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住居決定

 ギルマスの機転により、少し心の隔たりが減ったっぽい俺達三人は、物件探しをしていた。


 ギルマスがギルドで机に出して来た書類は、請負人でも賃貸、購入可能な物件とそれを扱う不動産屋関係の書類だった。

 請負人は少し特殊な身分なため、家を借りたり購入したりする場合の要件が、一般の人と少し違うのだ。そういうわけで、そんな時にサポートしてくれるのが請負人ギルドなのだ。

 もっとも、パッソルトギルドの請負人個人の放置率は高く、暇か特別な理由がない限り、書類を貰って後はそっちでやってね、だと思われるがな。福利厚生がしっかりしてない代わりに、依頼当たりのこちらが受け取る報酬が高い方式を採用しているギルドなのだ。

 まぁ、今日は・・今日も暇なんだろうなあ、ギルド。だからギルマスがついて来たのだろう。


「お二人はどんな家がいいですか?」


 明らかにお二人ではなく、タリアさんに偏った視線でギルマスが質問して来た。


「や、やっぱり持ち家って憧れます」

「ほうほう。だそうですよお父さん」


 各々違う意味を込めた視線をちらちらとして来たが、そのあまりの様に絶対に反応しない事に決めた。

 行儀悪く、まるでラムのように肘で小突いて来る悪乗りギルマスに、まさか飲酒済みなのかと顔を近づけると、ほのかに酒のにおいがした。服から。

 リーメイ公国の大概の地域で、冬の間は極端に仕事が減る業界が幾つもある。そんな奴等が酒を出す店で一日中酒を片手にたむろってるのが、この国の冬の日常風景だ。そのにおいが服に移ったっぽいな。


「むう。行き成り顔を近づけて来るなんてどういう了見なんです。それと、はいこれ。この辺りで購入可能な物件の情報」


最後に「一部だけどね」と付け足して、持っていた紙の束の一つを渡して来た。



 紙に書かれた物件情報を、横から覗いていたタリアさんが茫然といった感じで呟いた。


「えっ。たかい」

「多分君は勘違いしてると思うから言っておく。この物件達は標準的な値段だ。単純にこのウリスタニアの物価が、王国圏内でも上位に食い込むだけの話だ」


 ギルマスに渡された紙に書かれていた物件達は、田舎から見れば凄く高いが、ここウリスタニアの中では標準的のものだった。もっとも、この束はギルドに回されて来たものらしいから、不動産屋の売りたいやつしか載せてないんだろうがな。


「まずはどこを見てみますか?」


 乗り気なギルマスには悪い?が、そろそろ水を差す事にした。


「まあ待て。住むところを用意すのは百歩譲ってかまわんが、賃貸だな」

「なー、なんでですか。初期投資は高くつきますが、最終的にはお得ですよ。子どもにも残せますし」

「最終的にって。そこだよそこ。俺はこの都市に永住する気はないぞ」

「・・・えっ・・・・」

「何が、えっ、だよ。俺は元々外から流れてきただろ。だから用がなくなれば、また流れていくだけさ」

「用がなくなれば」

「・・・まっ、一年二年の話じゃないし、まだしばらくいるさ」


 理性と本能が入り混じる表情を見せて来たギルマスに、立ててもない展望を思わず言ってしまった。何故かは自分でも分からない。



 これで一体何度目だろうか?


