逃走劇とその結末
この話の罫線による表現は、罫線と行間の具合で長方形ですがイメージ的には角が丸めな正方形です。まぁ、本筋に何も関係ありませんが。
今日、死ぬかもしれん。
いつもの大きさかつ細長い形になったポクーに乗り、等級3の魔水原液を与え、糧食等の支給品を全て捨て、身一つと小さい方の荷物入れのみ持って、風に乗って逃げているのだが、イオロスはしっかり付いて来ている。まだ随分下にいるが追い付かれるのも時間の問題っぽい。
高度は既にボーグ山脈の平均的な山の山頂より上を飛び、更に上昇を続けている。
そして現在は進路を北に取っている。つまり、海。ミニメソとイオロスじゃ速度勝負は最初から分が悪いのは分かっていた。だから耐久勝負に賭けた。
イオロスは飛行モンスターといえども長時間飛び続けられるタイプでは無いと見た。だからこその判断。
海に出てしばらく経つが差は詰まる一方。
だが、そっちより先に気になりだした事がある。
「頭が痛い」
急激に高度を上げたため症状が出始めた。それに寒い。
せめてあの特注鎧を着とけば、いや速度が出なくなるから駄目だ。
更にしばらく逃げ続けていると、
「・・っ!あぶっ」
遂に射程圏内に入ったらしく、下から攻撃を仕掛けて来た。
試射っぽいが後を火の大玉が駆け抜けていった。やはり大火力魔的な力の使い手か。
「ポクー、止まって」
これ以上逃走では時間が稼げそうに無い。だから賭けに出ることにした。
巡航飛行ならまだしも相対すれば、否応無く急旋回や制動、静止飛行や垂直上昇等、イオロスに多大な労力を掛ける事が可能だ。
あとは俺達がいかに踏ん張れるか。
既に大陸からも随分と離れた。
離島の存在が少し気がかりだが、イオロスのあの巨体を支えるには相当量の食事量が必要なはず。下の小島ばかりじゃ腹を満たせる程の奴等がいるかも分からん。
だから大陸に帰ると思う。
そう長時間相対する事も無いだろう。
ポクーが急停止し、前に投げ出されそうになったのを堪えた。ポクーが。
俺? 俺はもう手が悴んであまり握力も無い。動くと服がぱりぱりいう状況になってる。
俺達が止まると奴等は大きく旋回しながら上って来だした。やはり直ぐに止まらず労力より効率を優先したか。
「ポクー、ステージ」
そう言うとポクーの大きさが家二つ分程の大きさに広がった。これはポクー上での訓練時等に使う形態である。
槍を構えポクーが広がりきるとほぼ同時に、眼前にイオロスの巨体とその背に乗るローブ姿の人物が止まった。
感覚が麻痺してるのか、身震いは・・してるな。
「ほっほっほ。もう追いかけっこはいいのかえ」
風やイオロスの羽ばたき音の中、何故か声が良く通った。
ローブの人物は老人言葉で話し掛けてきたが、声やローブから見える顔は『カズセトス族』の壮年。
人は強くなればなる程、肉体の衰えが遅くなる。特に上位の者は寿命すら延びる。だから見た目年齢と実年齢に齟齬があればある程強者の証である。
空翁の実年齢は知らんが、イオロス程のモンスターを従えるまでには相応の期間修練が必要なはず。だから実年齢は年配だろう。
「中々アーリア語が達者なようで。お爺さん、散歩ですかな?」
「嗜みよ。しかし、散歩では無いのぅ。お主を捕まえに来た。投降の意思はあるかえ?」
ふむ、実年齢は老人間違いなし・・か。
空翁確定だな。
「何の事だか。この国では散歩は違法なのか?」
「言い訳は捕まえた後聞こう」
空翁がそう言うと同時に場の雰囲気が変わった。
押し潰されそうな圧迫感を感じつつも、槍を構え直し、戦闘開始の合図を送った。
「赴く儘にたゆたえ!」
ポクーの静止浮遊の終わりを告げ、風とイオロスが起こす風に乗り、奴等から急速に離れ始めた。
小しゃ・・まで声が聞こえた。小癪かな? やはり魔的な力で会話を補助していた様だ。これが終わったら覚えようかな。
ああ、また一つ死ねない理由が増えた。
さぁて、戦闘開始だ。
会話中に大分握力も戻って来ている。
調子は良くないし元々格上、イオロスの連続飛行限界が来るまで何とか凌いでやる。
イオロスが空翁の命令を受けたのか、旋回飛行に戻り、空翁自身は精神集中に入ったのだろう、先程から体勢が動いていない様に見える。
基本に忠実。
魔法等の魔的な力を使う時、精神集中は基本である。
端折る事も出来るが、これを疎かにする者は大成出来ないと言われる程大切なもので、大きく精神的なものと肉体的なものが、と、いろいろな説があるが、端的に言って能力が向上するのだ。
向上する方向性は個人の自由意志なため、一発に賭けるか、継戦能力を向上させるかに分かれるが、さて、どっちを選ぶかな?
