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オロチ綺譚

巡礼綺譚

作者: かなこ

元が二次創作なのでもしかしたらと思う該当作品もあるかもしれませんが、思い当たってもそっと連絡くださるにとどめて戴けると幸いです。

 『欲は全ての進化と向上の源泉である』とは、まこと至言である。


 地球だけでは窮屈だと思い始めた人類は、全ての欲を進化と向上へ昇華させ、宇宙へと進出を試みた。

 手始めに月に大気の層を作り、ルナベースを建設。そこから宇宙探索へと計画を推し進めようとしたその時、当時で言うところの宇宙人とのコンタクトに成功した。

 彼らは映画のような凶暴性も攻撃性もなく、至って理知的でドライな思考を持ち、優れた科学技術を売買契約にて地球へ提供した。

 お陰で飛躍的に地球の科学は発展し、かつての自動車のように宇宙船が飛び交うようになり、当たり前のように外国語ならぬ公用外星語が学校授業に組み込まれた。

 そして、宇宙はとある秩序のもとに管理されていた、と言う事実を地球人は知った。

 宇宙の秩序は3つの大きな組織で保たれており、その中でもっとも影響力があるものが、多くの惑星による共同運営機関である『SPACE UNION』だ。それは宇宙貿易におけるあらゆる権利を司る機関で、宇宙航路のほぼ全てを掌握し、貿易等取り引きにおける規制管理、商法基準の他、細かい事を言えば税金の徴収まで行っているマーケットの総本山だった。

 SPACE UNION……通称UNONは、ほとんどの惑星を経済支配下にあらゆる経済活動の中心となっており、地球へ科学技術を提供したのもそのUNION加盟惑星の1つだった。

 宇宙を渡る者にとってUNIONは巨大な守護者であり、同時に搾取者でもあるという、他の銀河系の者であれば当たり前の事実を、地球人はようやく知るに至った。

 それまで地球しか知らなかった人類は、おずおずと彼らの仲間入りを果たし、500有余年の年月が流れた。



 地球よりはるか5億光年離れた銀河系に、3つの王政惑星を有するスイリスタルと呼ばれる有名な太陽系がある。

 温暖なセイラン、近代的なヒムロ、広大なウンカイは、王国制度にありがちな王による圧政もなく、常に穏やかに存在する宇宙有数の裕福な惑星だ。

 セイランの主な利益はその星でしか採れない植物から作られる副作用のない万能薬で、ヒムロもまたその星でしか採掘されない重油から作られる精密機器、ウンカイは宇宙の中でもトップクラスに希少なレアメタルの産出国だった。それらは常に高値で取引され、スイリスタルの民に莫大な恩恵を与えている。

 そんな資源の塊のような太陽系が放っておかれるはずもなく、スイリスタル3惑星は何度も海賊や他星からの攻撃を受けたが、3人の王は時に協力しあい、時に貸し借りの形をとりながら、互いを守りあっていた。

 セイランの皇帝の名はウスイ・セイラン。

 ヒムロの皇帝の名はビャクヤ・ヒムロ。

 ウンカイの皇帝の名はアキサメ・ウンカイ。

 彼等は誠実かつ堅実に民の為に星を守り続け、その強固な結束は決して突き崩せぬものだと誰もが思っていた。

 だが、今までとは比べものにならないほど宇宙に名を轟かせている冷酷な巨大海賊が、スイリスタルの3惑星に目をつけた。

 過去の敵対組織がそうだったように海賊達もまずは信頼関係を破壊し、いがみ合わせて共倒れを計画したが、想像以上の強固な結束にあっさりその策を変更した。

 内から壊すのが難しいのならば外からと、惑星間にあった中継衛星をすべて破壊し、妨害電波を発して星交の断絶を計ったのだ。

 これにより電波通信による情報交換ができなくなった3惑星は、宇宙船を使って物理的に連絡を取り合う事でしか互いの意思伝達手段を奪われたのであった。




「出力曲線ランクF」

「加速ポンプ全開」

「システムパルスオールグリーン」

「ロック解除まであと2分」

 電子機器で埋め尽くされたボードから、菊池は小動物のようにぴょこんと顔を上げた。今年18歳になったが、真っ黒の猫毛と大きな黒目が年齢より幼く見せている。

「北斗、まだ?」

「まだっスよ」

 応えた北斗の年齢は菊池の2つほど下で、好戦的な表情の似合う生意気な少年だ。操縦席から振り向きもせずぶっきらぼうに菊池に言い放つ。

「自分であと2分って言ったでしょ」

「だからカレラ8のワープステーションって嫌いだ。イプサム3あたりなら2分もかかんないよ」

「俺に言っても仕方ないでしょ。あと100秒」

 菊池は頬を膨らませて計器を睨み付けた。

 ワープはそれぞれの宇宙船の規格により使う航路が制限される。菊池達の乗るこの『オロチ』は規格で言うならCクラス。Aクラスの軍の巡洋艦なら手間も時間もかからない航路を使用できるが、その使用料はとてもオロチの稼ぎでは払えたものではない。

「まぁ、そうカッカすんなよ、朱己」

 北斗の隣の操縦席でふんぞり返っていた柊が、にやにやと笑いながら菊池へ振り向いた。こちらは菊池の1つ下、北斗より1つ上の陽気な少年だ。

「ロック解除したら、あっと言う間に『リュウキュウ』だからさ」

 リュウキュウとは、これからオロチが向かう常夏の星だ。地軸が移動しないので南半球はいつでも夏だが、その分北半球は常に凍り付き、とても生物の住める場所ではない。

 北半球に眠っている鉱脈と南半球のリゾートが、リュウキュウの資源となっていた。

「リュウキュウ、久し振りだよなぁ。またあの店に行きたいぜ」

「残り80秒」

「ああ、あの美味しいフルーツ料理を出してくれるとこな」

「いっくらでも食えるもんな、あれなら」

「俺も食材として買い込みたいよ」

「マジで? 作ってくれんの? 朱己」

「頑張ってレシピを覚えるよ」

「残り20秒!」

 北斗のイライラした声に、2人は黙り込んだ。

「……エンジンローダー、レブリミット」

「カウントダウン、10、9、8……」

「オートロック解除。ディスチャージ!」

 北斗はスロットルを強く倒した。


 自由貿易船『オロチ』。

 SPACE UNIONには属していない、自由交易可能な商業船だ。

 惑星間による協定や同盟に左右されず、どこの星であろうとも自分達で勝手に仕入れ、売りさばく事ができる。

 だが大きな取り引きはほとんどSPACE UNION加盟船に奪われてしまい、その上保護も援助も受ける事はできない。しかしその分儲けは丸ごと自分のものにできる。が、税金は平等だ。

 主操船に北斗すばる、副操船兼航法が柊しぐれ、貨物主任及び航法補佐及び生活担当が菊池朱己、そしてここにはいないが医療担当の笹鳴ひさめと、船長の南ゆうなぎ。

 オロチはこの5人で動いている小さな貿易船だ。

 船長の南からしてそれほど金銭に執着しないタイプなので、彼等はのんびりと商売をしている……ように見られている。だが彼等が手を出さないのは麻薬と人身売買くらいなもので、後は何でも運んだ。

 驚くのはその脅威の成功率だった。

 かつて1度たりとも失敗したり敵対した組織に尻尾を捕まれた事がない。SPACE UNIONですら彼等のギリギリ非合法な行いを知っていても、その証拠をつかめないでいた。

 今回の彼等はそんな危険な商談を終わらせて、最寄りのSPACE UNION加盟星へ第3期の税金を払うべく、リュウキュウを目指しているところだった。

 ワープ航法を行うのにブリッジに船長の南が不在なのは、奥で税金納入書類の確認をしている為だ。こんな事は他の船の常識では考えられないが、オロチではそれがなんら問題にならなかった。

