人の話を聞かない人
長らくお待たせしました。
最近筆が進まず、これからしばらく不定期になりそうな事をここに謝罪します。
「へーー」
パッソルトギルドギルドマスター、ピリアンさんの目は冷たい。
「それは所謂、押し掛け女房ってやつじゃないですか」
「うーん、それはどこかで話を曲解してないか?」
「曲解? ご冗談を。十人に聞けば十人とも同じ回答だと思いますが」
もろもろの用事を終え、ウリスタニアに帰って来ていた。ミストンは既に納品し、その足でギルドまで来ていた。
そこでギルマスにこの困った状況を顛末含めて話したところ、とても冷たい視線とお言葉を頂いたというわけだ。
「しかし、しばらく帰ってこなかったと思えば、この前一度だけ顔を出して、今度はお嫁さん連れですか。いいご身分ですね~」
冷たい。ギルマスの視線と口調が果てしなく冷たい。
この困った状況の原因である元キトギルド所属の請負人タリアさんは今、この寒さに暖炉そばに陣取っていた。
俺とした事がやってしまった。まさか彼女がこんな形の誠意を示すとは考えてなかったからだ。
確かに彼女の誠意というものを若干楽しみにはしていた。ただそれは、アーリア王国だからこそリーメイ公国では珍しい物品の可能性とかであり、こういう形ではない。
彼女に蓄えはないのは謝礼の話の時に薄々分かってはいたため、迷いはした。ただ働きか彼女を受け取るかをだ。そして後者を選んだわけだ。ウリスタニアへの帰還途中に知ったが、彼女はほとんどの持ち物を売り払ったらしく、あの大きさとはいえ荷物入れ一つに全財産を入れて来たと考えると、相当な覚悟。どこかへ捨てて来るのは心情的にできず、そのままずるずるとウリスタニアまで連れて来てしまった。
「それで。冗談はこれ位にして、彼女の事はどうするですか?」
「弄ばれた。ピリアンさんは人を弄ぶ悪女だ。そんなんだから・・・いえ、なんでもないです」
俺も学習しないな。この先のセリフを言えばギルマスがどういった反応を示すか、三択位しかないだろうに。まぁ、言う前にギルマスの表情を見れば口に出さない方が正解だと分かってしまうがな。
「・・・あー、えーと、彼女の事ですね~。俺としては面倒見切れないので、どこかのパーティーに投げたいなー、なんて」
「甲斐性なしさんならそう言うと思ってました。ですが、それは止めた方がいいですね~」
ギルマスはそう言いながら、机の上に数枚の封筒を出してきた。これを見て俺もギルマスが言いたい事は理解できた。
この封筒の中身は手紙だ。
戦争が終わってすぐの頃に比べればずいぶん減ったが、勧誘目的の手紙が未だに来ていた。戦功の影響はそこまで大きいという事だ。
人を従わせる方法には脅迫や人質なんていう方法もあり、どこかのパーティーに厄介の種を押し付けるわけにもいかないというわけだ。これでも療養期間中この手の厄介事は何度か経験したからな~。
難題だなあと、暖炉そばでぬくぬくと幸せそうな顔をしている件の彼女へ視線を向けた。
請負人タリア。
クリアカスタル族で年齢は目算十七、八。背は大体俺の目線位でやや痩せ型。薄暗い髪を短く切り揃えているが、ひと房だけ髪を異様に伸ばし髪留めで留めていた。ミューザでは、年齢関係なく多くの女性がひと房だけは髪を異様に伸ばしていた事から、流行りというより風習の類だと思われる。
ジョブは弓士。討伐ランク等の個別ランクはランク1を超える項目はあるが、個別ランクを単純平均した総合ランクは0と、典型的な特化型。所謂仕事を選ぶ?タイプだ。
装備はあちらの標準的な、この辺に比べて軽い装いの装備で、それに行動上邪魔にならない短弓を武器としていた。他の武器は腰に三本の小振りなナイフを差しているようだ。
弓の腕前の程はまだ見てないが、本人曰く、脚に自信があるらしい。もっとも、それは美脚アピールであって、できればそっちじゃないアピールであって欲しかったと思う今日この頃。
これがこれまで収集した情報と推測を含む彼女の基本情報。
問題となっているのは彼女の処遇。
周りに押し付ける手はないし、かといって俺はソロ。ミニメソと弓士の相性は悪くはないだろうが、俺とポクーの間に彼女が入る余地はない。・・・よね、ポクー。
さて、本当にどうしようかと考えていると、ギルマスが机の上に何かの書類を出して来た。
「それは?」
「不動産関係の書類です」
?
