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1,000数えるまでに君にキスしたい  作者: 桐生
冬の風景
10/25

010:「はんどくりーむ」「とけい」「すてーき」

 腕時計をちらりと見て、それから、待ち合わせ場所にある時計に目をやって、少し溜め息を吐く。どちらかの時計がずれているということもない。また早く来すぎてしまった。


 私はどうにも相手を待たせることが苦手で、誰と待ち合わせをしてもこうしてかなり早い時間に着いてしまう。

 この寒空の下、ここで待ち続けることは良い選択だとは思えないけれど、もしどこかで時間を潰している間に相手が来てしまったらと思うと、この場を離れるということはどうしてもできなかった。


 待ち始めたところでふと指先が乾燥していることに気付き、鞄の中からハンドクリームを取り出して、手に塗っておく。どうせ今日の相手は時間通りには来ないのだ。少しでも時間を潰せるように、ことさら念入りに塗り込める。

 そうしてからやっと、本格的に時間を潰そうと文庫本を取り出したところで。


「あれ、委員長じゃん」

 聞き覚えのある声が私に向けて掛けられた。


「委員長の私服姿とか初めて見たわ。意外とおしゃれなのな」

「……」

 褒められたのか揶揄されたのかいまいち判らなかったため曖昧に頷く私に構わず、クラスメイトは歩き去ろうとしない。


「委員長、今日はどこか行くの? まさかデート?」

 本気でそうとは思っていない口調だけれど、私はネタにマジレスと言われようとも構わずいつもの調子で答える。

「いえ、今日は兄の買い物に付き合う予定です」

「へぇ、女子の買い物に男が付き合うならわかるけど逆なんだ?」

「ええ、女性への贈り物を探すそうですから」

「なるほどね。まぁ兄貴の用事に付き合ってやるなら、お礼に高い飯でもねだってみたら? ステーキとか」

「……」

 何と返事をしようか一瞬迷って、唇を結ぶ。いつものように口が真一文字になっているに違いないけれど不機嫌そうに見えてしまうだろうか。

「ちょっと、ここはちゃんと乗って『キャーステーキー』とか言うとこっしょ」

「……きゃー、すてーきー……」

 休日で気の抜けた所だったからか、会話中に考え事をしていたからか、普段ならクラスメイト相手に言わないようなジョークを口にしたが、言った途端に後悔した。恥ずかしすぎる……。

 羞恥の余り顔を赤くしてしまった私を見てクラスメイトは一瞬呆気に取られたような表情をして、笑い始める。


「やべー、休日の委員長おもしれーっ! 何か興味湧いてきた」


 何とも無邪気に笑う彼も教室で見る表情とは違う様子で。

 もっと話をしてみたいと、少しだけ思う。

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