「ランディング完了。オールオフ」

 北斗が各種スイッチを切り始めると、柊や菊池も各種レーダーを目視してスイッチに手をかけた。

「着いたー! しばらく地に足をつけてなかったから、久し振りの地面だぜ」

 柊がシートベルトを外して思いきり伸びをした。

「船長はまだ計算ソフトとにらめっこしてんのかね」

「……ここにいる」

 南はよろよろとブリッジに現れた。目の下にはありありと隈が浮んでいる。

「船長……大丈夫?」

「俺、計算は苦手なんだよ……。笹鳴に手伝ってもらって助かった」

「こないギリギリまで溜め込んどる自分が悪い」

 笹鳴が後ろから南の頭をぺしりと叩いた。

「せやけどまぁ、何とか間に合うたし、さっさと税務署行こか?」

「そうだな……こんなもんはとっとと終わらせてしまいたい」

 南は小さなチップを大事に握り締めて制服の襟を正した。

「じゃあ俺は笹鳴と税金払いに行って来るけど、お前達はどうする?」

「あ、船長。俺、食材の買い出しに行きたいです」

「俺は荷物持ち~」

 菊池に続いて柊が挙手したので、北斗は必然的に留守番となってしまった。

「そうか。じゃあ北斗、留守を頼んだぞ」

「……行ってらっしゃい」

 北斗は操縦席に深く腰掛けると、いつも被っている帽子を顔に乗せてそのまま昼寝の体勢に入った。


「ただいま、北斗」

 頬の冷たい感覚に北斗は目を開けた。見上げると、菊池が自分の頬に炭酸飲料のパックをくっつけている。

「おかえり、菊池サン」

 北斗は帽子を被り直し、ついでにシートに座り直した。

「これお土産」

「サンキュ。いいもの買えた?」

「そこそこ。北斗の好きな地球の料理っぽいのも作れそうだよ」

 食材はすでに食糧庫へ収納した後なのか、菊池は手ぶらだった。

 北斗はパックを手にするとすぐにノドに流し込んだ。炭酸の刺激がノドを焼くこの感覚が北斗は好きだった。

「船長とドクターはまだ帰ってないみたいだね」

「手間取ってるんじゃない? あそこっていっつも混んでるから」

「時期が時期だしね」

 菊池は北斗の隣に設置されている柊のシートに腰かけた。正面には貨物ポートが一面に広がり、小さな移動車が駆け回っている。

「菊池サン、あんたの事だからまた噂でも仕入れて来たんでしょ?」

「そこそこ」

 菊池は柊の席にぶら下げられていたキーホルダーをつついた。イザヨイ星で購入した十字架のキーホルダーだ。どうやらお守りらしい。

「……例の組織、今はスイリスタル太陽系を狙ってるみたい」

「例のって、あのテロリストじみた海賊?」

 パックを閉じて、北斗は菊池に視線を送った。

「うん。北斗、スイリスタルって知ってる?」

「あんまり。柊サンの方が詳しいんじゃない?」

「そうだね。俺はまだ行った事ないんだけど、薬と精密機器とレアメタルで生計を立ててる、すんごい裕福な太陽系なんだってね」

 菊池はポケットからお菓子を取り出して口に放り込んだ。北斗は断りもせずそのお菓子を横から頂戴したが、慣れているので菊池は何も言わなかった。

「通信衛星をすべて破壊されたんだって」

「じゃあまったく惑星間で連絡とれないんだ?」

「ううん。腕のいいパイロットを使って、原始的に情報交換してるみたいだよ」

「大昔の映画みたい。でもそれって大丈夫なわけ? あの海賊相手じゃ全部撃墜されてんじゃないの?」

「俺もそう思う」

 菊池は細い眉をきゅっと寄せた。

 その昔、実はオロチは1度だけその海賊団を敵に回した事があった。

 周到で残忍な手口、計算高く非情なまでに統制の取れた動き、そして高度な操縦技術。あの時はかろうじて北斗の方が腕が上だったお陰で、オロチは全員無事にその銀河系から脱出する事ができた。

 北斗でなかったら無理だったろう。そして北斗ほどの腕を持つパイロットなど、この広い宇宙でも数えるほどしかいないに違いない。

 北斗はもともと軍のパイロットだった。

 その飛び抜けた資質を買われて最年少で第1級パイロットの資格を与えられ、この年にして一隻の軍艦の艦長をしていた事もある。

 しかし本来の性格から息の詰まる生活に嫌気がさし、軍を飛び出した。そして南に拾われたのだった。

「薬やレアメタルはともかく、精密機器なんか手に入れたら、あの組織はSPACE UNIONを脅かす存在になると思うんだけど、どうして放っておくのかな」

「放っておかざるを得ない事情があるんでしょ」

「北斗、なんか知ってるのか?」

「さぁね」

 北斗はジュースを飲み干して小さく丸めた。




 南と笹鳴が帰船したのは、もう夕食時だった。

 へとへとに疲れ切っていた2人は菊池の作った懐かしい地球料理を食べて多少回復し、食後のお茶を飲みながらやっとほっとしたように状況を報告しはじめた。

「混んでるのなんのって、宇宙にはこんなに貿易船があるのかとつくづく思ったよ」

「1年に4回は同じ事言うてはるな、自分」

「笹鳴だって言ってたじゃないか」

 南は睨む気力もないのか、脱力したようにそう呟いてため息を吐いた。

「あーでも、これであと3か月は書類を見なくて済むな」

「そんなんやから、いつも期末で泣くんやろ。普段から帳簿つけとき」

「……会計士、雇おうかな……」

 本気で考え込み始めた南の湯呑みにお茶を足して、菊池は柊を見た。普段は賑やかな柊が、好物の地球食を作ってもそれほど喜ばなかったので心配になっていたのだ。

「どうしたんだ? しぐれ。何かあったのか?」

 食糧の買い出しが終わった後、遊びに行って来ると再び出掛けた柊だったが、それ以来どうにもふさぎ込んでいる。船長の南も気遣わしげな視線を柊に向けた。

「え? ああ、何でもないって」

 明らかにはっとした様子で全員を見回して、柊は片手をひらひらと振った。しかし表情がどうもぎこちない。

「どうしたんだ柊、何かあったなら言ってみろ」

 南の真面目な声音に、柊は一瞬口を結んでから、はぁと大きくため息を吐いた。

「そんなに顔に出てるっスか?」

「丸見えのバレバレの大根役者」

 小馬鹿にしたような北斗に、柊はぎろりと視線を向けた。

「てめぇに言われたくねぇよ」

「北斗、挑発するんじゃない。……柊」

 南に促され、柊は再び大きくため息を吐いた。

「……あの連中、今度はスイリスタル太陽系に狙いをつけたみたいっスね」

「ああ、それ知ってる。太陽系内通信衛星が全滅したんだよね」

 果物の皮をむいて中央の皿に盛っていた菊池が、思い出すように小首を傾げた。

「通信衛星が全滅? 惑星間の連絡がまったく取れへんやん」

「うん。だからパイロットが直接通信筒を持って行き来してるんだって」

「そない時代錯誤な」

「と言うより、無理だろう。あの連中相手に惑星間飛行は」

 南は過去最大のピンチを思い出して渋面を作った。

「あの時、うちには北斗がいたにもかかわらず、儲けのほとんどを棒に振った上でかろうじて脱出できたんだ。この船があれだけ大破したのもあの時1度きりだし、そんな連中をまともに相手できるわけがない」

「同感や」

 笹鳴もうんざりしたようにため息を吐いた。あの時はクルー全員が無傷ではなかった。笹鳴自身も自分の治療をしながらクルーの回復にあたったものだ。

「スイリスタル太陽系といえば、レアメタルと薬と精密機器か」

「うん、連中が欲しそうなものばっかりだよね」

 むいた果物にフォークを刺して南に差し出してから、菊池は「ああ」と柊を見た。

「そうか、しぐれってスイリスタル太陽系の航空仕官学校を出てたんだっけね」

 こう見えても、柊はきちんと学校で航法を学んでいた。一時期はUNIONの制服を着ていた事もある。

「あー……まぁそうなんだけど」

「スイリスタル太陽系の、どこ?」

「ウンカイ」

 柊はテーブルに頬杖をついた。

「いいとこだぜ。ちょっと規律は厳しいけど、地球みたいに四季があって、食い物も美味くてさ」

 柊は目を閉じた。

「皇帝が病に倒れた時も、執政官の全員が頑張って持ちこたえて、やっと治癒した矢先に……」

 手にしていたフォークを振り回すのをやめて、柊は目を開けた。

「どうしてっかな……みんな」

 懐古の念に捕らわれた柊にしんみりとした視線が向けられる中、北斗がわざと空気を読まずに、果物にフォークを刺した。

「心配なら行って来たら? 戻ってこれないと思うけど」

「北斗」

 南にたしなめられても、北斗はどこ吹く風ともごもごと果物を食べている。

「せやなぁ、こんな事態やなかったら、寄ってみてもええんやけどなぁ」

「あの海賊が相手じゃな」

 南は真顔になって腕を組んだ。


 翌日からオロチはすぐに商売を再開した。

 稼げば稼ぐだけ税金は増えるが、稼がなければ食べてはいけない。

「税金払いに来たついでに買い付けとは、さすが船長」

「おだてたって何も出んぞ、菊池。さっさと積み込め」

「はーい」

 今回買い付けたものは樹脂だった。リュウキュウ特有の樹木からとれるもので、光沢を出す為に塗るもよし、他の薬剤と混ぜ合わせれば強力な接着剤にもなる。リュウキュウはもともと貿易の盛んな星で、現在大統領に就任しているライウも貿易には力を入れていた。UNION内で着々と力をつけつつある惑星の1つでもある。

「ねぇ船長、しぐれだけど……」

「ああ」

 南は積み上がっていくコンテナを見つめたまま眉間にしわを寄せた。

「気持ちはわかるが、今は遊覧気分で行ける場所じゃない」

「わかってるけど、今日も元気なかったし、ちょっと心配」

 菊池もリストチェッカーで数を確認しながら眉間にしわを寄せた。

「俺だって心配だが、だからと言って柊の為にクルー全員を危険には晒せん。……わかってくれ、菊池」

 菊池は南を見上げた。船長には船長の責任がある。菊池や他のクルーのように気持ちだけで決断はできない。

「うん、ごめんな、船長だってつらいのに」

「柊ほどじゃないさ」

 南は苦笑してみせた。

 その夜、外宇宙に出たオロチの操縦席であちこちの無線を聞いていた北斗は、思わずその周波数に耳をそばだてた。


 翌朝、全員の寝室のドアを叩きまくって大騒ぎしたのは菊池だった。

「みんな起きて今すぐ起きて! しぐれがいないんだ! 小型戦闘機もなくなってる!」

 飛び起きた全員が寝室と格納庫を確認したが、そこに柊の姿はなかった。

「北斗どういう事だよ! 昨日の当番は北斗だったじゃないか! 気付かなかったのか?」

 肩を掴んで揺さぶる菊池を、北斗は面倒そうに振り払った。

「そういえば深夜に出掛けたみたいだったけど」

「どうして止めへんかったんや」

 北斗は不機嫌そうに笹鳴を見た。その後方では、珍しく険しい表情をした南が北斗を睨んでいる。

「……俺でもそうしたからっス」

「どういう事だ?」

 取り乱している菊池を押し退けて、南が北斗の目の前に立った。

「何があった?」

「昨日、ウンカイの防衛用静止衛星『かまいたち』が消滅したんス」

 そこにいた全員が驚愕して目を見開いた。

 通信衛星と違い、防衛衛星となれば監視用にそれなりの設備と、そして何より人が駐在している。その数およそ200人。その命が一瞬で吹き飛んだというのだ。その中に柊の知人がいないとも限らない。