精神集中も佳境なのか、イオロスが旋回飛行の輪を狭めて来た。
ただ俺達も空翁が精神集中している間、何もしていなかった訳では無い。いや、俺は槍を構えて一挙手一投足を見ていただけだが、実はポクーが上昇気流を掴んだみたいで、また上昇しているのだ。・・・つまり、
「うぅ・・・・吐きそう」
症状が悪化したのだ。
何してくれちゃってるのポクー!
てか、空翁すげーな。
素か道具か魔的な力で補助ってるのか知らんが、体調不良っぽく見えん。まぁ高速移動中で詳細が見える訳では無いが。
旋回軌道から遂にイオロスが直線軌道に入った。上からでは無くほぼ同高度からの突撃。イオロスは腕を振り上げる動作をし、イオロスの首横からこちらに腕を突き出した空翁を視界に収めた。
どっち? いや、両方っ!
こちらも槍を構えると奴等へ走り寄った。
「はぁあああ!!」
交差前、掛け声と共に槍を投げ放った。もう打ち合う気力も、そもそも実力も足りない。
投げ放った槍と空翁が放った放射状に広がる炎の魔法が俺達の中央付近で交差し、俺の投げた槍がイオロスの腕に弾かれ、空翁が放った魔法は。
「はぁ・・はぁ・・・・助かった、ポクー」
何とか空翁の魔法を躱せた。
俺が魔法を躱せたのは、槍を投げ放った後にポクーの底?が抜けたからだ。
俺はポクーの上から落下し、ポクーの内部で回収され、今は再びポクーによって上に戻された。
俺の代わりに魔法を受けたポクーには大穴が空き、
(交差前) (交差後)
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(■は埋没位置)
こうなった。
これ程大穴を空けるとは。影響範囲が広い魔法を選択したようだ。それにしても空翁は炎系統が得意なのか? 二度続けて炎技だったし。
そしてその攻撃を行った奴等は今、大きく旋回しながらこちらに顔を向けている。
空翁について殆ど知らんが、あの攻撃を何度も行使出来る程の魔力量があれば詰んだな。
イオロスの方はまだ余裕で飛んでいる様に見える。・・・あの系のモンスターの表情はよく分からんだけだが。
「はぁ・・はぁ・・・うぅ、眩暈までし始めた」
まだ先が、なんて言ってられない。
一度の交差でなんてざまだ。
既にボーグ山脈最高峰の山を遥か下に見える程の高度まで到達しているとはいえ、俺が、この上空在住と自負するこの俺が、この程度の高さで限界だとは。
「はぁ・・・はぁ・・・・からだが・・・おもい・・・・・・・」
俺の夢。
昔、ポクーと約束した俺の夢。
ここより遥か彼方、遥か上空にある空中都市。
そこでピクニックをしよう。そう俺達は約束した。
俺の様な足枷が無ければ、お前にとっては容易い事なのだろう。
顔を上げると未だイオロスの陰影が映る。・・・・・・ここまでか。
「ポクー・・・すまん・・・・たのしかったぞ」
視界に陰が落ちた。




