023:「くりすますつりー」「なんてん」「たら」
──もし、あのとき貴方と別れる選択をしていなかったら、私は今頃どうしていただろう。
何年か前と同じようにここにそびえるクリスマスツリーを眺め、そのときも同じようにここで待ち合わせをしてデートをしたことを思い出して、私は少しだけ笑う。
待ち合わせ場所を見やると、貴方が立っているのを見つけた。
──もし、今日も貴方が遅刻してきてたら、帰ってしまおうと思っていたのに。
「お待たせ」
「おう、じゃあ行くか」
お見合い結婚をしたこの人とは、ついに別れるときまで手を繋いで歩くことすらなかった。
──もし、私から手を繋ごうとしていたら、何か変わっていただろうか。
いまも私たちの間に、恋愛感情のようなものは無いように思える。
最近では特に連絡を取り合うことも無かったから、久し振りに会った今日は話題は尽きない。と言っても中心になるのは娘の話題で。娘の最近の学校での出来事や、家での出来事、娘が父親──つまりいま目の前にいる人だ──と過ごしたりしている間のことをお互いに話していると自然と時間は過ぎ去って行く。
──もし、私たちが家族でいたとき、お互いにこんなに話をしようとしていたら、今頃は。
少し洒落たレストランに連れてこられたが、入り口で私は彼が予約をしていたということを知り驚く。初デートでレストラン難民となり、私を連れて寒空のした歩き回っていた彼はもう居ないのだろうか。
店の雰囲気も悪くなく、食事の味もひどくなかった。たまたまだろうか? それとも、クチコミサイトなどで評判を調べて選んだのだろうか?
食事が終わる頃になって娘の話題が尽きてしまうと、お互いに、少しずつ、自分自身の話題に触れて行く。
こんなに、話す人だったのね。
別れた後に変わったのか、話す人だということに私がずっと気付かずにいただけなのか。
──私から話しかけるだけじゃなく、貴方の話を聴こうとしていたら、どっちだったのか知れていたかもしれない。
駅まで向かうまでの道で、今日の終わりが近い雰囲気になり。
歩く速度が少しだけ緩やかになる。
「今日はわざわざ来てくれてありがとう。」
「だろ? 今日のエスコートは何点だった? 100点満点取れたんじゃねーの?」
「バカね、そんなこと聞いてるからいつまで経っても0点なのよ」
貴方が、ずっと昔の初デートで私が貴方のエスコートを酷評したことを根に持つような言い方をするものだから。
私はゆるく笑って、貴方の腕にそっと腕を絡ませる。