「……どうして俺に言わなかった?」

「言ったら止めたでしょ」

「当り前だ」

「縛ってコンテナに閉じ込めたって出て行くよ、俺なら」

 北斗はまるで子供がふて腐れているような態度で、南から視線を逸らせた。

「過去の仲間が殺されかけているのをわかってて、黙って見てられる神経の方が、俺にはわかんないス」

「行けば死んじゃうかもしれないんだぞ! お前しぐれが死んじゃってもいいのかよ!」

「やめとき、朱己」

 北斗に掴み掛かろうとする菊池を、笹鳴はやんわり止めた。

「そんなん北斗かて百も承知や。せやけどな、ここで見捨てて1人で生き延びたかて、柊は一生その後悔を抱えて生きていかなあかんのやで」

「だからって、死んじゃってもいいって事には全然ならないだろ!」

「大人しせぇ朱己。柊も男やったいう事や」

 何か言いたそうに笹鳴を睨み付けた菊池は、でも結局何も言えずにがっくりと肩を落とした。

 あの海賊は執拗だ。張り巡らされた監視の目をかいくぐってウンカイにたどり着くのは、通常航路ではまず不可能。もし万が一たどり着く事ができたとしても、いったい何ができるというのか。

「……菊池、食事の用意をしろ」

「船長!」

 きびすを返し、南は全員に背を向けた。

「しぐれを放っておくつもり? 今ならまだ連れ戻せるかもしれないよ!」

 笹鳴の腕の中でじたばたもがく菊池の耳に、南の小さなつぶやきが届いた。

「食わずに戦える相手じゃないからな」

 菊池の口がぽかんと開いた。

「……え?」

「オロチは、これからスイリスタル太陽系へ向かう」

 南はゆっくりと振り向き、そして笑った。

「あそこなら、リュウキュウで手に入れた樹脂も高く売れるからな」

「船長……!」

 菊池の大きな目に、見る間に潤んだ光が宿った。

「俺、今すぐ栄養満点のゴハン作る……!」

「おう。北斗! スイリスタル太陽系への航路計算!」

「了解」

 北斗の口角が、満足そうに釣り上がった。


 柊はバカではなかった。

 真っ向から通常航路に添って飛べばすぐにばれてしまう事は知れたので、UNIONの正規航路を外し、電磁波と小惑星の群れの隙間をくぐり抜けるという難路を選んだ。

 大型船であればあっという間に鉄くずになるような航路で、まともな人間なら選択しないし、そもそもできない。ゆえに通常航路には記載されておらず、よほどこの辺りの地理に詳しい者か、あるいは海図解読に長けた者だけが見つけられる残されたスイリスタルへ続く道だった。

 その中を、柊は己の技術と度胸を武器に飛んだ。

 電磁波の影響を最小限にする為に、計器のスイッチをすべて切り、頭の中の計算と感覚から推測できる速度だけで、小惑星の群れの中に突っ込んだ。並の腕なら自殺行為だ。

 次々と襲い掛かる小惑星の間をすり抜ける為には、手の皮がむけるほど操縦桿を瞬時にこまめに倒さねばならず、その上戦闘機で飛び出して来たので燃料も限られる。時間もない。

 自分の勘だけを頼りに、柊はただ1つの願いを胸に飛んだ。

 どうか、みんな生きててくれ。

 それだけを胸に。


「ツキミ参謀! レーダーに反応!」

 疲弊した聴覚神経に飛び込んだ不快な情報に、ツキミは顔を上げた。

 連日による海賊の執拗な攻撃でろくに食事も睡眠もとれていない。血管にオイルが流れていると影で囁かれるほど計算高く合理的なその思考も今は麻痺しかかっている。

 そんな弱音を吐いている場合ではないと、ツキミはレーダーを睨みつけた。ここは惑星ウンカイにとって最後の砦である防衛静止衛星『風林火山』で、自分はその総責任者だ。ここを突破されたらウンカイの命運は尽きる。今ここが正念場だ。

 母星の外へ出ていた民間人達が帰還中に襲撃を受け何百人も拘束され、中継地点として設置されていたコロニーも全て破壊された。『かまいたち』消滅後、圧倒的な戦力でウンカイ軍の戦闘艦は激しい戦闘の末ほぼ半数が撃墜された。物資の供給もできず、今や海賊達を母星に近づけさせないようにするのやっとだ。撤退できる退路も手段もない。母星に押し寄せられたらひとたまりもない。略奪と殺戮が横行し、ウンカイは滅ぶ。

 それは他2星も同じだろう。セイランもヒムロも自分達を守るだけで精一杯のはず。ウンカイへ救助を寄越す余裕など逆さに振ってもないだろう。

 助けは来ない。自分で自分を守らなければ。

 ツキミは疲労を振り払うように小さく頭を振った。

「数とフレンドリーコールは?」

「1機だけで、応答はありません……というより、小型通信機並に電波が微弱でして」

「出力をあげろ。映像確認も急げ。ソウズにカタパルト室で待機するよう連絡」

『もう待機してるぜよ』

 ツキミのモニタに新たなウィンドウが出現し、戦闘機内部にいるソウズの好戦的な表情が映し出された。

『出撃させろ、ツキミ。蹴散らしてやるぜよ』

「急くな、確認が先だ」

 ツキミのモニタにも、その微弱な波形映像が転送された。

「……データにはない波形だな」

 ヒムロの精密機器とセイランの技術力の提供により、ウンカイにはかなり高レベルな軍事設備が存在した。巡洋艦など比較にならないほどの電波層をキャッチできる性能を持っているにもかかわらず、しかしその波形はどのパターンにも合致しなかった。

『出撃させんか、ツキミ。この衛星基地『風林火山』が『かまいたち』の二の舞いになってもいいのか?』

「……待て」

 ツキミのモニタの波形が変化した。まるで不規則に見えるが、微細ながらある法則に乗っ取っている事に、ツキミは気付いた。

「バカな……」

『どうしたんじゃ、参謀』

 いらだったソウズの声を聞きながら、ツキミは呆然とその波形を見つめ続けた。この波形には見覚えがあった。

 5年ほど前に三流海賊がウンカイにやって来た時、たった1人で追い返した仕官学校の生徒がいた。

 当時はまだウンカイの防衛用静止衛星は今ほど設備が整っておらず、あったものと言えばヒムロより試験的に配備された最新鋭の戦闘機が1機のみで、それもレクチャーは次の週の頭に予定されていたため誰も操縦できず、歯噛みしていたその時に、ちょうど研修に来ていた1人の仕官学校の生徒が制止を振り切ってその戦闘機で飛び出し、海賊を叩きのめした。しかし、叩きのめしたのはいいが破損と燃料切れで動けなくなり、わずかに残った通信機能でウンカイ専用の旧式サバイバルコールを使ったSOSを発信して、救出された事があった。

 その時とまったく同じ波形だった。

 あの生徒は能力の高さと破天荒な性格から当時の士官学校で有名で、何度か軍事施設に研修に来るうちに軍関係者と顔見知りになり、皆で弟のように可愛がっていた。

 彼は確か、仕官学校卒業後にUNIONに就職したが、肌が合わなくて貿易船に乗り換えたと聞いている。

「しぐれ……?」

『なんだって?』

「間違いない、しぐれだ。ソウズ、すぐに飛んでくれ。座標はFL235B。動けなくなっている可能性がある」

『しぐれ? しぐれってあの柊しぐれか? いったいどうやって連中の監視を……』

「わからん。だがしぐれだ。向かってくれ、ソウズ」

『了解』

 直後に、カタパルト室から発進を告げる通信が入った。


「しぐれ……!」

 ブリッジに現れた姿に、ツキミはらしくもなく呆然とした。

 あの頃より大人びてはいるものの、間違いなくウンカイ仕官学校始まって以来のあらゆる意味での問題児、柊しぐれだった。

「どーもお久しぶりですお2人とも。また助けられちゃってホントすんません」

 姿形こそ成長していたが、昔と変わらぬ能天気スレスレの朗らかさで笑う柊に、ツキミは思わず一歩踏み出した。

「そんな事はどうでもいい、いったいどうやってここへ……」

「あー、ほら、あの小さい惑星がごろごろしてるとこあるでしょ。あそこ通ってきました」

 にかっと笑う柊に、ソウズが呆れたように苦笑した。

「あんなとこ、俺達だって通らんぜよ」

「いやー、昔よくあそこで腕試ししてたから、大丈夫かなーって」

 笑う柊に、ツキミもソウズもそれ以上言葉が出なかった。あの航路は磁場の関係で小さな惑星や宇宙ゴミが集まっており、その中を衝突せずに飛ぶなど神業だ。

「さすがに無傷って訳にはいかなかったけど、こうして『風林火山』にたどり着けるなんて、俺ってやっぱりすごいでしょ」

 相変わらず気楽に笑う柊の肩を、ツキミは無言のまま抱いた。

 言葉で言うほど簡単だったわけがない。たった1機であの海賊の目をかいくぐるのは命がけだ。それでも来てくれた柊に何て声をかけたらいいのか、ツキミともあろうものがわからなかった。