「ここでいいんじゃね」


 物件探しは難航していた。


「まあたそんな事言ってぇ。料理しない人は黙っていてください」


 そりゃあ宿で寝て食事は外食の人だけども、そこまで言わなくとも。

 ウリスタニアは広い。パッソルトギルドか都市の東門付近、加えてその間の範囲だけでも最低限の要件を満たす空き物件はかなりあった。


 俺にとって家は大して使う事はないものだ。冬を除けば、半分以上はポクーの上で過ごすからだ。そんなわけで、特に家にこだわりがあるわけではなくさっさと決めたかった。



 物件を渡り歩き、次の不動産屋目指して歩いているとライツさんに会った。


「おー、何だか珍しい組み合わせだな」


 ライツさんは今日は休みなのか、普通の防寒着に手提げ袋を片手に提げたいでたちであった。

 こちらも挨拶し返すと、唯一この中で見慣れないタリアさんを紹介した。ギルマスが。


「この人はタリアさん。王国の方からこちらの甲斐性なしさんが連れて来たお嫁さんです」

「こら、そこ、間違った紹介しない。そして君も否定せずに挨拶しない」


 こちらの紹介と指摘にライツさんは、少し困ったような顔をしていた。もし俺が逆の立場でもそうだと思う。

 ギルマスが役立たずなので自分で紹介する事にした。


「ライツさん、こちらはピリアンさん。旦那どころか彼氏もいない鬱憤を晴らすのに忙しい、二十代前半の残念な娘……」

「誰が残念て・・・」

「・・・こちらタリアさん。まぁご同業で、王国人なのは間違いないですが、ライツさんとネロ君、カビト君と似たような関係です。ピリアンさんのテキトーな言葉に騙されないでください」

「なるほど」


 ふむ、分かってくれたようだ。


「ふむ、なるほどなるほど。まさかお前が『嫁買い』をするとはな~」


 ふむ、ライツさんも全然分かってない事が分かった。

 嫁買いはまあそのままの意味で、娼婦等を身請けして、嫁に迎える事だ。田舎では少ないが、都市部ではそれなりに耳にするものだ。


「いやいやライツさん、逆です逆。所謂押し掛け女房です」


 ギルマス。そのライツさんにしている耳打ち聞こえてるよ。

 てか、どいつもこいつも俺とタリアさんをくっ付けたがるのは何故だ?


 借りる物件が見つかるまで、延々とこの事態を頭の片隅で考えたが、答えはでなかった。




「みんないい人達ね」


 物件は見つかれど即日入居はできないので、今日は宿で泊まる事になった。今は常宿近くの食事処で俺とタリアさんは夕食を摂っていた。


「皆?」

「あなたのギルド人達よ」

「洒落は通じるな。おかげで今日は散々弄られたよ。それとあなたじゃないだろ、君も在籍するんだろ。もっとも、君には別のギルドを選ぶ選択肢もあるがな」

「んーん。あなたと同じギルドに入る。もうピリアンさんには伝えてあるの」


 早まった真似をと思いはしたが、その言葉は飲み込んだ。



「そう言えばたまにだけど、赤い布巻いてる人いたよね。ライツさんとか。何かの風習?」

「あれは風習と言えば風習かな。討伐ランク3以上の人が赤い布を身につける所謂紳士淑女協定だよ。討伐ランク3以上の連中は一般人から見たら化け物だ。そっちも何かしらの政策ないし協定なかった?」


 ある一定以上の実力を有している者は、一般人と交じって生活する事は難しい。日常の何気ない接触で相手を怪我させる事もあり、時代や場所によって何かしら対応策をとっていた。それがこのウリスタニアを含む近辺では、討伐ランク3以上及びそれ相当の者は街中にいる時、赤い布を身につける事となっているのだ。パッソルトギルドでは、トビーさんとライツさんの二人が対象となっている。


「あった。場所によっていろいろ違うのね」

「そういう事。まあ追々学んでったらいいよ」


 食事中、他の事柄についても互いに質問しては地域差のすり合わせを行った。



 夕食を終え後は寝るだけと、場所は常宿の廊下に移った。


「じゃあ、お休み~」


 俺達は別々の部屋を取っていた。ウリスタニアへ帰って来る途中も、夜間移動はせず宿に泊まっていた。

 今日も同じよう部屋を別々に自分の部屋のベッドに寝転んだ。


「はー、いよいよ帰って来ちゃったな」


 そろそろ本気で彼女の処遇を決める必要がでて来た。

 制限時間は、ライマールさんところで新造中の刃が本決まりになるまで。


「なぁ、ポクー。何かいい案ないかあ・・・・・・」




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