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1,000数えるまでに君にキスしたい  作者: 桐生
冬の風景
18/25

018:「くうこう」「めがね」「きのこ」

 まだ少し夢見心地のままの頭を軽く振りながら、出口へ向かう。しばらく南方で暮らしていたため、戻ってくるとこちらの寒さが身に凍みる。


 到着ゲートから出ると、待ち合わせの相手はすぐに見つかった。ざわざわと人が流れるロビーで、どこかぼんやりとした様子で待つ女性。

 ところどころ跳ねている短めの髪の毛は日向にいれば透けて明るく見えるのだけど、今は室内にいるせいか暗い茶色に見える。

 少し大きめのパーカーの首回りはストールでぐるぐる巻きにされていて、その暖かさにそろそろ寝ますよとでも言いたげな目が、セルフレームの眼鏡の奥に覗いていた。


「お待たせ。お迎えありがとう」

「うん」

「帰りは俺が運転するね」

「あー、お願いしていい? ありがとう」

 くぁ、と小さくあくびを噛み殺しているのは、夜勤明けなのに車を持ってきてくれたからだろう。半年振りに見る妻の後ろをのんびりとついて歩いていく。


 スーツケースを転がしながら駐車場へと向かう。出張で半年留守にしていた間、メールでやりとりをしたり、たまには電話で話したりもしていたとは言え、直接会うのは久し振りなものだから、妻と手を繋ぎたくてしょうがない。やっぱりスーツケースは先に宅急便で送るべきだったか、と思ってしまう。


「今夜は夜勤無いんだよね? 夕方になったら起こすから、それまで少し寝てる?」

「うん、そうする。ごめんね、久し振りに会ったのに」

「ううん、夜勤明けなんだし無理しないで。晩ごはんは俺が作るよ。向こうで名産とか言われてキノコたくさんもらってきたんだ」

「やった! じゃあ楽しみにしとく。何にするの?」

 機嫌良さそうに笑う妻にリクエストを聞こうか。俺が作るんだからそんなに難しいものは作れないんだけど。

「何にしようかね。俺が作れそうなのは……キノコ炒め、パスタ、ハンバーグ、グラタン、他には……炊き込みご飯とか、キノコ炒めとか」

「キノコ炒め二回言ってる」

 うん、思い付かなかったんだよ。


 キノコグラタンにすることで合意した辺りで車に辿り着いてしまい、結局スーツケースが邪魔で手を繋げなかったことを残念に思いながら車に乗り込む。


 さて、じゃあ出発しようか。椅子とミラーの位置を調節して、運転用の眼鏡をダッシュボードから取り出しながら、ふと良いことを思い付いた。


 お互いに眼鏡を掛けているとぶつけてしまうからね。

 眼鏡を掛ける前、シートベルトを着ける前の一瞬に、妻の方へ身を屈めて。

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