「……よく来てくれた」

 ようやくそれだけ言ったツキミに、柊もまた言葉を失った。

 あのツキミがここまで感情を表に出すほど、ウンカイは追い詰められているという事だろう。

「……『かまいたち』の件、聞きました。すんません、俺……」

「お前が謝る事は何もない。俺がもっと早くに撤退させるべきだった」

「参謀のせいでもないぜよ」

 ヘルメットを指先に引っ掛けて肩にかついだソウズが、ツキミの肩を叩いた。

「こうなる事はわかとっただろう。ウンカイは、セイランとヒムロよりやや離れた場所にあるからな。俺が連中でも、スイリスタル太陽系を掌握しようとしたら、まずウンカイから叩く」

「他の2惑星とは、まったく連絡がとれないんスか?」

 ツキミとソウズは無言で肯定を示した。

「船を飛ばして連絡を取り合ってるって聞いたっスけど」

「誰1人帰還せず、また誰も来ていない。だから今では」

 ツキミは首を振った。無駄死にさせるだけなので、その原始的な方法すら今は取れなくなっているのだ。

「……俺が飛ぶっス」

「しぐれ」

「船貸してください。絶対にたどり着いて、んで帰ってきます」

 ツキミはかぶりを振った。

「ウンカイ人でもないお前に、命をかけてもらうわけにはいかない」

「水くさいっスよ! つか、俺の腕見くびってんスか?」

 柊がムキになって言い返したその時、通信官の悲鳴がブリッジに響いた。

「レーダーに反応! 戦闘艦です! 約20隻!」

 風林火山のメインルームが凍り付いた。



「最初の目標は、やはりウンカイか」

 セイラン星の皇帝ウスイは、その鋭利な視線を隠すように目を伏せた。全星民の尊敬と信頼を受けていつもなら自信に満ちてるその瞳には、今は深く暗い影が落ちている。

「そのようですね」

 皇帝参謀ノドカはそう返答し、セイランの最前線の軍事衛星から送られてきた資料をウスイのデスクに丁寧に置いた。

「ウンカイは強い。そう簡単にはやられたりはしないだろう」

「簡単ではないでしょう。しかし1つずつ戦力をもがれていくのは、正直恐ろしいです」

 敵は太陽系を包囲できるほどの組織だ。じわじわと飲み込まれていくのは、想像を絶する恐怖だった。

「せめて3惑星で協力して戦線を打ち立てられればな」

「ここと近いヒムロですら連絡が途絶えてしまったのだから、ウンカイはさぞ心細いでしょうね……」

 ノドカは腕を組んで考え込んだ。

 どんな強敵も3惑星で協力しあって撃退してきた。力を合わせればいつだって障害を排除できた。

 しかし今回は。

「俺が甘かった。もっと通信手段に配慮すべきだった」

「ウスイ陛下お1人のせいではございませんし、それを言うなら我々もこんな事になるなどと思っておりませんでした。迂闊でした」

 ウスイは首を振ってから顔を上げた。

「1度でいい。ヒムロとウンカイに連絡がとれれば」

「はい。せめて期日と時間を合致させて総攻撃ができれば、あるいは……」

 しかし、セイランから飛び立った連絡船は1隻も戻って来なかった。

「こうなっては己の星を単独で守り抜くしかあるまい。ヒムロのビャクヤとウンカイのアキサメを信じよう」

 ウスイはノドカの置いた資料を拾い上げ、その文字を追った。

『ウンカイ防衛用静止衛星『かまいたち』に続き、『風林火山』もレーダーより消滅』



「なんてことだ」

 ヒムロの軍事司令官レイカは天を仰いだ。

 あのウンカイ最大の軍事用防衛静止衛星『風林火山』が、一瞬にしてレーダーから消えたのだ。

 あれだけの衛星を破壊するとなると、10以上の戦闘艦でロデア砲の一斉砲撃を浴びせねばならないはずだ。中にいた人間は逃げる間もなく即死、今頃は炭になって宇宙を漂っているだろう。

 長年共に戦って来た盟友がこれだけ傷付いているのに、ヒムロは通信すらできない。

「くそ……っ!」

 殴りつけたデスクがどしんと重い音をたてた。

「落ち着け、レイカ」

 いつもの艶やかな声にわずかな疲労を感じとり、レイカは力なく振り向いた。

「ビャクヤ陛下……」

 レイカが緩慢な動きで振り返ると、ヒムロの皇帝ビャクヤが司令室に入ってきたところだった。普段の閉口するほどの俺様ぶりはなりをひそめ、今はただ威厳だけを見にまとっている。

「ウンカイ本星が落ちたわけじゃねぇ。アキサメの事だ、黙ってやられる可愛げはねぇだろう」

 衛星『風林火山』の周波数を捕らえていたレーダーが沈黙しているのにちらりと視線を向け、ビャクヤは手近な椅子に腰かけた。

「へこんでられねぇぞ。ウンカイが落ちれば次はここかセイランだ。……まぁ、十中八九セイランだろうがな」

「なぜそうと?」

「バーカ。ヒムロは精密機器を売りにしてるんだ。それなりの兵器がある事くらい、馬鹿な海賊どもでも想像できるだろうよ」

「そうですね……セイランの資源は薬ですから」

「だが、どっちにしても時間の問題だ」

 ヒムロの軍事衛星の様子を知らせるモニタを視線で撫で、ビャクヤはわずかに目を伏せた。

「何とか連中の戦闘艦団を突破して、セイランを経由してウンカイにあれを届けてやりてぇところだが」

「あれってまさか、あのタンホイザー砲ですか? 完成したので?」

「ほぼな」

 ビャクヤは椅子にふんぞり返って長い足を組んだ。

「1発撃つたびに砲身が劣化する部分さえ改善できれば完璧だ」

「劣化?」

「砲身溶接部が溶解して本体から分離する」

「……お言葉ですが、致命的なのでは……」

「1発くらいならなんとかなる。半径50万キロは塵も残らねぇ」

 ビャクヤは両腕を組み、目を閉じた。

「あと少し海賊どもが攻めて来るのが遅ければ、リュウキュウにあの樹脂を発注できたんだがな……」



「ぎゃわー! し、死ぬー!」

「うるさい! あんた、ちょっと、黙ってて!」

「だって、ぶ、ぶつか……っげふっ!」

 舌を噛んで目を白黒させる菊池に覆い被さるように、笹鳴がミキサー内のように回転するブリッジでモニタを見た。

「45度旋回! 左前方に直径8メートルの」

「うっさい! あんたも、黙って、て!」

「こない状況で黙ってられるか! 1つでも隕石にぶつかったらオロチは終わりやで! あ痛!」

「わかってる、から、黙って! 気が散る! バカ!」

 北斗は360度回転する操縦桿を駆使して、雨のように降り注ぐ流星群を間一髪で避け続けていた。並のパイロットなら流星群に突っ込んで2秒で蜂の巣になるところを、北斗はかれこれ30分以上飛び続けている。

 笹鳴はとうとう菊池の席から転がり落ちてブリッジの壁に激突した。船長席では、南がさっきから胃を押さえてうずくまっている。

 この、通称流星川を航路に選んだのは、船長である南だった。

 海賊の目を逃れてウンカイを目指すなら柊の選んだ小惑星ロードが最短だが、惑星の粒子が細かすぎてオロチでは通過が事実上不可能であり、ヒムロに近い流星川となったのだ。

 南だって普段ならお金を積まれても飛びたくない航路だが、ここしかないのだから仕方ない。あとの航路はすべて海賊連中に押さえられている。

 やっとの思いで船長席近くにたどりついた笹鳴が、これ以上吹っ飛ばされてたまるかと南の肩にしがみついた。

「こないけったいな道、よう本気で飛ぼう思うたな、自分……!」

「お、俺だって北斗がいなければ、こんなとこ、選ばん! 北斗の邪魔になるから、自分の席に、戻れ、笹鳴!」

「わかっとる! こないなったら北斗と心中や!」

 笹鳴はブリッジ内の自分の席まで転がりながら移動し、ぜいぜい言いながらベルトを締めた。医師の肩書きで乗船している笹鳴だが、ブリッジには専用のシートが用意されており、実はこれでも狙撃手としての腕を持っている。

 柊と同じように、北斗はほとんどの電子機器をオフにした状態で操行していた。こうしなければ海賊団のレーダーに引っ掛かって総攻撃を受けてしまう。柊の使った機体を大幅に上回る大きさのオロチでこれだけ降り注ぐ隕石をかわしながら飛ぶなど、まともな人間なら発想すらしない。だから海賊団の目を欺けてもいるのだが、いくら北斗でもこんな航路を一切のレーダーなしで飛ぶなど無茶苦茶だった。

 それでも北斗は、目視可能なディスプレイと勘だけを頼りに、人間には不可能な飛行に挑んだ。こんな無謀な真似に躊躇なく突っ込んでいける度胸こそが、至上最年少で1級ライセンスを手に入れた所以でもある。