「一生独り身だと思ってた、あのリトさんに嫁いで来てくれた人でしょ。じゃあもう宿暮らしなんてしては駄目です。ちゃんとした新居を用意しましょう」
「・・・へー、未来の旦那さんと用に置いといたんですね。準備いいなぁ」
決めた。ギルマスがこのネタを引っ張って来る限り、いくらこわい表情をしてきたとしても、俺もこのネタを引っ張り続ける事を、今決めた。
そして、互いにいい笑顔で乾いた笑い声を出し合った。
「・・・寒い」
「そのセリフ、今日何度目だったかな」
「こらっ、そこで気の利いたセリフ一つ言えないの!」
俺、タリアさん、ギルマスはギルドを出てきた。今から物件探しをする事になったのだ。百歩譲って家を借りるにしても、ギルマスはいらなくね。そう思いはしたし口にも出したが、「ギルド員の生活方面のサポートも私達の仕事です」と、それっぽい事を言って来た。多分この発言は建前で、どうやっても付いて来る気だと思い早々に抵抗は諦めた。
「例えば?」
「いらっしゃい、俺の胸で温めてあげる。とか」
「ふーん。じゃあ、いらっしゃい、俺の胸で温めてあげる」
「じゃあってなんですか、じゃあって。それに抑揚もなくて投げ遣りにも程があります!」
「そうは言いつつ、いつ腕の中に入ろうかとタイミングを計るピリアンであった。・・・完」
「また抑揚がないです。それにストーリーも中途半端。十五点です」
「続く。で、二十点ですか?」
「五十点です。後半に盛り上がりを持ってくるため、前半をあえてと考えれば、駄作から良作に変換可能です。その期待を込めての点です」
ギルマスの採点基準はよく分からんなあと、俺とギルマスの話が一段落ついたところで、タリアさんが「仲、良いんだね」と、俺とギルマスの二人を見詰めながら言って来た。
「ええそうですよ。なんてったって私達は一夜を共にした仲」
「うん? ・・・三夜じゃなかったか?」
「二日目は夜遅くまで眠らせてくれなかったわね」
「火がついちゃってたからね、仕方ないよ。あんなに真剣な表情をしていた君が悪いんだよ」
「まあ意地悪な人」
俺達のまるで男女の関係のような掛け合いを見たタリアさんは、最初顔を赤くしたが、何だか悲しげな雰囲気を漂わせて来たので、ギルマスと合図しあい、ネタばらしする事にした。
実はこの掛け合い、俺とギルマスの実話を基に誤解を招くような表現を用いた即興劇だ。それにしてもギルマスが行き成り振って来たもんだから、最初、は?って言いそうになったな。
「そう言えば、二日目は何で夜遅くまで起きてたんだっけ?」
「それはもちろん、首都で行われた同盟ギルドの大事な会合だったんですもの。いろいろ書類を纏めてたら夜遅くになるというもの」
「おかげで送迎と護衛の俺も一緒に、夜遅くまで起きてる事になったんだっな」
ここまで言うと流石にからかわれている事に気づいたのか、タリアさんの顔は多分別の意味で赤くなった。それを見詰める悪い顔の大人二人の図がここに出来上がった。




