合同依頼4
到着した本隊は着いて早々にテントを張り、着々と討伐に向けての準備を整え始めた。
準備の最中に本隊と先遣隊とを交えた会議が行われ、今後の指針が示された。
「領軍と足並みを揃えるため侵攻開始は明後日だ。ただ、領軍との中間地帯にあるメイザーの集落については侵攻後半になるため、頭に入れておく程度に留めておいてくれ。それまでは先の作戦通り進める」
こっちの受け持ちになったか。
さてさてあれを難敵と見るかボーナスと見るか。
二日後。
各パーティーが森手前に散開し東部砦からの合図を待っている。
東部砦の周辺組は砦からの狼煙と共に侵攻開始だ。
俺は上空で待機のためその様子がよく見える。
こちらのエジンバ混成軍、砦付近の領軍、砦向こうとの他ギルド軍と間隔をあけ延々と向こうまで続いている。
「おっ、狼煙が上がり始めたな」
侵攻開始だ。
狼煙が上がり始めると、どんどんパーティーが森へまるで吸い込まれていくように侵入していった。
しばらくするとあちこちから剣戟の音が聞こえたり、メイザーが建てたと思われる家屋が倒壊するのが見えた。
剣戟が聞こえるのは、何処から調達しているのかは分からないが、一部モンスターは武器を装備していることがあるためだ。
「おっ、また潰れた」
何処かのパーティーがまた建物を破壊した。あの家屋周りは掃討完了だな。
倒壊を見届けると地図に幾つか記入し観察に戻った。
今の俺の役目は監査みたいなものだ。
家屋破壊は戦闘組にとっては追加報酬になるのだが、請負人というのはあくどい者も多く虚偽の申請をすることも多々ある。見栄を張ることもある意味虚偽の申請だしな。
そのため倒壊した家付近を双眼鏡で覗き込み、行ったであろうパーティーの情報を書き込むのだ。
パーティーリーダーは分かるがメンバーは知らない者もいるため、リーダーが俺の目に映らなければ、証言と最初の待機場所から判断して報酬が支払われる。俺がやってるのは証言の強化程度だ。
まぁ経験が長いリーダーは壊す時分かり易い場所で目印をしてくれているから簡単だ。
この監査は今回は広域が得意な俺とシンバエアさんの役目だ。ちなみにシンバエアさんは今日は寝ている。完徹明けだからな。
他三人の偵察要員は広域は不得意なグルーラー、タンテンター、サイペスターというジョブのためそのまま偵察任務に就いている。
今日は森表層の幾つもの家屋を倒壊を確認し拠点に帰った。
次の日。今日も役目は同じだが夕方から他の任務が待っている。
それはあの見つけた集落にパペットを落とす任務だ。
今回一番の難所だ。
そもそもメイザーは人なんかより夜目が利くと言われている。どれ位利くかは知らないが、パペットを見つからないように落とさないといけないため集落に近付かないといけない。見付かれば奴等は弓も使うため運が悪けりゃ死ぬ。
「うん、あれは」
そんな事を考えていると森のある場所から煙が上がった。
各パーティーに配布されている緊急連絡用の発煙玉を使ったのだろう。
さて、色は。・・・あの色は救援要請。しかも周りのパーティーを呼び寄せる程のだ。
「ポクーあそこへ行って」
ポクーに急いでもらっている間その上で準備を始めた。
ポクーはけっこう荷物が乗るためいろいろな道具を載せているのだ。
「まずは敵を確認しないことにな」
幾つか道具を手元に寄せて、あとはポクーが近づくまで待機だ。
煙のせいであのあたりの判別が出来ん。
「・・・あれは・・・バイルスか?」
煙が上がっている場所に近づくと、少し見えてきた。
更に近づくと全容が見えた。
どうやら一パーティーがバイルスの大群に囲まれているようだ。
バイルスは全く美味しそうに見えない顔をした四足歩行のモンスターだ。単体討伐ランクは1だが、まず一体でいることは無く群れで狩りをするのが特徴だ。
腕が立っても物量でやられる事もある厄介なモンスターだ。
見た感じ囲まれて動けないってところか。
バイルスは鼻が良いからな。強烈な匂いを発する物を撒けばある程度は追い払ったり逃走する隙ができるが、ああも囲まれると難しいな。それにパーティー周辺にはバイルスの死体、パーティーの真ん中には一人倒れているな。生死は分からんが。
「ポクー、ゆっくり近付け」
俺一人じゃあの状況を変える事は難しい。下手な刺激も怖いしな。
だから他のパーティーが介入してきた瞬間に乗るしかない。
救援場所上空で野生のミニメソの如く漂っていると、
「あそこに着いたか」
今二パーティー目が到着したのを確認した。だが大群に躊躇しているのか窺っているだけだ。その二パーティーは互いに見えていないだろう位置だしな。
これ以上待てば救援を呼んだパーティーが潰れそうだしな。仕方がない、先駆けを務めるか。
ポクーを降下させつつ、荷物入れから筒を取り出した。
この筒には網が入っている、しかも漁師が使う様な本格的な網だ。場所はそこそこ開けてるし多分途中で引っ掛からんだろう。
これを敵の群れに向かって漁師がするように投げるのだ。デカいしモンスターに使えるようにそこそこ重いのでこの網は一つしか用意していない。
貴重な一品だぞ、・・・・・うけとれーーー!!
ポクーが丁度良い高さまで下りたので一瞬で立ち上がり網を敵の群れの一角に投げ放った。
「きゅうえんにきたぞーー!!」
そう周りに喚起しつつ今度は普段使っている網玉を投げ始めた。
そうすると森に隠れていたパーティーが突撃してきた。ふぅ成功か。
混戦で怪我人が出るだろうが、二パーティーいれば何とかなるだろう。
戦闘はその二パーティーと息を吹き返した救援を呼んだパーティーの一部に任せ、俺は刺激臭を発する物に投げる物を切り替えせっせと嫌がらせに移った。
しばらく経つと形勢不利と悟ったのか、一頭のバイルスが吠えると群れが撤退していった。
群れが撤退を見届け辺りを見下ろすと、辺りにはバイルスの死体がたくさん転がっていた。
そして地面に降り立ち皆が集まっている場所へ近付いた。
そこの居たのは救援を呼んだガイメルのイーリジーパーティー、駆け付けたガイメルのクレンゲルパーティー、エジンバのコラソンパーティー。
「リトか。救援感謝する」
「はい。それでイーリジーさん、そのコは」
倒れている青年について尋ねると、イーリジーさんは頭を左右に振った。
そうか。
「本陣まで連れて行ってくれるか」
「ええ」
ざっと網を回収し青年をポクーに乗せた。
「皆さん、消耗品類の補充も出来ますがどうですか」
「包帯とコメット薬とリール軟膏をくれ」
「こっちはコメット二つ」
「モリスル草はあるか」
要望の品を渡しポクーに乗って本陣まで帰って来た。
「お帰りなさい。どうかなさいましたか」
「ただいま」
ポクーを更に下ろしポクーに乗っているものを見せると、
「・・・そうですか」
「ガイメルのイーズリーパーティーのメンバーだ」
「分かりました。あとはこちらで」
乗せていた青年を引き渡し、作戦本部の天蓋に入った。
「リトか。どうした」
「イーズリーパーティーのメンバーが一人やられた」
「・・そうか。あの煙は。それで原因は」
「バイルスの群れだ。ボスには逃げられた」
「了解した。任務に戻ってくれ」
消耗品を補充し再び空に上った。
俺達はこういう世界で生きている。
※今作品では天幕を天井が高いもの、テントは天井が低いものと独自定義して使っています。