「痛った……! 北斗頑張って! 俺の計算が正しければ、あと7分で、流星群を抜け、痛った!」

「うるさいって、言ってんで、しょ!」

 オロチはぐるんと180度旋回した。


「何者かが防衛ラインに侵入! 数1隻!」

「1隻? 連中寝ぼけてんのか?」

 ヒョウガはさっき帰ったばかりの戦闘服のまま、モニタを覗き込んだ。

「1隻ですが、出力ゲージは軍艦クラスです!」

「まさか、軍艦1隻でこのヒムロを落とそうなんて、なめた真似してくれてんじゃねぇだろうな」

 舌打ちするヒョウガの後ろで、部下の1人がきびすを返した。

「ヒムロの軍事衛星を出し抜いて本星にたどり着いたのなら、並の相手ではありません。自分が出ます」

「お前だってさっき偵察から戻ったばっかじゃねぇか。おい通信班、フレンドリーコールは?」

「発していません」

 ヒョウガは再び舌打ちした。

「レイカ軍事司令官に知らせろ、俺も出る」

「あ、待ってください。……停止しました。モニタに出します」

 格納庫へ向かおうとしたヒョウガと部下は、足を止めてモニタを見上げた。座標軸を示した天井を埋め尽くすモニタには、ぽつんと1つだけ位置を示す光が灯っている。

「……通信班、ロデア砲の軸線は?」

「乗ってません。双方ともロデア砲及びミサイルは届きません」

 通信員はチャンネルを少しずつ修正して、モニタに戦艦の映像を拡大した。

「ヒョウガ提督、もしかしてあそこに出現する為には、流星川を通らなければならないのでは?」

 ヒョウガは片眉を跳ね上げて、もう1度座標軸を確認した。

「……確かに。何だあれは。敵じゃねぇのか?」

「何事だ」

 ビャクヤが寝不足を張り付かせた表情で司令室に姿を現した。連日に渡る被害の補修補填でここしばらく一瞬たりとも気は休まっていない。今はほとんど気力だけで立っているようなものだ。

「ビャクヤ陛下、戦艦1隻が防衛ライン内に現れたんです。でも何かおかしい」

「おかしい? おい、映像はまだか?」

「なにぶんまだ遠くて。横にノイズが入りますが、輪郭くらいなら」

 巨大モニタの一部にウィンドウが開き、おぼろげな姿が映された。白く細長い、先頭と後尾は流線形だが全体的にはナイフのように直線的な船。どう見ても軍用艦には見えない。それどころか、ぼんやりと見える船名に、ビャクヤは何となく見覚えがあった。

「あれが戦艦? レーダーがぶっ壊れてんじゃねぇだろうな」

 寝不足の頭を回転させて、ビャクヤは記憶を探った。どこかで見た船名だ。

「どっちにしても、衛星の防衛ラインを突破してくるなんてただ者じゃありません。しかも、あの流星川を越えたとなると」

「何? あの川を越えて来たのか?」

 ビャクヤは食い入るように船体に見入った。

 確かにあちこちに隕石がかすめたような傷が見えたが、あの川を越えられる腕を持っているパイロットなど、ビャクヤは後にも先にも1人しか知らない。

 ビャクヤの記憶が甦った。

「回線繋がりました! 映像出ます!」

 新たにウィンドウが開き、モニタに涙目になっている猫っ毛の少年が大写しにされた。

『船長! 船長繋がったよ! 見て! ほめて!』

『わかったから叫ぶな菊池……。こちら自由貿易船オロチ、ヒムロ本星応答願います』

 船長らしき男に切り替わったモニタを見て、ビャクヤは通信機を手にした。

「こちらヒムロ皇国皇帝、ビャクヤ・ヒムロ。こんなところまで何用だ? オロチ」

『何用って……』

 南はモニタの向こうで苦笑して見せた。

『俺が惑星を渡るのは貿易の為だが?』

「ふん、こんなところまで来るとは、相当台所が焦げ付いてるみてぇだな、南」

『税金払った直後なんだ。商売させてくれないか? ビャクヤ』

「いいぜ。降りてきな」

 座標軸上の光が、ゆっくりとヒムロ本星に向かいはじめた。


「うわぁ、すごい星だね」

 菊池は貨物ターミナルへ出てあんぐりと口を開けた。

 上空から見えた整備された区画からおそらくかなり近代的な星ではないかと想像していたものの、ヒムロは思っていたよりずっと洗練された美しい惑星だった。

「そうか、菊池はここに来た事がなかったんだったな」

 南は全員を促して、ターミナルから最寄りのエレベータへ足を向けた。

「うん。俺が1番この船に乗ったのが遅いから」

「その割には態度でかいよね」

「お前だけには言われたくないよ、北斗」

 疲労のあまりかぶっている帽子すら重そうだったので、菊池はかろうじて北斗を蹴るのをやめた。

「それより、どうして船長はヒムロの皇帝陛下にタメ口なんだ? 大丈夫なのか?」

「ん? ああ、ちょっとした知り合いなんだ」

 移動用モノレールに全員が乗り込んでから行き先を指示すると、モノレールは無人のまま勝手に動きだした。

 そして、司令室奥にある応接ルームへ通されたオロチのメンバーのもとへ、格別優美な人物が姿を現した。

「久し振りだな、南」

「ああ、お前も生きていたようで何よりだ」

 南と軽く握手をして、ビャクヤはソファに座った。それにならって全員も掛けると、ビャクヤは疲労いっぱいの表情ながらも笑ってみせた。

「こんな状況だ。ろくなもてなしはできねぇぞ」

「もてなして貰う為に来たわけじゃない」

「まったく、物好きな野郎だな。……ん? 1人入れ代わったようだな」

「入れ代わったわけじゃない。こいつは貨物管理と航法補佐と食事を担当してもらってる新メンバーの菊池。柊は今、多分ウンカイだ」

「多分?」

 ビャクヤの視線が鋭さを増し、南はビャクヤに事情を説明した。

「……まったく、てめぇの船には命知らずしか乗れねぇようだな」

 南は苦笑しただけで反論しなかった。

「で? 戦争ど真ん中に首突っ込んでまで持って来た積み荷ってのは何だ?」

「プレイアン樹脂。必要かと思ってな」

 ビャクヤが息を呑んで顔を上げた。

「南、てめぇ……」

「風の噂でタンホイザー砲が完成間近だと聞いたんだが、これがないと1発のみの使い捨てになるんじゃないのか?」

 ビャクヤは呆れたような申し訳ないような、複雑な表情でうつむいた。

「……恩に着る」

「よせよ、お前が殊勝だと気色悪い。その代わり全部引き取ってくれよ。プレイアン樹脂4,000トン」

「言い値で引き取ってやる」

 ビャクヤは苦笑した。


「じゃあ、船長は最初からスイリスタル太陽系のヒムロに来るつもりだったってわけ?」

「どうやろなぁ」

 与えられた客室で、笹鳴は紅茶をすすりながら菊池に向かってにこりと笑った。

「ただ、ヒムロで開発中のタンホイザー砲には接着部分で問題があるいう事は、知っとったって事やろな」

「だったら、言ってくれたらしぐれだって1人で行こうだなんて思わなかったかもしれないのに」

「南は南でクルーを巻き込めへん責任がある。柊には柊で、自分の問題やいう理屈がある」

「なんだよそれ」

「男いうんは面倒な生き物やって事や」

「俺だって男なんだけど」

「あんたにはまだ早いって事でしょ」

「ちょっと北斗、俺、お前より年上なんだけど」

 文句を言いながらも、菊池は北斗の身体を気遣ってタオルケットを掛け直した。相当疲労したのか、北斗は客室のソファに倒れ込んだまま水分も摂ろうとせず、菊池がさっきから世話を焼いている。

「ゆっくり休めよ、北斗。後で美味しいゴハン持って来るから」

「……そうも言ってられないと思うよ」

 なんで? という顔を菊池がした時、ビャクヤと話し込んでいた南が客室へ戻って来た。

「お帰り船長。どうだった?」

「ただいま。本当に言い値で引き取ってくれたよ」

 そう言った後、南はいつもの穏やかな笑みをゆっくりと消して、北斗を見た。

「北斗……今夜、発てそうか?」

 北斗はおっくうそうに片目を開けた。

「え? ちょっと船長、北斗はこんなにくたくたなんだよ? 無理させないでよ」

「無理でも何でも、飛んでもらわなきゃセイランとウンカイの命運にかかわる」

 緊張した南のセリフに、菊池は息を呑んだ。南がこういう表情の時はかなり差し迫った状況であるという事を、菊池は身をもって知っている。

「今現在、ヒムロの兵器部門が全力でタンホイザー砲の改良にあたっている。接続部だけだから全砲合わせて10時間、プライドにかけてフル稼動で修正するそうだ」

 全員が黙って南を見つめていた。

「セイランに20砲、ウンカイに20砲、この2日以内に何とかして届けたい」

「ちょ……ちょっと待って船長。どうしてそんなに急ぐんだ? 何があったんだ?」

 南は表情を曇らせた。

「今朝方、ウンカイ最大の軍事衛星『風林火山』が消滅したそうだ」

「……え?」

「あれがなくなれば、あとの衛星など簡単に突破できる。ウンカイは丸裸も同然の状態だ。……そして」

 南は静かに目を閉じた。

「柊がもし無事たどり着いたとすれば……ウンカイ本星ではなく、多分『風林火山』だ」

 菊池の顔から表情が消えた。

「助けてやりたい。せめて柊が守りたかったものだけでも」

 部屋全体に重苦しい空気がのしかかった時、北斗が小さくため息を吐いた。

「飛んでもいいけど、条件2つあんだけど」

「何だ?」

「1つは、オロチのD換装」

「わかってる。基本的にはタンホイザー砲を積んだ船を守る形での操行になるから、最初からそのつもりだ。もう1つは?」

 北斗は気怠げに左手で菊池を指した。

「夕食は、この人の作った宇宙一美味い茶わん蒸しとみそ汁がいい」

 南の視線に菊池はぶんぶんと首を振って両頬を思いきり叩いた後、「任しとけ!」と涙声をこらえて叫んだ。



 深夜0時ちょうど、惑星ヒムロ皇国から、Aクラス貨物船の1団が飛び立った。

 タンホイザー砲を10ずつ積んだ4隻の貨物船は、発進からほとんど全速力でセイランへ向かった。その周囲に、D換装を行って身軽になったオロチと、ヒムロの護衛艦がいくつか付いて来ている。本星の防衛も怠る事はできないので護衛艦は多くはないが、ビャクヤは心配していなかった。

