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ダンジョンに入るまで

 まさに秋といった時分、俺とポクーはダンジョンがあったあの島に到着した。もっとも、ウリスタニア周囲がまさに秋といった時分なだけで、この島は既に肌寒い程だ。やはり冬用に装備や道具を買い足しておいて正解だった。


 この諸島は調べた限り地図には載っていなかったが、大陸の形から考えるにファルクス帝国最西部の真北に当たるようだ。

 大陸からの距離を考えるに、ファルクス帝国はこの諸島の存在を知っている可能性があるが、海を渡れないので手を出していたいのだろう。

 船で大海原を渡るのはほぼ不可能だ。だから飛行ルートでしかこの地には来れない。それも人が騎乗可能かつ長時間飛行可能という条件を満たす必要があり、そんなモンスターは殆どいないというわけだ。




「まぁ、まずは小屋だな」


 到着後、直ぐに取り掛かったのは小屋作りだ。早く作らないと多分雪深い冬が来てしまう。俺も流石にダンジョンの中で寝泊まりする気はない。物を置きっぱなしだと消えるし。


 木の伐採や枝打ち、製材をしたり、壁や屋根用に土を採取したりした。小屋を建てる場所はまだ決めていないが、廃屋裏の畑辺りか最初に見つけたダンジョンの出入り口近くに候補を絞っている。昔の住人が使っていた畑と思われる場所を再開拓して使う事を考えると、廃屋近くが優勢だろうか。

 畑は雪が溶けてから整備し、野菜の供給源を確保する予定を立てている。植える野菜についてはまだ考えていないが、ここは絶対に寒い。だから在来植物をと考えているが、この諸島の植物には見覚えがないものや、似ているだけの可食かどうかも分らない物ばかりでダンジョンを見つけるまで食には苦労した。



「そう言えば廃屋の住人達は何を食べていたのだろう?」


 この島での食について考えていると、ふとそんな事が浮かんできた。元畑だと思われる場所は荒れ放題で半分森に還りかけていて、元々何が植わっていたのか判別不明な状態だが、廃屋を探せは何かしら見つかるかもしれん。



 作業を止め崩れ果てた廃屋に近づくと、元々天井だった部分をぶち抜いて中を覗いた。

 廃屋の床は土で、部屋の中には家具の残骸らしきものが散らばっていた。ただ家屋自体と違い、あまり雨風にさらされていないものもあり、明確に机、棚、と言った様に判別可能なものが残っていた。道具も木製や焼き物が見えるな。


 穴を更に広げ中に光を当てると、竈らしきものが崩れた土の山も見受けられた。

ここで生活していたのは間違いない。

 舞い上がった土埃が落ち着いてから廃屋に足を踏み入れた。





「収穫なしか」


 廃屋を調べ外に出ると一人ごちた。

 廃屋には本当に最低限の物しかなく、可能性として最後の住人の骨が、と考えもしたがそれらしいものもなかった。

 植物系は腐り果ててるだろうからと元々期待はしていなかったが、いくつか分った事がある。

 ここの住人は何かしらの事情でやむなくここに住む事になったのではないかという事だ。まず、金属製品がない。次に、道具類が素人仕事である。つまるところ、ここの住人達は大陸と行き来する事がなかったと言えるのではないか。事情的なのか物理的なのかは分らないが、行き来がないのは間違いない。



「もしかしたら航海時代の遺産かもしれんな」


 ここで一つの仮説を立ててみた。

 今でこそ海を船で渡ろうとする無謀な者は皆無だが、歴史上は何度か海を渡る試みが盛んだった時代があったそうだ。それを第何次航海時代と歴史書に刻まれている。盛んになった理由は、仮説上の異大陸探しや、海上貿易、船に関する新技術が開発された等時代によって理由は違うが、現状から分かる通り成功した事はない。

 ここに住んでいた者達は、そういう時代の難破船の船員の成れの果てかもしれん。

 これが俺が立てた仮説だ。確かめる術はないが、ファルクス帝国かピットヤーグ王国で情報を集めればもう少し何かしらの情報が出てくるかもしれない。


 ちなみに、海はそれ程恐ろしい場所なので、海魚は貴重で富裕層御用達の品である。そのため一攫千金を求めて、川や湖に比べて独特な漁法がいくつもあったりする。

 更にちなみにだが、俺達は海釣りは得意としている。結局のところ海面や海中にいなければモンスターに襲われる可能性がぐっと減る。だからそれさえ何とか出来れば海釣りはとても儲かるのだ。まさにポクー様様さ。請負人を辞めたら海の漁師になろうかまで考えた事がある。






 数日掛けて小屋を建て終えた。


 小屋は木を自由に使えたので丸太小屋に挑戦してみた。

 丸太小屋は公国の建築様式から外れてるので、国内ではまず見ない。ただどこにでも変わり種はいて、人里離れた所に隠れ住んでいる知り合いの家を真似てみた。


 その人は放浪中にたまたま森の中の一軒家を見つけて知り合った人で、間接的に俺の命の恩人である。

 そういうのも空翁とやり合った時身に着けていた革鎧は、この人が仕留めたモンスターの皮を工房に持ち込んで作って貰ったものだ。ミュレスの森に住む討伐ランク3でも屈指の皮革強度持ち、市場には殆ど出回らない貴重なモンスターのものだ。残念ながらイオロスには切り裂かれてしまったが、あの革製だったからあの程度で済んだと言えるだろう。



「なぁポクー。中々のもんができたな」


 完成した小屋に改めて観察すると、素人仕事ながら素人の仕上がりとなった。いや、生木でここまで形になったのだ、素人の仕上がりでも上等と言えるだろう。どうせ木が乾燥して来ると隙間だらけになるだろうから、それは土で埋める算段をしている。


「くっ、どうでもいいだと」


 屋外常套生物にこの建築美は分らんよなぁ~。・・・くそう。



 数日の成果を一言で片づけられた俺とポクーはダンジョンの前に立った。


「ポクー。明日から本格的に潜るぞ」


 小屋作り中も肉の調達に一応毎日入っていたが、小屋が完成したため明日からここに来た本来の目的を始める事になる。


「俺は強くなる。もうあんな思いをしないため、お前にもさせないため。約束を守るため。俺は、俺は強くなる」


 それだけ宣言するとダンジョンを後にした。




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