017:「しょうぼうしゃ」「ぼーるぺん」「しなもん」
──夜中に書いたラブレターは翌朝、冷静になって読み返してから出した方が良い、と書いてあったのは何の本だっただろうか。
私は目の前にあるミルクティーを手に取り、穏やかな音楽が流れているのを聴きながら店の内装をぼんやりと眺めている。
ふわふわに泡立てられたミルクの上にかけたシナモンが鼻孔をくすぐる。
チャイティーほどはスパイス香がしない、ミルクティー+シナモンパウダー、という組み合わせが好みなのだ。なるべく混ざらないように、そっと口をつける。
何度も書き始めようとしては挫折している、真っ白な便箋に目をやるけど、何から書けば良いのかわからずに、またミルクティーを口に運ぶ。
夜中は感情的になるからラブレターを書くと後で後悔するほどに恥ずかしいことを書いてしまう、というのはさておき、ラブレターを書くという事自体がすでに恥ずかしい。
だって、自分が好きな相手に、自分の心の内をさらけ出すのだから。誰にも言わずに秘めておきたい事を一番好きな人に明らかにするということを考えるだけで、苦しくなるくらいにドキドキしてしまうじゃない。
ほんのりシナモンの香りがするミルクティーを何度口にしたところで、まったく落ち着ける気がしない。
細軸のボールペンをフラフラとさ迷わせてみても、どんなことを書けば良いのかわからない。好きになったきっかけ、とか? どんなところが好きなのか、とか?
それに、どんな手紙にするかも迷いどころだ。好きだと伝えたいだけなのか、私の事を知ってもらいたいのか、それとも付き合いたいのか。
私はどうしたいんだろう。付き合いたいのかな。いまだかつて恋人が居たことがないから、付き合うというのがどんなものなのかがよく分からない。もちろん周りでは、恋人がいる人だって何人もいる。その人たちから、どんな事をしたとかどこに行ったという話だって耳にする。でもきっと、付き合うってそういう、行動を指すだけじゃないと思うから、付き合いたいと伝えたいわけでもない気がする。
ふと小さく響いたサイレン音に通りへ目をやると、消防車が駆け抜けて行く。この季節は乾燥しているから、火事が起きやすいのね、そう思ったあと連想的に、この季節は寒いから、恋の火が燃えやすいのね、と考え、おかしくて少し笑う。
消されたら、困る。せっかくの恋の炎だもの。
さぁ、一世一代のラブレターを書くのだ。
相変わらず書くことは何一つ決まってないけれど、ボールペンを握りしめて、真っ白な便箋にまずは君の名前を書き記し始める。




