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1,000数えるまでに君にキスしたい  作者: 桐生
冬の風景
2/25

002:「はつゆき」「めいし」「しゅとーれん」

「見て! 雪!」

「ホントだ、そう言えば今朝テレビでそろそろ雪になるかもって言ってたな」

 信号待ちのカップルの会話に釣られて僕も空を見上げる。


「積もるかな」

「いやー、初雪だからね、すぐ溶けちゃうだろ」

「えー、積もればいいのに」

 うん、僕もそう思う。カップルの会話に脳内で参加している内に信号が変わる。


 歩き出そうとした僕の足元にポトリとキーケースが落ちてきて、落としたことに気付かず歩き出す女の子に、仕方なく拾って手渡すと。

「あ! ありがとうございます。私、そこの角のケーキ屋さんで働いているので、今度時間があったら寄ってください! お礼にお茶でもご馳走しますから」

 笑顔を向けてくれる女の子に、つい苦笑しながら言う。

「彼氏さんに悪いからね、いいよ」

 すると女の子は軽く頭を下げて男の子と歩き出す。


 こうなると一緒の方向に行くのは気まずいような気分になって、違う方向に歩き出すとさっきのカップルの声がまた聞こえてきた。

「ほほー、お前いつの間に彼氏できたんだ?」

「もう! お兄ちゃんはいちいちうるさいよ! クリスマスまでにはきっと彼氏できるもん!」

 ……訂正。カップルではなかったらしい。


 その日の雪は結局積もることはなく、次の日は快晴で。

 何となく昨日の出来事を思い出して、仕事帰りにそのケーキ屋に寄ってみることにした。


「いらっしゃいませ! ……あっ」

 店に入ると声を掛けてくれたのが昨日の女の子だった。流石にこの時間では喫茶コーナーが閉まっているのは分かっていたから、今日はクリスマスケーキを見に来たのだと伝えながら見本を眺めていると、ふと真っ白な塊がショーケースに並んでいるのが目に入る。

「これは?」

「それ、ドイツの菓子パンなんです。クリスマスまでに一ヶ月かけてスライスして食べ進めていくっていうもので、上に粉砂糖を掛けてあるので結構甘いですけど美味しいのでおすすめですよ」

「へえ、クリスマス用の……あぁ、雪」

「え?」

「初雪、積もりましたね」

 シュトーレンを指差して笑い掛けると、女の子も、クスクス笑ってくれて。


「クリスマスまではお忙しいでしょうけど、暇になったらお茶でも。怪しいものではないので」

 会計をしてシュトーレンを包んでもらっている間に個人用の連絡先を書き足した名刺を差し出して。

 シュトーレンを受け取って店を出た。


 久し振りに、クリスマスが待ち遠しくなる。

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