廃村にて
廃都キテレンで拾いものをした俺達は、とりあえず安全そうな場所を目指していた。
「顔色は・・こんなもんだったな」
一人だけ生きていた拾いものは、風除け程度の壁で隔離し、周囲の警戒の合間に経過を観察していた。
拾いものは三人が三人とも【クリアカスタル族】の若者であった。
クリアカスタル族はクリアディア族とは近縁で、見た目も疎い者なら見分けが付かない程には似ている種族だ。
そんな三人のギルドカードを眺めていた。
「ランク1か」
荷物持ち以外の二人の討伐ランクは1。こいつらは牙の団という名のパーティーで活動しているようだが、パーティーの情報が記載されたパーティーカードは見当たらない。残りの二人のどちらかが持ってるのだろう。
パーティーカードがないので精確性には欠けるが、前衛組も同程度の実力とした仮定した場合、同数のメイザーなら問題ない。それ以上でも逃走位はできる実力といったところ。
「と言う事は、メイザーに先手を取られたのかな? はたまた……」
安全そうな場所に着くまで、推論と自分ならどう対処するかを考えていた。
「まぁ、ここでいいか」
キテレンから川下の廃村に下りた。地理的に多分、キテレンが閉鎖された時に一緒に消えた中継地点だと思われる。
廃村に降り立ち頑丈そうな建物を覗くと、たまに利用されている感があった。他の者もこの建物を一時拠点として利用しているのだろう。
「ポクー、そこに寝かせるようにおいて」
建物内に三人を横たえて、薪を集めに建物をあとにした。それ位なら離れていても襲われる事はないだろう。
薪を集め終え、建物中央で焚き火を始めた。暖炉はどうやら不備ってるらしく、他の利用者もこうしているようだ。
「さて、いつ目覚めるか・・・」
唯一生きていた弓士の若い女の弱々しかった息遣いも、峠は越えたようだしその内目を覚ますだろう。
武器の手入れも終わり、外の警戒をしつつ薪をくべたりし、夕方頃。
「ここは・・・」
件の彼女が目を覚ましたようだ。かすれ気味な呟き声を拾った俺は、彼女へ近づき声を掛けた。
「お目覚めかい」
こちらの声に気づいたのか、首をこちらに向けて来た。ただ彼女の目は、どこかぼんやりと声の方を向けて来ただけのように感じた。
「どう、意識ははっきりしてる?」
こちらの問い掛けに頷きをもって答えて来た。
「そう、それはよかった。じゃあ少し待ってて、白湯でも持ってくるから」
「あの・・私は・・・いったい」
白湯作りの準備をしながら説明を始めた。
「君は、毒にやられてるっぽい。覚えてる?」
「・・・どく・・・・」
彼女はしばらく天井の方に顔を向いていると、突然勢い良く体を起こして来た。だが、本調子とはいえないらしくすぐに再び床に伏せた。
「大丈夫かい?」
「・・なかま・・は。わたしの」
「・・・落ち着け。まだ毒も抜けきってないんだ、まず自分の体を考えろ。すぐに用意するからな」
その後も上げて来る反論の言葉も封じ、白湯を用意した。
「飲めるか?」
彼女が頷くのを確認すると、ゆっくりゆっくりと白湯を飲ました。
白湯を飲まし終わり、こちらも一息つけると話を始めた。
「ふー・・・さて、何から話そうか。いや、何を話して欲しい?」
「あなたは・・」
「俺? そうだな、まずは互いに自己紹介しようか。俺はリト。まぁ、ご同業さ。君は?」
「タリア。『ミューザ』・・拠点、かつどうしてる」
ギルドカードで彼女の事は知ってはいたが、とりあえず互いに自己紹介し、事情説明を始めた。
「こっちはたまたまキテレンの近くを通った時、武器を持ったメイザーの群れに囲まれた家屋を見つけてね、その中身が気を失っていた君だったというわけさ」
「助けて、くれたの」
「同業のよしみさ。・・・それに、君以外は助けられなかった」
燃えている薪を拾うと、彼女が寝ている場所から離れた位置に火を掲げた。そうすると亡くなっている二人が炎の明かりで照らされた。
彼女は目を見開き、嗚咽と仲間の名前を呼びながら仲間の元へ這い始めた。その姿を見て俺とポクーはそっと建物の外へ出て行った。
「私達は牙の団という五人パーティーで活動していました。今回の依頼も前に一度受けた事があったので、滞りなく終わる予定でした。ですが依頼も終盤、キテレンも鉱山跡まであと少しといった所で、メイザーの集団に奇襲を受けました」
しばらく外で待機し建物に戻ると、彼女は語り始めた。
「最初にやられたのは前衛のカームでした。運悪くメイザーの弓が頭に当たり即死でした。カーム以外は手傷を負いながらも無事でした。前衛を一人欠いた状況でも私達は必死に戦いました。でも、このありさまです」
「気づいた時には既に遅かった。矢には毒が塗られていたようで、動きが鈍くなった所を突かれリーダーのサジが倒れ、残った私達は包囲網の薄い所を突いて逃げ出しました。ただ私は足を射られていた。私がアルセとリネンの足を引っ張り、アルセが私を庇って怪我を負い、私達は籠城する事になった」
自分の罪を告白するような彼女の語りは続いた。
彼女は語り終えると、こちらを振り返った。
そして。
「助けてくれて、ありがとう、ございました」
額を床につけるように頭を下げ、感謝の言葉を述べて来た。
「ふふ。まあこっちは謝礼目当てだから、そんなに畏まらなくていいよ」
できるだけ場を明るくしようとしたが、元々の内容選択に不備があったようだった。
「・・・こほん。じゃあ人里向けて進むか」
「もう夕方のように見えるのですが」
「そうだね。じゃあ行くか」
「もう夕方のように見えるのですがで、何故じゃあなのですか?」
「拠点はミューザって言ったっけ。ここから近い? 俺この辺の地理詳しくないんだよね」
「人の話聞いてください」
「そういや、勝手に顛末を語りだした人がどっかにいたな。果たしていつ、どこでだっただろうか?」
「ッ~~」
「認めます、認めますとも。ええ私ですとも・・・でも、誰かにきいてほしかったんです」
途中までいい感じだったが、結局盛り下がってしまった。感情の浮き沈みが激しい情緒不安定な彼女とのやり取りは、その、神経を使う。
「体調はどう?」
「・・横になる程じゃありません」
「ふむ。じゃあ行くか」
「・・・人の話をきいてください。それに・・その」
彼女はもじもじとした仕草で、何かを伝えてこようとした。
「あー。ふむ、出発は少し先にしようか」
何故彼女に布団を掛けるのを一瞬躊躇ったのかを、俺は思い出した。




