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1,000数えるまでに君にキスしたい  作者: 桐生
冬の風景
7/25

007:「だんろ」「こんたくと」「おでん」

 師走に入って年末進行が始まり、最近は連日帰りが遅く、俺は家の近くに出ている屋台に寄ってから帰るのが日課のようになっている。


 おでんは良い。

 肉も野菜も摂取できる上に体が程よく温まって、一口ごとに仕事の疲れが解れていくようだ。屋台の親父と一言二言交わしながら、のんびりと味わう。


「おやっさーん、今日まだこんにゃくあるー?」

 そんな風に言いながらのれんから顔を出した若い女性が座りながらちらりとこちらに視線を向ける。相手も俺も、何気なく視線を合わせたのだろう。けれど俺は、電球の灯りを反射してきらめく眼を見て驚いた。そして俺はその驚きをすっかり顔に出してしまっていたようで。


「おにーさんどーしたの?」

 相手に問い掛けられてふと我に返る。

「あっ、失礼。知人に……俺の祖母の目にそっくりだと思って」

「あはは、おにーさんのおばーちゃんてもしかして外人さん? あたしのはカラコンだけど!」

「ええ。祖母はイギリスの人でした」

「マジ? いいなー、超あこがれるわー」

 金色に近い茶色の髪の毛と、ブルーグレーの瞳をした女性は、烏龍茶を飲みながらおでんを口にする。


「おにーさんのおばーちゃんて、やっぱ紅茶好き? イギリス人ってめっちゃ紅茶飲むって聞くけど」

「そうですね、祖母はよく飲んでましたよ。今日みたいな寒い日は暖炉の前で、編み物をしたりしながら」

「だんろ! へー、超外国っぽい!」

 祖母の事を誰かに話すのは久し振りで、懐かしさで心が少し暖まる。


「おじさんの話聴いてくれてありがとうね。じゃ、俺はそろそろ帰るから、ゆっくりしてってください」

 相手が聞き上手なこともあり少しの間話していたが、話しすぎたかと思い、彼女の分も含めたお金を親父さんに渡して、家路につく。


 そう言えばあの子、いつか留学したいと言っていたな。また次に会ったらイギリスの話を聞きたいとも。

 普段の、家と会社の往復だけの生活ではまず出会わないような人種の子だったが、屈託のない魅力的な笑顔を思い出すと自然と頬が緩む。

 もう会うことは無いかもしれないが、もしも次に会ったら、俺からはカラーコンタクトについて訊いてみよう。


 実家に帰省するときに、彼女が今日着けていた銘柄のコンタクトを着けていったら、俺を祖母似だと常々言っている両親はさぞかし驚くことだろう。

 そう考えると、おでんを食べたくなる寒い日が続くのもそれほど悪くないな、と思う。

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