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1,000数えるまでに君にキスしたい  作者: 桐生
冬の風景
8/25

008:「かんようしょくぶつ」「てぶくろ」「やきざかな」

 この季節になると、花屋にはシクラメンやポインセチアと一緒にゴールドクレストの鉢植えが並び始める。

 クリスマスツリーに見立ててモールやオーナメントで飾り付けられた鉢植えが、クリスマス気分に一役買っており、そんな花屋の店先を私達はぎこちなく手を繋いで通り過ぎた。


 この人に会ったのは、先月のお見合いパーティーの会場でのことだった。

 肌寒くなる季節ということもあり、集まっている人達も普段よりも気合いが入っているような雰囲気で。私はその中の一人と会う約束をしてみることにした。それが、この人。


 それから何度目かのデートを経てお互いの食の好みがわかり始めた今日は、美味しいと評判の和食処に来ていた。

 店内は落ち着いた雰囲気で、この季節にしては暖かい日射しが差し込む窓際の席でのんびりと食後のお茶を飲みながら中庭の植栽に目をやる。


 のんびり、ゆっくり。

 私の年齢ではもうこうしてのんびり進むのは時間が無いと言われることもあるけれど、人生は長いのだ。この歳になってから急いで合わない人と付き合うくらいなら、少しくらい時間を掛けても合う人を探したいと思うのはそれほど不自然な事では無いように思う。



「佐々木さんは、魚を食べるのがお上手ですね」

 そう言うこの人も、美しい食べ跡。


 一緒に過ごすことが多くなると、些細なことが気になり出す私にとって、苛立つことは少なければ少ないほど良い。食事の好みや作法などは人によってその差異が大きいから、食事時に不快感をもたらさないこの人は私の好みに合っているのだろうと思う。

 彼は趣味が釣りだということもあり、食卓にはよく焼き魚が上がるとの事。私は釣りをしたことは無いけれど興味は持っていたから、しばらくその話題で盛り上がり、次の休日に連れて行ってもらうことになった。



「結婚するかもしれない相手としてお互いの理解を深めるために、色んな事に対しての考え方をお互いに伝え合いたいと思っています」

 初めて二人きりで会ったときに提案した私の言葉を、彼は正しく捉えて真面目に受け答えをしてくれる。


「あの、今日は駅まで手を繋いで行ってみませんか」

 お互いの好みや許容範囲を探りながら会話をするのがむず痒くも楽しい。


 私は、この人の事を支えてあげられるだろうか、と考える。

 もしもこの先の人生を共に過ごすなら、こんな寒い日にその指先をほんのり暖められる、手袋みたいな存在になれたら良いな、とも。

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