顔見せと依頼の終わり
夕方前になると、今日の戦闘が終わり軍勢が帰投して来た。
そして、帰って来た知り合いの請負人達とバカみたいな話題で盛り上がっているとヴィーゼヌ陣営の本天幕に呼ばれた。
「ほぉ。こいつが」
天幕内に入るとヴィーゼヌ卿が所属する派閥のお歴々からの視線が俺に向けられた。この場所は共に戦う軍勢の指針が決定している重要な場所である。
お歴々は強者の風格漂う歴戦の軍人から場違いな程若い、多分何処かの領地の跡継ぎ、どう見てもその腹駄目だろまでいろいろいた。
「ヴィーゼヌ軍一等将コーラル・セテッシュだ。司令に就いている」
沈黙の中、まず最初に最も上座に位置する一等将が口を開いた。この中には地爵本人もいるだろうにあの位置にいるという事は、やはりヴィーゼヌ領が如何に周囲から突出した存在か分かろうものだ。
「存じています。依頼主ですから」
「ふむ、そうであったな。書類上は私が雇い主だったか。では此度の依頼ご苦労であった。ヴィーゼヌ閣下もさぞお喜びになるであろう」
「ありがとうございます」
「では、下がってくれ」
ほっ。どうなるか分らなかったが顔見せだけで済んだようだ。
戦闘が終わってまだばたばたしてるから、一人の勲功者にそれ程割く時間は無いと。こっちとしてもありがたい。
「セテッシュ司令。お待ちを」
天幕から出ようと一歩踏み出そうとした時、駄目腹が待ったを掛けた。
「ルーメラン卿、何ですかな?」
「あの者にはまだ使い道があります」
そう言って駄目腹が更に話しを続けた。
「あの者を攻城戦時の爆撃要員してはいかがかと。聞くところによると通常の飛行騎兵が届かぬ程の上空を飛べるという話」
「ルーメラン卿、それは安易過ぎる」
駄目腹の話に歴戦軍人が待ったを掛けた。
「カタラス大隊長」
「空からの爆撃は簡単ではない。飛行騎兵が届かん高さとなると砦なんて小さなものにはまず当たらん。投石器や大砲の方がはるかに安定する」
「何を言うか。ただ落とすだけではないか。自分のところが活躍してないからとばかりにもっともらしい言い訳を並べおって」
「ふん、話にならん。こんな軍事音痴が地爵だと、笑わせる」
「同格地爵配下の分際で、身の程を弁えろ!」
「私はトルヴァス四等地爵閣下から今戦の全権を任されている。その発言は私に対する宣戦布告か、ルーメラン四等地爵」
駄目腹と歴戦軍人が睨み合いを始めた。
ただ、駄目腹が及び腰であったのが目についた。
「二人とも落ち着け」
睨み合う二人に今度は一等将が口を開いた。
「私の意見を言う」
全員の視線が一等将に集まるのを一等将が見回し終えると発言を再開した。
「我々は既にピットヤーグに対して優勢であり、今更奇策に頼る必要は無いと考える。このまま正攻法を執る事こそ我々の勝利が盤石である事を示せるであろう」
この発言に駄目腹が苦虫を噛み潰した様な顔をし、歴戦軍人が目を瞑り静かに耳を傾けていた。
この発言の後、一等将が周りを見渡し終えると、
「では、この件についてはこれで終わりにする」
これで漸く俺は天幕から外へ出る事が出来た。
一時駄目腹が発言した時ひやりとしたぜ。
派閥の本天幕から出て来ると、今度は昼にも来た二等佐が主に使っている天幕へ連れて来られた。
「請負人リト。此度の依頼はここで終了とする」
どうやらこの依頼も今この時を以って終了となったようだ。俺の出番はもうないという事か。
「了解しました」
「うむ。ああそれと我々が帰還する頃には式典が開かれるから、連絡が付く場所にいてくれ。それまでゆっくり養生するように。以上だ」
「では、凱旋パレードでまたお会いしましょう。お元気で」
天幕をあとにし、戦陣からもすぐに離脱した。
ウリスタニアに帰ってまず治療しなくちゃ。それに空翁、次こそは。
こうして俺の今回の戦争は終わった。




