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回収と報酬

 最初の目的地である牙の団がメイザーに襲撃を受けた場所に到着した。あの家屋よりメイザーの住み家には近いが、視界は構造物の残骸と茂った木に遮られ奴等自体は見えない。


「この跡は・・・」


 襲撃場所には、メイザーの住み家方面へ何かが引きずられていったと思われる跡がいくつも残っていた。他の方面へ続く跡がない事から、全ての死体はメイザーが回収したと思われる。


 今日は横を付いて来る事にしたらしいポクーを呼び寄せ、その上に乗るタリアさんと状況を話し合い、作戦を次の段階へ進める事を決めた。



 残骸や木々を隠れ蓑にメイザーの住み家が見通せる場所に陣取り、奴等の生活を覗き始めた。


「さて、どの建物が優先順位が高いかなっと」


 しばらくメイザーの流れを観察していると、ふとタリアさんに視線を向けた。彼女もポクーから降り、すぐ近くで同じようにメイザーの群れを観察しているのだが、何か違和感を感じたせいだ。

 彼女はこちらの視線に気づいた風ではなく、ちょっと前方に注力しすぎな気もするが、それ以外は普通に群れを観察してる風に見えるがなと、視線を群れに戻そうとした時、短弓を持つ彼女の左手が震えているのに気づいた。


 若者は大変だなあと、槍で地面を軽く叩き、弾かれたように彼女が反応しこちらを向くと、左手、左手っとジェスチャーを送った。





「さて、捜索を始めますか」


 既にメイザーの群れは忌避剤を使用して追い払った。群れのリーダーっぽい個体に直接忌避剤を掛けたのが決め手だったなぁ。

 ただ、交戦は極力避けるように言っといたはずなのに、数少ない残りのオスへ向かって弓を引こうとしたタリアさんを石突きで小突いた等、予定にない行動させた彼女への信用度が下がる自体が起こったがな。まったく、捜索時間のリミットが不透明になるところだったよ。

 ミューザで仕入れた忌避剤の大半は使ったおかげで、この辺り一帯、普通に臭い。しかもこれなかなかにおいが消えないから服に付かないよう注意して動く必要があった。



 捜索範囲はそう広くもないので、装備品の類は捜索早々に見つかった。もっとも、前衛二人が持っていた剣と槍は、群れに残っていたオスが装備していたので、対峙した時に手を叩いて落とさせたのを既に回収している。

 そして、最後に俺達は奴等のゴミ捨て場にやって来た。地面に掘られた穴にいらないものをいれ、溜まったら埋めるだけと原始的なゴミ処理方法だが、なかなかの社会性を有するメイザーだからこそ探す場所は限られ、これほど捜索が楽な存在もいないとも言えた。


「心の準備ができたらでいいぞ」


 装備品や荷物は見つかれど、二人の遺体は見つからなかった事から、このゴミ捨て場で残骸となっていると思い至るのは難しくない。

 だが彼女はあの時宣言した。だから俺が勝手に覗き込んで拾うわけにもいかず、制限時間を気にしつつもあとの事は彼女に任せた。




 帰りの道中俺達は無言で進みミューザに到着した。

 ミューザの発着場に降り立つと、街の方からベシティさんらしき人物がこちらへ走って来ていた。何かしらの情報網で俺達が帰って来たのを知ったのだろうか?

 走り続けてこちらまでやって来たのはやはりベシティさんで、そのベシティさんは、走りそのままにタリアさんに抱きついた。

 抱きついた方もされた方も少々顔面を見ない方がよさそうだと思い、しばらく視線を逸らしてすごした。



 ミューザの共同墓地での葬儀を終え、場所は再び発着場に移った。

 牙の団のメンバーは一人を除き、ミューザが生まれ故郷ではないそうだが、この地に眠る事だけが分かるだけでも上等と言えた。

 葬儀を終えると、あとの処理はタリアさんとキトギルドに任せ、俺はタリアさんから報酬を受け取ると、そのままウリスタニアへ帰還するつもりでここにいる。


 報酬は実は明確な額は決めてなかった。

 ただ、彼女は誠意を見せてくれるらしく、だから明確な額を決めず後払いでも了承してみた。この判断がはたして吉と出るか凶と出るか、少し楽しみだ。


 木炭片手に山々の風景を写生していると、タリアさんがやって来た。彼女の服装はちょっとしたお洒落着に変わり、大きな荷物入れを背負っていた。

 報酬はその背負った物、金銭ではなく物品報酬なのか? 物品報酬は当たり外れが大きいとはいえ、知り合いの商人さんも多いし、売りに行ける範囲も俺とポクーなら広いので、割合上手く捌ける自信がある。さて、彼女の誠意は一体どれ程のものかな?


「あの。これ」


 彼女から大きな荷物入れごと受け取ると、荷物入れの感触は柔らかかった。布の類だろうか? 伝統、ご当地の織物や染物は運ぶ場所によっては数倍から数十倍の売値になる事もある。そういう類だろうか?


「確かに受けと……」

「待って! その荷物をポクー・・ちゃん? の上に置いてくれる?」


 うん? まあいいかと、とりあえず中身の確認はあとにして彼女の言葉に従って受け取った報酬をポクーの上に置いた。

 報酬を置いて彼女の方へ振り返ると、先程までと態度は変わり、後ろ手を組んで頬を赤く染めていた。


 うーん・・・これは。キスか?

 たまにパパさん、ママさん請負人とか助けた時に、その子どもがしてくれた事があった。彼女の動きはそのちっちゃな子どもの行動と被っていた。まぁ、外したら恥ずかしいので、このまま彼女の変な動きを見ておこうか。しかし、これも誠意の一部か?


 意を決したのか、彼女は俺目掛けて飛び込んで来た。


 そして地面に一人、べたーっと横たわった存在が出来上がった。


「・・・なんでよけたの」


 彼女の動きは、飛び込むというより、飛び掛かって来たような印象を受けたので、とっさに避けた。まぁ、彼女は後ろ手だったので元から少し警戒はしていたから、楽々避けれたんだけどな。


 タリアさんは立ち上がると、服に付いた土を叩き落して、一度こちらに顔を向けると、先程より速く飛び掛かって来た。もちろん避けたが。

 今度は避けられる事は織り込み済みだったらしく、速い速度でも倒れる事なく、踏み止まった。


「あのー。何したいの?」


 彼女が何がしたいのか分からない俺は、正直に聞いてみた。そうすると彼女は、「ふんっ」と言って、ポクーに勢い良く飛びの・・・れなかった。

 ポクーに飛び乗ろうとした彼女は、ポクーの体をすり抜け、地面に腰を強かに打ちつけた。


「なんでーー!」


 あっ、意外と丈夫。ただ、ポクーに乗れなかった事が余程こたえたのか、今度は勢いなく立ち上がった。


「君は何をしたいんだ?」


 再び疑問の言葉を彼女に送った。


「・・・ほ・・・しゅ・・・・・」

「うん? 何だって?」


 彼女の発した声は小さく殆ど聞こえなかった。


「・・・ほうしゅう」

「報酬? 貰ったけど」


 彼女から貰った物品へ視線を向けた。


「違う。報酬は、わたし!」


 ・・・こいつは何を言ってるんだ?


「これからよろしくね、ご主人様」


 科を作る彼女はそこそこ可愛くはあったが、はたしてどこで頭を打ったのだろうと本気で心配した。




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