 オロチがなぜ、このヒムロ防衛ラインに入って来た時に戦闘艦だと認識されたのか、その理由を知っていたからだ。

「頼むぜ南……!」

 モニタルームから、ビャクヤは小さくなる船団を見守った。


「D換装は上手くいったみたいだね」

 北斗は小回りのきくようになったオロチの操縦桿を握り締めた。

「久し振りだったから、ちょっと手間取っちゃったけどね。……それより北斗、身体大丈夫?」

「そんなにやわじゃないよ。あんたと違って」

「軍隊あがりと一緒にすんな。なら本当に大丈夫か、見せてもらおうじゃないか」

「……任しといて」

 北斗の目が好戦的に輝いた。戦闘機が30機ほどレーダーに映っている。

 オロチは貨物船として登録しているので公式には武器はせいぜいプレ・ロデア砲が2つしかない事になっているが、実は貨物部分を切り離せば一級巡洋艦クラスのエンジンを搭載した軍艦に化ける事ができる。それがD換装だった。

 普段は配管やパイプに化けているが、プレ・ロデア砲6門、レーザー砲8門、ミサイルに至っては全部で16門の砲身を積んでいる。

 ヒムロの護衛艦のどれよりも早く、オロチは飛び出した。

「プレ・ロデア砲ディスチャージ!」

「自動照準システムオーバーや」

「北斗、好きにやれ。俺が許す」

「ういーっス」

 貨物部分を切り離したオロチは、まるで水の中を泳ぐ魚さながら、滑らかに素早くミサイルとプレ・ロデア砲をくぐり抜けると、いくつもの戦闘機をすり抜けざまに撃ち抜いた。

 そのまま反転して背後から追撃ミサイルを発射する。

「うさぎ狩りやな」

「北斗、8時の方角からも敵接近。数およそ40。いける?」

「当然。もうちょい欲しいくらいだね」

 北斗は上唇をぺろりとなめた。

 撃っては逃げ、逃げては追い詰め、そのたびに海賊の持つ戦闘機は一瞬の炎を上げて消滅し続けていく。

「10時の方角より追撃型ミサイル!」

「タイプは?」

「ノーマル!」

「鴨だね」

 北斗はわざとミサイルの方向へ出力口を向け、引き付けたまま敵戦闘機の出力口ギリギリをかすめてすり抜けた。出力口の光や熱に目掛けて飛ぶノーマルタイプの追撃型ミサイルであれば、これでだいたいのミサイルは勘違いして爆発する。

「船長、後ろの護衛艦に出て来ないように言って。邪魔」

「了解。ったく、どっちが船長だかわかんないな」

 南は通信スイッチを入れ、ヒムロの船はそのまま全力でセイランに機首を保つよう告げた。

「2時の方角より巡洋艦接近!」

「D換装したオロチをなめられてたまるかい。北斗、巡洋艦は俺に任せぇ」

「好きにすれば?」

「菊池、お前は北斗の補佐をやれ。俺は笹鳴に回る」

「大丈夫だよ船長。これでもしぐれと北斗、2人のナビやってんだから。船長は上をお願い」

 誰もいない柊の席に、南は一瞬鋭く目を細めた。

 前回は命からがら逃げ出さねばならなかった。

 今回は大事なクルーを奪われた。

「いいかお前達、敵に情けをかけるなよ。柊の弔い合戦だ」

「あったりまえだ! オロチの全部で刃向かってやる! 巡洋艦用ミサイルランチャー全門照準およびプレ・ロデア砲集中放射準備完了! 出力曲線ランクFカテゴリー3!」

「以前のオロチと思うんやないで。300ミリミサイルランチャー発射!」

「接近ホーマー準備完了! パルスレーザーディスチャージ! 敵までの距離20!」

「トロいんだよ。時速で飛んでんじゃないっての」

 オロチはヒムロからセイランまでの航路を、ほぼ1機ですべての船を守り抜いた。



「ヒムロからの貨物船が4隻に、護衛艦が6隻……信じられんな」

「僕も、レーダーに映った時はまず故障を疑いました」

 セイラン星第一空港で、皇帝ウスイと参謀ノドカはターミナルに着艦している10隻の巨大船を見てあぜんとした。

 あれだけの海賊船をくぐり抜けてほとんど丸腰の貨物船4隻を運ぶなど、奇跡としか言い様がない。

「時間がない。少し休んだらすぐにウンカイへ向かうぞ」

 1つだけやたら小さい白い船の船長がどうやらこの巨大な船団をまとめているらしく、ウスイはその人物に近付いた。

「失礼。俺はセイランのウスイというが、君は?」

 南はびっくりしたように目を見開いて、ウスイを見返した。

「あ……ああ、自由貿易船オロチの船長、南ゆうなぎです。ウスイ……皇帝陛下?」

「そうだ。これはいったい」

「詳しい事は、クルーを1人置いていきますのでそいつに聞いてください。俺達はこれからすぐにウンカイへ向かいます」

 南は自分の背後にいた猫毛の少年の肩を叩いた。

「船内で話した通りだ。大丈夫だな? 菊池」

「頑張る」

 菊池は真顔で頷いてから、ウスイに向かってちょこんと頭を下げた。

「こいつにはちょっと特殊な力がありまして、3惑星の中で防御的にもっとも薄いこの星を、こいつなら守る事ができるでしょう」

「……彼が? この星を?」

 ウスイは訝し気な表情を作ったが、おそらくそれはヒムロから持って来た武器にかかわる事なのだろうと思い直した。華奢なこんな身体で、たった1人でこの星を守れるわけがない。

「何か我々にできる事は?」

「燃料補給させてください。あとミサイルをいくつか」

「すぐに」

 慌ただしい準備の後、貨物船2隻と護衛艦6隻、それにオロチは、ウンカイへ向けて発進した。

 それを見送って、菊池はウスイへくるりと振り向いた

「では説明します。まずヒムロの最終兵器タンホイザー砲についてですが……」




 セイランからウンカイへの道のりは、ヒムロからセイランまでの距離の優に3倍を超える。

 その間、ヒムロとセイラン間の何倍もの激しい攻撃を受け、護衛艦の数は6から5へ、5から4へと減っていった。

 最速機動力と最大攻撃力を誇るオロチは撃墜こそ免れたが、不眠不休のクルーは全員ぼろぼろだった。特に北斗は消耗が激しく、半ば操縦桿にもたれるようにして船を操縦し続けた。

 菊池の不在もかなり響いていた。ナビをしながら攻撃をするというのは、思いのほか神経を削る。その上、本来ならいるはずの副操縦兼航法担当の柊もいないのだ。

 ウンカイに到着した時には、かろうじて無傷なのは貨物船2隻だけで、護衛艦の数は出発時の半分の3隻、オロチはプレ・ロデア砲とレーザー砲が全滅、残るミサイル砲も5門を残して大破しており、ウンカイのエアポートに降り立った時には、護衛艦3隻がすべて火を吹いているという有り様だった。

 それでも、ヒムロの最終兵器タンホイザー砲は、無傷のままウンカイへ届いた。

 南は絡まる足でオロチから降り、ウンカイの司令室を目指した。タンホイザー砲を運んだだけでは計画はまだ半分。これで同じタイミングで一斉反撃をしなければ、おそらくあの海賊には勝てない。

 あの海賊だけは、絶対に許さない。柊の仇を撃つ。

 そう意気込み、最後の気力を振り絞って司令室のドアを開けた南の目に、信じられない光景があった。

「あ……あ……え?」

「船長!」

 駆け寄って南を押し倒し、床に後頭部を強打させた人物は、死んだと思っていた柊だった。

「来てくれたんスね! 船長!」

「ちょ、だって、『風林火山』は……」

 こぶを作るほどの痛みもまるで意に介さず、南は慌てて起き上がって柊の顔を覗き込んだ。

「脱出したんスよ」

 柊は寂し気に笑った。

「戦闘艦20隻に囲まれた時、ウンカイの『風林火山』本部全員が、ツキミ参謀とソウズ提督を連れて逃げてくれって」

 自分達はここで『風林火山』とできるだけ長く運命を共にする。しかしツキミ参謀とソウズ提督は今後のウンカイに必要な人だからと、2人を気絶させてまで小型船に乗せ、柊が操縦して脱出した。そうして、『風林火山』に残った他のメンバーは全滅した。あれだけの戦闘艦に囲まれた時、彼等は覚悟を決めたのだ。

