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1,000数えるまでに君にキスしたい  作者: 桐生
冬の風景
3/25

003:「すまーとふぉん」「じゃず」「そば」

 初めは、ノリがまた変なことにはまり出したのかもしれない、と思った。

 こいつは昔からずっと飽きっぽい奴で、多趣味と言えば聞こえはいいけど、とにかくちょっとやってみて気が済んだらすぐやめて別のことに興味を移す。唯一救いがあるとすれば、作りかけのまま放置したりしないし、後片付けまできっちりやることくらい。


「なぁ、ジャズ蕎麦屋って知ってる?」

「何それ。ジャズが流れてるお蕎麦屋さん、っていう解釈で合ってる?」

「うーん、多分」

「多分? 行ってきたわけじゃないの?」

「うん。読んだだけ。」

 ノリはそれきり黙ってしばらくスマホの画面を操作していたけれど、にわかに立ち上がるとキッチンで戸棚を開閉していた。


「よし! 今日はジャズ蕎麦屋を開店します!」

「え、晩ごはんの時間には少し早いんですけど」

「大丈夫! 色々作ってる内に飯の時間になる。蕎麦屋は品数の多さがウリだから!」

 よく解らないけれど、かまぼこの薄切りにわさびを添えたものや漬物と一緒に日本酒を出してくる辺り、本気度が見える。

 カウンターキッチンのこちら側の照明を薄暗くして、ノリのスマホから流れてくるのは……ジャズ? さっきスマホを操作していたのはこのためだったのかもしれない。小腹が空いていたこともあり、大人しくお客さん役をやることにする。


 私はノリが出してくれた日本酒を飲んで、蕎麦粉を混ぜていくのを眺めながらかまぼこをつまむ。それから、何年か前にはまっていた蕎麦打ちを久々に披露してくれるのは嬉しいけど、できれば一緒に食べたい。そう思ったけれど、意地っ張りな私はノリが片手間で焼いてくれたふわふわの出汁巻き卵と一緒に言葉を飲み込む。うーん、相変わらず美味しい。これも一時期作るのにはまっていたことがあったな。


「ノリってさ」

 ジャズと調理の音だけの部屋に、私の声が混ざる。

「多芸だよね。飽きっぽくて色々手を付けて止めてくけど、一周回って何か繋がってく感じ」


「僕、飽きっぽくないよ」

「……?」

 え、どこが? という顔をする私にノリはちらりと視線をよこす。

「いや、君が僕に飽きないように、たまに引き出しを増やしておこうと思ってるだけだからね」

 そう言ってのほほんと笑っていてくれるノリだから。


「ノリ」

「うん?」

「お蕎麦茹で上がったら一緒に食べたいんだけど」

「うん」

「卵焼きまた作ってね」

「うん」

「ずっとだからね」

「うん」

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