事後処理?
「またのご入り用お待ちしています」
夜間移動を行い、リンデンブルクで注文していたミストンを受け取った。
「やっぱりミストンは重いな、なぁ、ポクー」
ミストンは鉄の倍程の重さを持つ金属。今回の槍の刃は重量を少し重くする事にしたため、しばらく調整が必要だろう。
受け取ったミストンのインゴットをポクーに積み込んだ。
「じゃあ、ミューザまで行こうか」
早く寄り道を終わらせて、ウリスタニアに帰るぞ。
昨日の夜振りに訪れたミューザは、やはり田舎町といった所で、人通りはあまり多くなく活気もそこそこ。住むにはこれ位の方がいいといった感じだ。
昼までまだ時間があったので、ミューザの街並みを見ながら時間を潰していると、前からタリアさんがこちらに歩いて来ているのに気づいた。
あちらもこちらの存在に気づいたらしく、あっっという感じに口を開き動きを一瞬止めた。
「・・・もう帰って来てたんだ」
「やあ。用事は近場だったからね」
近づいて来た彼女は、昨夜はぐっすりとはいかなかった顔を化粧で誤魔化していた。無理もないとはいえ、これから大丈夫だろうか彼女は。
「なんだか重そうな物を背負ってるわね、それが用事?」
俺達の間に特に話題があるわけでもなく、今思い付いたっぽい話題だがよく気づいたなと感心した。今日仕入れたミストンは俺の体重を超える重量とはいえ、普段から相当量の荷物を持つ俺の見た目にはあまり変化はない。それをこちらに気づいてからここまで少し移動している間だけで見抜くとはな。
「まあな。だけど、あまり荷の詮索はしない方がいいぞ」
「そう」
「そっちは何かしていたのか?」
「みんなの葬儀。その帰り」
「そうか。じゃあまた昼にな」
立ち話は終わり彼女の横を通り抜けようとした時、彼女に呼び止められた。
「何だ?」
「あのっ、街を案内しましょうか!?」
「・・・何の意図があるかは知らんが必要ない。もういいか?」
彼女はまだ何か言いたそうな顔をしていたが、再度街をうろつきはじめた。
「では、そういう事で」
キトギルドの会議室で、昼から始まった関係者を集めた話し合いが今終わった。昨日の話に補足を加えて再び話したり、タリアさんを助けたおかげで俺が受け取る事になった謝礼の話まで全てだ。
話し合いが終わったので、先に退室した者に続こうと席を立とうとすると、調書作成協力のお礼に食事に誘われた。俺もあとはウリスタニアに向けて移動するだけなので、快くその提案を受け入れた。
食事処には共に調書作成に携わった俺とタリアさん、それと職員のベシティさんが席を囲んでいた。
「それで、タリア。あなたこれからどうする?」
「これからって?」
「これからはこれからよ。サジ達の事はざんねんだったけど、この先どうするかよ。療養中はいいとしても女の子一人でやっていくのはしんどいわよ。要望を言ってくれればすぐにパーティー紹介するからね」
食事をしながらベシティ人生相談所が開かれた。
「ベシティさん、まだそういうの考えたくない・・かな」
「そう。でも厳しいようだけど言わせて貰うわ。時間は待ってくれないわ。今すぐにでも要望を言って欲しい程よ」
女二人が話し合っているので、こっちはこっちでポクーに魔水を与えてほっこりと過ごしていると、ベシティさんに呼ばれた。
「このコ、キテレンに行くなんて言い出したんです。一緒に止めてください!」
一体どういう経緯でそうなったのかは知らないから、とりあえず理由を聞いてみることにした。
「まあまあベシティさん、落ち着いて。・・・それでタリアさん、キテレンにはどのような用で行くんですか?」
少々鼻息荒いベシティさんをなだめると、件の発言をしたタリアさんに聞いた。
「・・・アルセとリネンの遺体は葬る事ができた。でもサジとカームには何もない。ないんだ」
「タリア、それだったら何もあなたが行かなくても。それに、その・・・」
タリアさんがキテレンに行きたい理由は分かったが、確かにベシティさんが言うように彼女が行く必要はない。それにベシティさんが言葉尻を濁したのだって意味は分かる。昨日の出来事とはいえ、既に二人の肉体はないだろう。奴等のゴミ捨て場で仲間の残骸を見たい者なんていないはず。つまり、そういう事だ。
「分ってます。でも、パーティー最後の生き残りとして皆を、皆を弔ってやりたいんです」
悲嘆げな彼女の言葉に、俺もベシティさんも強引に止めるのはできず口を閉ざした。
しばらく周りの喧噪のみが俺達を包んでいると、タリアさんがこちらを見据えて来た。
「リトさん、お願いがあります。私をあの場所へ連れていってくれませんか」
あの場所? なんて聞き返してお茶を濁そうものならと、思ってしまう程覚悟を持った表情を彼女はしていた。
さて、どうしようかと考え始めた。
俺は今依頼遂行中だが、ライマールさんの依頼は一日二日遅れたところでどうという事はなく、期間的には余裕がある。依頼はな。
ただ、この冬の間にもう一度諸島のダンジョンへ行こうと考えている事を勘定に入れると、時間は自分のために使いたい気もする。
そんな事を考えながらベシティさんへ顔を向けると、口をはさむ気はないように見えた。つまり、俺の気持ち次第で決まるのかもしれん。
「助けたのは成り行きだった。だが今回のは違う。君に対価が払えるかどうか、それ次第だ」
今度はこちらが、タリアさんを見据えて言った。
「・・・対価」
「俺は高いぞ。片道徒歩三日といったところか。それを往復一日にしてやる。それに釣り合うものを君に用意できるかな」
「何をしても必ず、かならず用意する。だから・・・」
タリアさんの腹は決まっているようだった。ただ同時に、視界に入るベシティさんの表情が暗くなったのを見逃しはしなかった。