 説明を聞き終わった後、南は柊を抱き締めて背中をぽんぽんと叩いた。

「状況はどうであれ、無事でよかった……! みんな心配してる。菊池なんか泣いてたぞ」

「みんな来てるんスか?」

「いや、ウンカイに来たのは北斗と笹鳴と俺だけで、菊池はセイランに置いてきた」

「セイランに? ……なるほど、そういう事か」

 ひとしきり再会を祝った後、南はようやく立ち上がって、ウンカイの皇帝、アキサメと視線を合わせた。

「まずは着陸許可をありがとうございました。自由貿易船オロチの船長、南ゆうなぎです」

「ようこそウンカイへ。こんな状況だが歓迎するよ」

 アキサメは以前命にかかわる病に冒されたと聞いていたが、今はその面影はまったくなかった。かなり疲弊しているものの、覇気と高潔さに満ちている。

「それより、いったいこれはどういう事だ?」

「説明します。我々はヒムロより最終兵器をお持ちしました」

「ヒムロの最終兵器……?」

 アキサメが訝し気に復唱した時、南の耳に脳天気な声が届いた。

「なんや、柊やん」

「残念、生きてたんだ」

 疲れて平淡な口調の笹鳴と、ぼろぼろながらも口の減らない北斗の言葉に、柊は半眼で南を睨んだ。

「船長、本当にこいつら俺の事心配してたんスか?」

 南は半笑いになった後、真顔になってアキサメに向かった。

「場所を変えましょう」



 スイリスタル太陽系共通の暦でオロチがウンカイに到着した翌日の午前10時、3つの惑星は同時に一斉反撃を開始した。

 ヒムロの造り上げた最終兵器タンホイザーとは、反陽子ミサイルだった。最大級ならこれ1本で惑星1つを消し去る事も可能という、核ミサイルをも上回る破壊力を持つ。

 各星20門のタンホイザー砲は、オロチの運んだ樹脂のおかげで砲芯が焼き切れる事もなく、たった2日でウンカイ周辺の海賊の数を半分近くにまで激減させる事に成功し、海賊達を震撼させた。

 特に衛星を破壊されたウンカイの恨みは深く、皇帝の厳しい性格もあって、ウンカイ周辺の海賊は少しずつ撤退せざるを得ず、更に残った戦闘艦と戦闘機で総出撃で追撃したので、まさに駆逐という言葉に相応しい反撃に成功した。

 しかし、この程度でよしとするアキサメではない。更に追撃するようウンカイ全域に号令をかけた。

 これは南を介してビャクヤから申し渡された作戦内容でもあった。

 ヒムロも全力で海賊殲滅にかかるので、ウンカイもどれだけ苦しくても追い掛けてくれと、アキサメは南に言われていたのだ。

 ウンカイはセイランやヒムロより離れた場所にあったが、死力を尽くして海賊を追撃した。メカニックがフル稼動して、オロチも機動力攻撃力ともに半分ほど復活し、見切り発車的に出撃して戦力となった。

 ウンカイから追い捲くられ、ヒムロからは猛反撃を受け、3惑星にそれぞれ分布していた海賊団は、必然的にセイラン付近に集結しつつあった。

 3惑星中もっとも戦力の少ないセイランに全海賊団の戦力を集める事は、アキサメは最初反対した。そんな事をすれば、セイランは狙い撃ちにされる。自分なら全勢力をかき集めてセイランを征服し、その軍事施設や武器を駆使して迎撃するだろう。

 だが南は絶対に大丈夫だと言い切った。

 それだけのものをセイランには置いて来たと、笑みすら浮かべて口にしたのだ。

 だが、セイランももちろん全力で反撃したが、そもそもの軍事力が他の2星と違い過ぎた。セイランは錬磨し精製する事には長けていたので、技術力の提供は3惑星中随一だったが、皇帝のウスイがそれほど軍事力を抱え込もうとするタイプではなかったのだ。

 防衛力こそヒムロやウンカイと同クラスのものを持っていたものの、耐えるだけには限度がある。だからアキサメは最後までその作戦に反対したが、それでもと南に強く言われ、渋々その作戦に協力した。

 そのアキサメの思惑通り、セイランでは増幅器を使ったスイリスタル最大のSシールドも出力機が焼き切れるほど限界近く、兵士達も浮き足立った。中にはヒムロとウンカイはセイランを見離して自分達だけ助かろうとしていると口にする者もいたが、それでも、どちらかの惑星からの連絡が必ず入る、だからそれまで全力で耐え抜けと、皇帝ウスイの指示が毎日兵士達を鼓舞した。

 だがそんなウスイの叱咤も虚しく、防衛静止衛星が破壊され、防衛ラインを越えた海賊団が、とうとうセイランの大気圏付近に姿を現した。

 地上から視認できる距離に姿を現した海賊団には、さすがにセイラン兵士達も戦慄した。もうSシールドもタンホイザー砲も使えない。

 しかしその時、セイランの兵士達は我が目を疑った。

 大気圏に突入した途端、海賊船団はガラスにぶつかる水風船のように変形し、残らず爆発しはじめたのだ。

 上空を染めるオレンジ色の炎に、兵士達は訳もわからず歓声をあげた。中には神の加護だと叫ぶ者もいる。

 そんな声を横目に、ウスイは愕然と隣の人物へ視線を向けた。

 近付く事はできない。その身体は白熱化し、輪郭がぼやけている。

「これが……オロチの最終兵器か……!」

 セイラン軍事司令官のセイメイもその様子を見てそれ以上言葉が出ないようだった。

 大気圏にあるあらゆる物質すべての同一原子番号の原子の中性子数を強制的に変換して質量数を変化させ、わざと安定同位体を不安定にさせる。すると放射線を発して崩壊し、放射性同位体となる。

 ウスイとセイメイの横で床に膝をつき、胸に両手を抱えるようにうずくまっている人物が、大気圏層を利用してそれを行っているのだ。

「信じられん……アイソトープを人為的に変化させるだけじゃなく、それを操れる人間がいるなど……!」

「……いったい何が起きているんだい? セイメイ」

「ああ、俺自身が信じられんので上手く説明できないかもしれないが、つまり彼は、宇宙の塵から莫大な放射能を作り出しているんだよ、ノドカ」

 突然出現して海賊船を破壊した放射能は、再び質量数を変換して無害なアイソトープに戻っている。それが瞬時に爆発的に行われていた。

「つまり彼は、大気圏で意識的に核爆発を起こしているという事か……?」

「多分……そうじゃないと説明がつきません」

 ウスイは息を呑んだ。

 南が言った「こいつなら守る事ができる」というのは、比喩ではなく言葉通りだったのだ。

 菊池はさっきから微動だにせずうずくまっている。

 これだけ離れた場所から、セイランに侵入しようとする海賊船すべてを核爆発させているのだ。ただの塵で。

「まったく信じられん……タンホイザー砲並の兵器だ」

「無害さで言うならタンホイザーを上回るでしょうね。地球人にはまれにESP能力を持つ者がいると聞いた事はありましたが、こんなに凄まじいなんて知らなかった」

「いや、俺のデータでもここまでの能力者はいない」

 セイメイ軍事司令官は唸った。

 菊池が全力でセイランを守っているその時、惑星間での争いも決着がつきつつあった。

 総力を上げて反撃するウンカイに、海賊団がとうとうセイランまで退却した頃、ヒムロもようやくセイラン近くまで艦を進めるに至っていた。

 セイランとはそれほど距離が離れていないはずのヒムロが駆け付けるのにこれほど手間取った理由は、ヒムロとセイランが同時に反撃に転じた時に、海賊団がセイランに向けていた戦力の半分をヒムロに向けたからだった。

 テロリストまがいの海賊の全戦力の半分を向けられたヒムロは、それでも全身全霊で迎撃した。

 自分達で作ったタンホイザー砲に絶対の自信を持ち、ウンカイが必ず駆け付けると信じたのだ。

「SPACE UNIONですら手を出せなかった海賊どもを、俺達スイリスタルが片付けるぞ」というビャクヤの言葉に、ヒムロの兵士全員が持てる力すべてでもって逆襲し、満身創痍で駆け付けたウンカイととうとうセイランの上で会合を果たして、海賊団を完全に包囲した。

 タンホイザー砲を積んだウンカイとヒムロの艦隊にセイランの放射能の壁に押し付けられ、海賊達の進退が極まったその時、ヒムロとウンカイ両方の戦艦に、オロチからの通信が入った。

