帰って来た死地(主人公のじゃないよ)
ミニメソ級ポクー号は今日も空を翔る。その真っ白な体躯にモコモコとした不均一な表面は、まるで雲のよう。
ポクー号に乗るもの、一人は請負人リト。まるで年老いた御者のように相棒とともにゆったりとした表情で前を向いていた。
もう一人は請負人タリア。そのさまはまるで引っ立てられた囚人のように縄に巻かれていた。
「・・・なに?」
「いや、なんでも」
どうやら視線を向けていたのに気づかれたようだ。何気に一人乗せた二人一匹旅は珍しい。
彼女の覚悟を聞いた翌日。早朝からポクーに乗りキテレンまであと少しで到着する位置まで来ていた。
初乗り散々タリアさんは、今回もミニメソ酔いを発症しているようだが、症状は軽いし、もう間もなく到着するからこのままでいいだろう。
「群れはまだ健在のようだな」
前回群れを見つけた辺りを空から覗くと、未だメイザーの群れは消滅していなかった。
メイザーは基本、オスの成体が狩りをし、それ以外の個体は戦いの素人だ。
家屋を囲っていた分とタリアさん達のパーティーで倒した分を勘定に入れると、あの規模の群れを維持できない事は明白。遠くない未来、あの群れは淘汰されるだろう。
「じゃあ降りるぞ」
合図して、彼女達が籠っていた家屋の近くに降り立った。家屋周りのメイザーの死体は既になく、引きずった跡や運ばれた跡、奴等の住み家方面へ続くメイザーらしき足跡がいくつもあった。
「休憩を挟んだら行くぞ」
今回は牙の団前衛組二人に関するものを持って帰るのが目的で、それを探す間メイザー達を追い払う用意はして来てるが、戦う事になる可能性もあるため槍に巻いていた布を解いた。
「ちょっと、それ・・・」
タリアさんは布を解いた槍を見て声を上げた。
「・・・メイザー十匹の代償、かな」
俺の槍は今、刃がなかった。メイザーの群れと戦っている時、遂に最後の一枚に限界が来た、その結果だ。
「まぁ、今回の相手はこれで十分さ」
メイザー程度、装備が万全じゃなくても負けたりはしないさ。
「・・・私達は、あなた一人に劣るのね」
何だかタリアさんが落ち込んでしまった。うーん、言葉の選択を間違えたかな?
「君がお嬢ちゃんの頃からこの業界にいるからなあ。それなりの実力はあるさ。君もこの先、生き残り続けたらいずれ届く領域さ」
「生き残り続けたら・・・」
「続けるんだろう請負人。だからこの場に来たはずだ、違うか?」
「・・・分かりません。ただ、ここには来ないといけない気がしたんです」
休憩を挟みいよいよ動く事にした。
「作戦の確認する。目的は牙の団メンバーのサジ、カーム両名の遺品、運が良ければ遺体の回収する事。ただし、敵対勢力は健在だったため、忌避剤を用い勢力を追い立ててから捜索に入る事になる。万が一敵対行動をとった場合のみ交戦する事になるが、その場合でもできるだけ出血量は減らす努力をする事。以上だ」
作戦は単純。メイザーの群れを忌避剤で追い払い、戻って来るまでに目的のものを見つけ、撤退する。
交戦を避けるのは、血のにおいに敏感な奴等を呼ばないため。ただ、タリアさんがメイザーを見てどういう行動を起こすかは分からないため、その辺は成り行きに任せるしかない等、多少不確定要素がある。
タリアさんは頷いたのを見て、移動開始を宣言した。
「じゃあ、行こうか。まずは奇襲を受けた場所だ」
最初に向かうのは牙の団がメイザーの群れに襲撃を受けた場所。可能性としてメイザー以外のモンスターに引っ張って行かれたというのもありえる。最初の目的地としては妥当だろうと、槍を片手に歩き始めた。
歩き始めると、すぐにタリアさんに呼び止められた。
「あの、隊列は・・・」
「隊列?」
あー、そう言えばそんなもんあったなと、ソロの俺は意識しない事を彼女は言って来た。
「えっと・・・いる?」
俺とポクーは隊列を組まない。正確に言えば、そこそこ近くにいればいいというスタンスだ。だから、ポクーが後ろにいる事もあれば、横、頭上、果ては前方を埋める事だってたまにある。ポクーはとてもお茶目さんなのだ。
こちらの発言から延々と困惑の視線を向けて来る彼女に、とりあえず隊列を組むようにしてみる事にした。それにしても何故俺がこんな事を決めてるのだろう?
「じゃあ隊列を組むか。タリアさん、脚の調子は? 木を登ったり全力で走れる?」
「それ、普通は出発前に聞いとかない。戦力確認は大事よね」
「そりゃあ大事だが、適当にワーって追い払って、ザーって周囲を浚って、キャーって逃げるんだろ。連携いらなくないか?」
「かるっ! それにそんな風に考えてたんですか」
そう言って彼女は、信じられないものを見るような目をこちらに向けて来た。
「いやいや、昨日今日出会った俺達に連携なんて無理だ。ここは各々が適度な距離を保って行動する事をおすすめするね。それで脚の調子は?」
「激しい運動をしない限り傷は開かないと思う」
とりあえず、それっぽい事を言ってみてから脚の調子を再度聞くと、包帯を巻いた右脚を軽く叩いて見せて来た。
「なるほど・・じゃあタリアさんはポクーの上で活動してもらおうか。弓はまだしも瓶を投げる位はできるだろう」
隊列?を決めると俺達は目的地へ進み始めた。




