて言われますが、
本当は真面目で優しくかっこいい。
まさか自分が騎士と結婚するとは思ってもみませんでした。
不定期な勤務、汚れ仕事も多く長期出張もある、
かっこいいけど、結婚には不向きという噂の騎士。
でも出会ってしまったのです。
騎士の妻として、私はもっと強くならねばいけないのでしょう。
愛していると言われたい。
毎日毎日
いつか離れるときが来る、その時まで。
オレの妻かわいい。
フワフワと柔らかく長い髪。
キュッと上がった目。
色気のある体つき。
周りにはキツそうで男好きなどと言われるが、本当は泣き虫で気が弱く寂しがり屋。
出会ってしまったのだ。
彼女は騎士の妻なんぞ向かない性格だろうが、諦めることは出来なかった。
いつか悲しませることもあるとわかっていても、
愛していると伝えよう。
その時まで。
「また隊長ってば、奥さんの事考えてますねー。」
声のした方を向くと、副隊長がニヤニヤしながら近づいてきた。
「何でわかった?」
聞けば呆れた声が返ってきた。
「顔が‥ めちゃめちゃ怖いんですよー。隊の奴らからすれば ニヤけそうなの我慢してるって、まんま分かりやすいんですけどねー。 」
そんなに顔に出ているのか、と自分の顔をさわりながら妻の顔を思い出す。
しょうがないじゃないか、妻はかわいいのだ。
旦那様の帰宅が遅い。
何かあったのでしょうか?
ようやく帰れた時には深夜を過ぎていた。
「おかえりなさいませ。」
まだ起きて待っていてくれたらしい。
「ただいま。君に伝えなければいけないことがある。」
とうとう来てしまいました。
騎士の妻として覚悟を決めるときなのでしょう。
「明日からだ。」
泣く、そう思ったのも一瞬で、妻は気丈に気持ちを切り替えた。
「お気をつけていってらっしゃいませ。お帰りをお待ちしております。」
「ただいま。」
そう言えたのは、1ヶ月ほどたってからだ。
遠征としては短い方だろう。
だが、長かった。こんなに長く感じた遠征ははじめてだった。
結婚とは本当に大変だ。
特に妻がかわいいとなおさら。
目の前に、無事に帰宅した旦那様がいらっしゃいます。
会えない日々は長かった。
1ヶ月がこんなにも長いなんて、思いもしないことでした。
結婚とはなんて幸せなんでしょう。
戻った彼にお帰りを言えるのは、妻の特別大事な仕事なのです。
「おかえりなさいませ。愛しております。」
あぁ、自分は帰ってきたのだ。
心からそう思えた。
結婚とはなんて幸せなんだ。
「ただいま。」
再びそう言った夫は、妻を優しく抱きしめた。