抗体作りとじゅるりと外骨格ってやっかいだよね
四階層と三階層の境界付近で日々実践訓練をしている。
ただし今日はダンジョンには籠らず、用が済むと早々に出て来た。
俺の傍には一匹のモンスターの死体があった。これはダンジョン四階層に出たあるモンスターを生け捕りにし、先程用が済んだので殺した奴だ。
このモンスターは見た事ない毒持ちであった。
請負人に限らず戦闘をこなす者は毒に耐性を持つ必要がある。こういう業界に入ったばかりの者達の死因では、この手の原因が結構多い。だから日々欠かさず毒情報も更新しないといけない。
数日掛けて同様に生け捕りにしたララパンを使って毒性の強さを確かめ、先程毒を接種した。死ねばそこまでだが、毒性の強さからして大した事ないだろう。こんな事を続けて俺達は強くなってきたのだ。
死体を埋めると小屋に入り休み始めた。
装備の手入れをし消耗品の残りを確認すると今やる事がなくなったので、これまで集めたダンジョンの情報をまとめ始めた。
これまで出現したモンスターの種類と大体の頻度を紙面におこし、何度も書いては消してをした地図の清書をした。
毒の接種により体調は芳しいとは言えないが、戦闘で命を落とす確率を減らすための、これも大事な訓練であるわけで、この程度で音を上げていればこの先なんてない。
夕食を摂り終えると紙面におこした情報を眺め始めた。
このダンジョンのモンスターはやはり万遍無くいろいろな種類がいる。ただし全く類型を思いつかない程の変種にはまだ出会っていない。
三階層には水没した道があり、出入り口基準の地図上では北側が水没している。流入した海水内に危険な生物はおらず、比較的若いダンジョンだと思われる。
バイルス(細)は、バイルスと同じような味で脂肪分が少なく干し肉に適していると思われる。
「まあこんなところか」
折角だから他のモンスターも生け捕りして、実食してみようかな?
ここ最近、朝四階層まで行き毒持ちを生け捕りにして帰投している。地上で下手して逃がせばこの島の生態系が崩れる可能性があるので、毒の接種を終えると処分している。
島はすっかり雪が降り積もり外は寒いが、燃料の木を伐採し放題なので小屋の中は暖かい。それにポクーに乗って屋根の雪下ろしをしたりと、気分転換を挟みつつ中々充実した日々を送っている。
しばらく毒を接種する日々を続け、とりあえず耐性が付いただろうとしてダンジョン籠りを再開した。
「ふぅ」
首の付け根に槍が刺さり、生命活動を終えたモンスターが一匹。周辺には既に他のモンスターの死体は転がっていなかった。
「やはり手強い」
槍の先に刺さったモンスターを見て呟いた。
このモンスターは今のところ遭遇した中で最も厄介な奴だ。四階層で現れ、正式名は知らないが【ウォーディー(異色)】と、とりあえず命名した。
ウォーディーは三対の脚を持つ虫系モンスターで、ウリスタニア周囲にもいるのだが、討伐ランク1程度で強くはない。だが、このダンジョンに出て来た色以外は大してサイズも形も変わらない奴がランク2に達していると思う。外骨格は堅く動きも速いと、初遭遇時にウォーディーと間違えれば手痛い事となるだろう。
「ああ、やっぱりな」
ウォーディー(異色)から槍を引き抜き、刃を確認すると欠けていた。
このモンスターの厄介な所は外骨格の堅さ。関節部以外は堅すぎて刃がもたない。途中までは上手く立ち回ってたと思っていたが、一度目の首関節狙いに失敗した時嫌な音がしたんだよな。
「これは研いでどうにかなる範囲じゃないな。ポクー、帰るよ」
この刃は廃棄決定。刃が欠けてしまったので修練を取り止め地上に帰還した。
小屋に帰って来ると刃の交換を始めた。
残りの刃は五枚、考えるに冬の間中籠るのは無理っぽい。ただもう外は寒いから帰りたくないんだよなぁと、考えながら刃の交換をした。
それからも四階層と三階層の境界付近に通い詰め、ある日のこと小屋で夕食を作っている時、ふとある事がよぎった。
あれ? 普段と大して変わらなくないか、と。
野宿と小屋、地上とダンジョンの違いがあるだけで、やっている事は普段の放浪生活となんら変わりはない。
俺はここに修練に来たはずだ。なのに戦闘中でも武器の損耗の方に気を散らせる程楽な相手しかしていない。
これでいいのか? いいわけない。
刃? そんなものがなくても俺は戦える。戦ってみせる。俺は強くなると決めたのだから。
「ポクー、明日からより奥を目指す。付いて来てくれるか?」
頭の上で毛玉のように丸まって遊んでたポクーは、何を今さら、と何言ってんだこいつ顔で返事をして来た。まぁ、顔はないんだけど。




