新たな武器を求めて
「あらぁ、久々に見る顔ねぇ。このくそ寒い中帰ってくるなんて明日は吹雪ね」
「このギルドに厄介になってるリト、のつもりでしたが既に転職済みとは。遂に倒産目前、次の所属先を探さなくては」
ウリスタニアまで帰って来た。装備類の調達にしばらく滞在する事になるので、とりあえずギルドに来るといつものごとくギルマスに絡まれた。本当は食事処の魔水目当てだったんだが、同じ建物なのだから仕方ない。
「あらあら嫌だわぁ。この敏腕マスターがギルドを潰すわけないでしょ。失礼な物言いはやめてください」
「び、びんわん。僅か二十名弱の零細ギルドのギルドマスターが他称される称号ではありませんね、自称敏腕さん」
「あらぁ、そんな事言っていいのかしら。こんなにも人が増えたのに」
ギルマスは三本指を立てた手を突き出して来た。三・・・ほぉ。
「三名も増えたんですか。おめでとうございます」
「ちがいますっ! 流石にそんなにみみっちくありませんっ。三十です三十」
「はいはい、三十路ですね。随分と若作りだったんですねぇ」
「ちがいます! 勝手に話を捏造しないでください。私は二十三です! はっ」
ほほぉ。
「・・・何ですかその顔は」
「お得意様に後さ・・・・なんでもありません」
明日の朝日を見るため、この話題は止めた。話題を変えなくては。
「三十名ですかぁ。驚きです。いつの間に増えたんです?」
「・・・・・・・・・・」
ギルマスはつんとした態度で口を閉ざした。ありゃ、すねちゃった。これは俺が悪いのか?
ギルマスがうっかり漏らした年齢。二十三。これは実に微妙なお年頃だ。
ここウリスタニアでは周囲の村々よりは晩婚傾向にあるようだが、それでもぎりぎりといったところ。男はそれより範囲が広いが、一般に三十までだな。それ以上は甲斐性無しのレッテルを貼られる。まぁどちらも一般人の初婚の話だが。
「きっと、きっといい人見つかりますよ」
「・・・ほしょうは」
「えっ?」
「保障はどこにあるの! ねぇリト~、そう言ったからには何か根拠があっての事ですよねぇ」
ギルマスから必死さ伝わってくる。何だか痛ましい。
「根拠? そりゃあもちろん・・・ははははははは」
「笑ってごまかさないでください! もういんです。私は。私は、ギルドマスターとして一生を、一生を・・・・・・」
拗らしてるな。本当に痛ましい。誰か早く貰ったげて。
ギルマスの良き未来を願ってからギルドを後にし、隣の食事処でいつものをちびちびし始めた。
「ここでこうしてると、帰って来たって感じするなぁ、ポクー」
もっとよこせと、触手のようなものを伸ばすポクーから魔水の入った瓶を防衛しながら聞くと、うんうんそうそうとぞんざいな返事をし触手のようなものの数を増やして来た。
「・・・マスター、瓶追加ー」
まぁ、たまにはいいかな。
久々に他人が作った魔水を味わうと街へ打って出た。帰って来る途中の町で最低限身嗜みは整えたが、槍に解体包丁、革鎧は贔屓にかぎる。
「あれ? リトさんいらっしゃい」
「やぁリィーヤ、お父さんいるかい?」
まずやって来たのはライマール刃物工房。俺の槍は出来合い品じゃないから、早く注文を入れておかないといけない。
工房の扉をノックすると出て来たのはライマールさんの息子のリィーヤだった。
「お父さんは今会合に行ってます。注文だったら僕が受けますよ」
「会合か~。うーん、また今度にするよ。今日はいつものじゃないから、お父さんと相談しながら決めたかったんだ」
「そう、ですか」
残念ながらライマールさんは何かの会合でいなかった。じゃあ次はどこにしようかと考えていると、リィーヤが意を決したような顔をして口を開いた。
「あの、僕が相談相手では駄目でしょうか?」
リィーヤはこの工房の後継ぎ。ライマールさんの息子であると同時に弟子でもあった。
年齢的にまだ見習いのはずだが、この表情・・・年長者として若者の成長を見守るのも役目かな? と、最終決定はライマールさんとする事を確約させてから工房にお邪魔した。
ライマール刃物工房はまさしく工房であり、陳列や接客スペースは殆どない。その殆どない接客スペースに俺達はいた。
「新しい刃を所望だそうですが」
「ああ。今使っているのより丈夫なのが欲しい」
ダンジョン潜りで壊れた刃の一枚を出した。
「これは・・・鉄をベースにクロムとペンデュラを混ぜた合金製だったはず」
「うんそう。ちょっと堅いモンスターとやり合った時に壊れてね。合金の比率を変えようか、違う合金にしようかというのが相談内容さ。どう、手に負えそう?」
「・・はい。大丈夫です」
リィーヤは少し間をおいて答えると、新たな刃についての話し合いを始めた。
相談事は区切りがつき、談笑しているとライマールさんが帰って来た。
「今帰ったぞー」
裏口から入って来たライマールさんはこちらに気づいた。
「おっ、来てたのか。てかお前達何してるんだ?」
「邪魔してるぞ。ほら、リィーヤ。あれを」
リィーヤは意を決したように立ち上がった。
「お父さん、これ見て」
リィーヤが持っていた紙をライマールさんに渡した。ライマールさんは渡された紙を一瞥して、事情を尋ねて来た。
事情を掻い摘んで説明すると、ライマールさんが紙面に目を通し始めた。
「・・ふむ。まぁ、悪くはないな」
「ほんとう!」
「ああ、本当だ。あと腕が伴えば一端の職人として扱ってやる、精々励めよ。あとはこっちで詰める、お前は奥に行ってなさい」
「はーい」
立てた案は悪くない出来だったらしく、ご満悦顔のリィーヤは二階へ上がって行った。
リィーヤが上に上がったのでこの場には大人二人が残り、ライマールさんは部屋の奥から飲み物を持って来ると対面に座った。
「息子のわがままに付き合わせてしまったようだな」
「いやいや、中々有意義な時間だったよ。見習い卒業も秒読みかな」
「まだまださ。頭ばかり良くなりやがって」
「じゃあ大筋はこれでいいとして、あとはどこを詰めるんだ?」
「そりゃあ・・・まてよ」
何かに気づいたライマールさんは「ちょっと待っててくれ」と言い残し、仕事場の奥へ入って行った。
奥の方から何かを探すような音がし、しばらくして戻って来た。
「すまん。注文は待ってくれ」
ライマールさんは帰って来ると、申し訳なさそうな顔をしながら言って来た。
「・・・どういう事だ?」
「ミストンの在庫がない」
「ミストン。今回使う刃の合金素材の一つだな。製錬所にないのか? 今日も操業してるだろう」
「ない。ミストンはここのダンジョンじゃ全く取れない、全て輸入品だ。今の季節は買い占められてどこにもない」
「て事は」
「知り合いに融通して貰えないか聞いては見るが、最悪春になるぞ」
雪が積もる季節は交易が行われない。流石の俺も金属の流通事情までは知らなかったが、まさかミストンは全て輸入品だったとは。
だが。
「ミストンがあればいいんだな」
「ああそうだ。当てがあるのか?」
「ここにいるだろ」
俺自身を指した。
「ここにいるのは、冬だろうと関係なくうろちょろする奴だ。首都だろうと産地だろうがどこにでも行ってやるぞ」
「うろちょろって・・・まあいい。じゃあ仕事を頼みたい」




