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入居

遅くなりました。これからもたまにの投稿ですが、ご了承ください。

 翌日。

 日課の装備の状態を確認し、そろそろ一階に下りて行こうかと身支度をしていると、扉を叩く音が聞こえて来た。


「リトさん、起きてますか?」


 扉をノックしたのはタリアさんのようだ。

 身支度を終えるまで待って貰い扉を開けた。


 扉の前に立つタリアさんは、室内というのに帰って来る途中に買った白っぽい色の厚手の防寒着を着込んでいた。廊下は確かに部屋に比べれば寒いが、彼女はウリスタニアに到着してからこの防寒着を脱いだところを見た事がない。やはり雪も降らないような地域の者にはそれ程寒いのだろうか?


「おはようございます、リトさん」

「おはよう」


 挨拶を交わしながら揃って一階へ歩いて行った。場所が違えどこれが最近の流れであった。


 朝食位先に摂っててもいいと思うのだが、彼女は今無一文だ。正確には彼女の金入れは俺が預かっている。もっと正確に言えば預けられていた。

 彼女は、私が報酬なのだから全部あなたのもの、だとか、私もひとの子だ、恩を忘れて逃げるかも知れないから保険にとか、何かにつけて受け取ろうとしないので、もうこの話題を口に出していない。



 朝食を摂りながら今日の予定を彼女に伝えた。

 今日の予定は、予定では今日の昼から入居可な住宅への入用な物の買い物だ。


 借りた物件は、パッソルトギルド寄りの東門との間にある一戸建て。主に、住まないはずのギルマスの意見を大いに盛り込んで決定された。サポート? 何それ?

 その住宅は二階建てで、ざっくりと言えば一階の大部分が倉庫、二階が居住スペースとなっていた。


「それでこれが買い物リストだ。他に入用なものがあれば付け足しといてくれ」


 一通りは物品を記入したと思うが、普通の家、というものに住むのは実家以来だから、漏れがないかと言われると自信はない。


 タリアさんに今日の予定を伝え終わり、食事の手を速めていると声を掛けて来る者が現れた。


「あっ、白災さん、ちーっす」


 声を掛けて来たのは、俺と同じくここを常宿にしているモーズギルドの請負人、二ルクス君だった。

 二ルクス君は主に都市内の依頼をこなして生活していて、ウリスタニアについては俺なんかよりよっぽど詳しい若者だ。


「おはよう二ルクス君」

「帰って来てたんすね。それに今日はそちらの美人さん連れと来た。羨ましいことでっせ、紹介してくださいよ~」

「タリアさん、こちらモーズギルドっていうここからちょっと南の方にあるギルド所属の二ルクス君。悪餓鬼だから基本的に小突いて言う事をきかせてやってください」

「ひ、ひでぇ。だけどタリアさんと言うのか」


 二ルクス君はまったく堪えた様子はなく、タリアさんの手をとり挨拶してから去って行った。

 他の若い者達も流し込むように食事を摂り、ちゃっちゃと建物を出て行っていた。

 冬場は依頼が減るから朝の時間は特に貴重だ。どれくらい貴重かというと、ベテランは冬場、ダンジョンか長期休暇を取って、都市内の依頼を若いコに回すのが不文律となっている程だ。



「いろんな名をお持ちなんですね」

「そうかもな」


 二ルクス君以外にも一言挨拶をしてから出て行く者もいて、その者達にいろいろな呼ばれ方をしていた。

 戦争後に二つ名が付いてからは、白き災厄は語呂が悪いから、白災や白厄と略して呼ばれたり、それ以外にも干し肉屋とか干しさん等以前から呼ばれている名を呼んで来る者もいた。


「・・・普通の人にまで声を掛けられて。何だか羨ましい」


 そう、独り言なのかもしれない呟きをする彼女は、何だか淋しそうに見えた。



 翌々日の昼。


「とりあえずこれで住めるかな」


 火の焚かれた暖炉のそばで引っ越し完了を宣言した。


「はい。食材も用意しだい自炊も可能です」


 タリアさんも両こぶしを握り、「任せてください」とやる気十分な声を上げた。


「よし、今日は外食にするか」

「・・・・・・」

「こほん。冗談だよ。手料理楽しみにしてる・・・・うーん、折角だしピリアンさんも呼ぼうかな」

「・・・頑張ります」


 機嫌は直してくれたようだが、今度は少々不安げな雰囲気を出してきた。

 さて、この南国育ちはこの北国の食材を上手に料理できるかな? その期待を込めて家を出た。





「あらあら、まあまあ、まるで新婚夫婦の家ねぇ」


 夕方やって来たギルマスは、部屋の中に入って来ての第一声、両頬を両手で挟みながらそんな事を言って来た。多分このネタ、何かしらの出来事がないと相当引っ張られると思う。

 そして、そこの人、まんざらでもなさげな顔をしないように。演技にしても心臓に悪い。ノリはよくなったかもしれないが、そっちに行っては駄目だ。


「改めて、ようこそピリアンさん。本日は急なお願いを聞いていただきありがとうございます」

「いえいえ。今日はお招きいただきありがとうございます。最初の客人として呼んでもらえて嬉しいわ。それとこれはお祝いの品よ、受け取って」


 わーい、ギルマスからお酒を貰ったー。ポクー、酒飲めたっけ? と、受け取った酒を見て現実逃避した。この酒、主にアト麦から作られるアーリア王国圏内なら大体どこでも流通している度数の低い酒だ。

 俺、これ嫌いなんだよ。どろっとした舌触りにほのかな甘い香り、味は少しすっぱいと何で皆、これを平気で飲めるのか。


「・・・リ・・ん、おーいリトさん。どうかしましたか?」

「はっ。・・・何でもない。確かに受け取った」

「リトさ~ん、そのセリフは何だか仕事中みたいです。ここは私的な場だと思ってたんですが」

「すみません」

「えっ、は、はい。その謝罪受け取りました」

「・・・仕事中みたいですね」

「・・・はい」


 互いに墓穴を掘り合った挨拶を終えた。それにしても、俺が素直に謝るのがそんなに珍しいのかなぁ?



 今日の夕食のメニューは、ちぐはぐな家庭料理といった感じに仕上がった。

 俺も手伝いはしたが、メイン料理以外は下拵えに留め、あとはタリアさんに投げた。

 メイン料理は一階の倉庫部、むきだしの床の上で俺が担当した。今日のメイン料理は【ケーズ】という鳥の丸焼きだ。肉屋で若鳥一歩手前の羽毛や内臓処理済みのまるったを買い、他の料理と一緒に下拵えをして、ギルマスが来る少し前まで焼いていた。


「では・・・・・・まあいいか」


 違う目で二人が見守る中、最初に料理に手をつけた。その結果、タリアさんの料理は、この地方での初料理と思えばギルマスもきっと許してくれるだろう味がした。


「おいしくなかったですぅ?」


 消え入りそうな声で聞いて来るタリアさんに、そのタリアさんを見てこちらに責めるような視線を向けて来るギルマスが出来上がった。


「いいや。南国育ちの君ならきっと面白い味になるんじゃないかと期待してたんだが、いたって普通な味だ」

「・・リ~ト~」


 怖い、こわいよギルマス。


 こうして引っ越し祝いの席が始まった。


 ギルマスに貰った酒はこの場で開けた。俺も少量だけ口をつけたが、相変わらずどろっとした舌触りに酸味のある酒で、これから先も好きになる事はないだろう。




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