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1,000数えるまでに君にキスしたい  作者: 桐生
冬の風景
21/25

021:「びようしつ」「くつ」「じゃがばたー」

 じゃがバターに塩辛を乗せるというメニューが市民権を得るようになったのはいつからだったろう、と思う。

 少なくとも、あたしが居酒屋に飲みに行くような年齢になってからしばらくの間は、こうしてメニューに載っているのを見た記憶はない。


 この食べ方を教わってからしばらくの間は自宅で塩辛が余ったときに作っていたけど、最近ではこうして外でお手軽に食べられるようになったことを考えると、あれからずいぶん時間が経ったのだと思う。


 行きつけの居酒屋でいつものように食事をして帰るだけというのは味気ないけど、スマホの画面を流れていくタイムラインを見るともなしに眺めながらじゃがバターをつついていると不意に横から声をかけられる。


「あれ、スズ。また一人で飲んでんのかよ」

「悪い? 誰かさんと違ってあたしはそんなに毎日予定ないですから」

 高校時代から彼女が途切れたことがない幼馴染みに、あたしはついいつものように憎まれ口を叩いてしまう。

 もちろんあたしにはこいつと違ってクリスマスの予定だって無い。けど、こいつの彼女との予定も聞きたくなくて視線を足下に落とすと、自分のくたびれたスニーカーが目に入る。こいつの歴代の彼女達と比べて自分の女子力の無さにがっかりする。


「しかしいつ見ても女らしくない格好してるなー。女らしい服とか持ってないだろ」

「うるさいよっ! あたしだってデートするときぐらいは女らしい格好しーてーまーすー」

 笑いながら言うけど。自覚してるからグッサリくるし、何より、好きな人にそんな事言われちゃうあたしが可哀想すぎるので思わず逆ギレみたいな強さで言い返してしまって。

 そんなあたしの強がりに、幼馴染みは悪い表情をしてニヤリと笑い──


「ふーん? じゃあ俺とデートするか」

「はぁ?! か、彼女いるでしょーがっ」

「んや、いまちょうどフリーだから。だいじょーぶだいじょーぶ、そんな恐がんなって」


 断ろうとしたけど、考えてみたらこいつもきっと近いうちに結婚とかしてあたしと二人で会うことなんかなくなるんだ、って思ったら、ここで断ったらきっと一生後悔すると思った。



 美容室に行ってこよう。髪を整えて化粧もちゃんとして、少しヒールの高い靴を履いて。

 女性らしい装いをしたら、少しは可愛げが出てくるかもしれないしね。

 きっとこいつの記憶には残らないでしょうけど、あたしはずっと覚えているであろう最初で最後のデート。少しくらいは可愛く見えたらいいなと思う。


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