『セイラン目掛けてタンホイザー砲を撃て!』

 ヒムロ、ウンカイ両星の艦長は、その通信にぎょっとした。そんな事をすれば、セイランは間違いなく吹っ飛ぶだろう。

「そんな不名誉な真似できるか!」

「セイランを見殺しになどできん!」

『いいから撃て! セイランなら大丈夫だ!』

 いくら南が大丈夫だと言っても、タンホイザー砲の威力はすでに何度も目の当たりにしている。とても踏み切れるものではなかった。

 だがその時、当のセイランから、ウンカイとヒムロ両艦隊へ通信が入った。

 撃て、と。

「どうなっても知らねぇぞ……! タンホイザー砲準備! 目標セイラン! 発射と同時にSシールド全開!」

「セイランに何かあったらただでは済まさん。タンホイザー砲照準セイラン! 砲撃と同時にSシールド最大出力!」

 1本で惑星1つを破壊するような半陽子ミサイルの照準が、2つの戦艦からセイランに向けられた。

『カウントダウンするから絶対にタイミングを合わせてくれ。秒読みいくぞ。60、59、58、57……』

 5、4、3、2、1。

『撃て!』

 同時に2つの惑星を消滅させられるほどの破壊力が、セイラン目掛けて同時に発射された次の瞬間、スイリスタル全域が振動するほどの衝撃が各艦隊を襲った。




「……菊池。菊池、大丈夫か?」

 菊池はうっすらと目を開けた。

「あー……おはよ……船長」

 南はほっとして、菊池の寝ていたベッドに腰かけた。

「よかった。よくやったな、菊池」

「うー……みんなは?」

「無事だ。オロチはちょっと壊れちまったが、ヒムロもウンカイも、もちろんセイランも無事だ」

「よかったぁ……」

 菊池は身体をベッドに沈ませた。

「さすがに半陽子ミサイル2個はきつかったよ。頭蓋骨まで砕けるかと思った」

「すまん。だがああするほかなかったんだ。許せ」

「わかってるけど、しばらくはレトルトで我慢してよね」

「……せめておにぎりにならんか?」

「ならん」

 溜め息をついた後、南は苦笑した。

「そうだ菊池。もう1ついいニュースがあるぞ」

「何?」

 菊池が南に顔を向けた時、ばたばたと賑やかな足音が近付いて、ノックもなしにドアが開いた。

「おっはー! 朱己! 目ぇ醒めたか?」

「し、しぐれ……っ!?」

 菊池は思わず上半身をおこしかけて失敗し、南の膝の上に倒れ込んだ。

「ばっかお前無理すんなよ」

「だ、だってしぐれ! お前生きて……!」

「生きてるぜ。この俺がそう簡単に死ぬ訳ないだろ?」

「液体窒素の中にでも放り込まない限り死なないんじゃない?」

 ジュースのパックを手にした北斗と、その後ろから笹鳴も姿を見せた。

「おー朱己、おはようさん」

「みんな無事で……!」

 感極まった菊池は、目をうるうると潤ませた。

「ばっか朱己、そんなに俺の事が心配だったのか?」

 柊が菊池に近付いてその猫っ毛を撫でようとした瞬間、菊池のパンチが柊のみぞおちに決まった。

「げっふ……っ! なにすンだよ……!」

「当り前だバカ! 1人で飛び出して心配かけて! 今日からお前だけ1週間お茶漬けだ!」

 腹部をおさえて涙目になった柊が「そんなぁ」と情けない声を上げた時、更に客が入室してきた。

 スイリスタル太陽系3皇国の3皇帝、ビャクヤとウスイとアキサメだった。

「賑やかなだな。邪魔してもいいか?」

 3皇帝が一堂に会する図というのはそうそう見られるものではない。オロチのメンバーは、無礼な北斗以外の全員が姿勢を正した。

「今回の協力にはどれほど礼を述べても足りないが、それでも言わせてくれ。……ありがとう」

 セイラン皇帝に頭を下げられ、南は挙動不審気味になって両手の平を振った。

「あ、いや、こっちこそ、うちのクルーがウンカイに迷惑をかけてしまって申し訳ない」

「とんでもない。しぐれがいなかったら、うちのツキミもソウズも宇宙の塵になっていたところだ。感謝している」

 そう告げるアキサメの隣で、ビャクヤは低く笑った。

「部下どころか、太陽系そのものの未来が塵になってただろうよ。ったく、好き好んであの海賊共に立ち向かうとは、物好きな連中だぜ」

 南は肩をすくめてビャクヤを見た。

「ビャクヤには1度ポーカーで負けた借りを作ったままだったからな。それを返しに来ただけさ」

 菊池は呆れて南を見た。

「もしかして、皇帝とは『ちょっとした知り合い』って、ポーカー?」

「ああ、こいつひどいんだ。仮にも皇帝が一般人のふりをして酒場に現れて、他人に賭けを吹っかけて回ってたんだ」

 俺はそれに引っ掛かったんだ、とため息を吐く南に、部屋にいた全員が苦笑した。

「……まぁ、ヒムロの皇帝へはポーカーの返礼だとしてもだ。我がウンカイはしぐれと、そして君たちに運命を救われた。礼がしたい」

 アキサメの穏やかな迫力を持つ視線に晒され、南は困ったように頭をかいた。

「礼が欲しくて協力した訳じゃないからなぁ」

「なに無欲な事言ってんスか南船長! はいはーい! 俺ウンカイのココアエアナッツ1年分を希望しまーす!」

「アホか自分。そないたくさんオロチのどこに積む気やねん」

「っていうか、オロチもう動かないんじゃない? 制御盤から煙出てたけど」

 北斗のセリフに菊池がショックで青ざめたが、南がよしよしと頭を撫でた。

「心配するな。プレイアン樹脂4,000トンをヒムロに売った分がある。あれで修理できる」

「それなんだが」

 ウスイが静かに割って入った。

「我々から新しい船を進呈したい」

 きょとんとするオロチメンバーに、ビャクヤが絵になる仕草で前髪を弾いた。

「それぐらいの礼はしねぇと、スイリスタルの沽券にかかわる」

「3人でそう協議してね。我がウンカイからは、炭素繊維より強くセラミックより軽いレアメタルでの装甲を請け負う事にした」

「内部すべての機器類は我がヒムロが引き受ける。そんじょそこらの軍用艦には太刀打ちできねぇ船にしてやるぜ」

「我がセイランはその技術を全面的に請け負おう。そして、船が出来上がるまではぜひセイランに滞在してもらいたい」

 顔を見合わせるオロチクルーに、アキサメは「更に」と続けた。

「3惑星での貿易フリーのパスも進呈するよ」

 事態を理解した南は、とんでもないとばかりに首を振った。

「ちょっと待ってくれ。俺達は別に」

「聞く耳持たねぇよ。沽券にかかわるって言ったろ? 俺達に恥をかかせる気か?」

 返答に窮している南へ、北斗がちらりと視線を向けた。

「くれるって言ってんだから、素直に貰っとけばいいんじゃないの? どうせそろそろメンテでえらいお金かかるところだったし」

「……せやった。税務署で、次回はドッグ検診の調書も申請せぇて言われとったんやったわ」

 笹鳴は天を仰いだ。1箇所でも審査に引っ掛かれば、その修理の間は仕事はできないし修理代はかかるしで散々な目に遭うのだ。

「まさに渡りに船じゃないか。無理強いはしないが、使ってくれるならこれほど嬉しい事はない」

 アキサメの穏やかだが有無を言わせぬ迫力に、南は「あー」とか「うー」などとうめいた後、ではお言葉に甘えてと、結局頭を下げた。




 船の制作は何事にも優先して行われたお陰で、新オロチ号は3か月で完成し、ココアエアナッツを山程抱えて、再び宇宙へ飛び立った。

「新造船の場合は、まず登録せんとあかんねんな」

「そうか、このままじゃ海賊船になっちゃうんだ」

 菊池は真新しいブリッジを見回して嬉しそうに笑った。

「すごいよねぇ。レーダー1つとってもレンジ幅が桁違いに広いし、使えるカテゴリーだって超S級の戦艦並だよ」

「せやなぁ。いっつも無表情一辺倒の北斗が、あれだけ嬉しそうに飛んではんねんもんなぁ」

「そりゃそうだよ。出力が以前のオロチの10倍だもん。ブースターなんか単独ワープできるくらい」

「それだけじゃないっスよ。ウンカイのレアメタルで造られた装甲なら、そのへんのプレ・ロデア砲じゃ傷がつく程度で終わっちまうっス」

 柊も嬉しそうに計器を眺めていた。以前のオロチにもそれなりの航路計算装置はあったが、新オロチはオートパイロット機能の性能が格段にアップしている。

 騒ぎを聞き付けた南もブリッジへやってきて、以前より居心地の良くなったキャプテンシートに腰かけた。

「装甲も機能もすごいがな、みんな、何よりこの船のもっともすごいところは、タンホイザー砲を積んでいるところだぞ」

「UNIONに見つかったら大変だけどね」

 菊池は肩をすくめた。中性子ミサイルレベルの積載については、実に厳しい規約があるのだ。

「あーもう新オロチ最高! 船長、次はどこへ買い付けに行く?」

「そうだな、登録を終えたらバーレストあたりの繊維でも買いに行くか」

「そらええわ。あの惑星にはええ酒があんねん」

「俺もあの惑星好きっス。美人が多くて」

 和気あいあいと盛り上がる4人にちらりと視線を向け、北斗は口を開いた。

「って言うか、あれから3か月経ってんだから、税金の時期だよね」

 ブリッジはその言葉で凍り付いた。

「……どうすんの? 船長」

「いや……もらいものの船だから買い替えより税金は低いと思うが……」

「南……忘れとるつもりかもしれへんけど、贈与税いうんがあるんやで」

「つか、これだけでかかったら、出力誤魔化せないんじゃないじゃね? 税金跳ね上がるんじゃ……」

 一気に重苦しくなった4人にため息を吐いて、北斗は機首を上げた。

「公営新造船登録惑星まで、あと3時間ね」

「なんだと! 北斗、もっとゆっくり飛べ! 船長命令だ!」

「じゃあ3時間10分」

「せこい! 自分の身長並にせこいで!」

「……2時間40分」

「ぎゃわー! 北斗を挑発しないでドクター!」

「ココアエアナッツで払えねぇかな……」

 賑やかに騒々しく、自由貿易船オロチは今日も軽やかに宇宙を駆けた。

最後までお読みくださった方、ありがとうございました。

これはシリーズで書いているので、推敲が終わったらまた続編を書いていきたいと思います。

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