急転直下
報告を終えると早々にハルスニアを発った。
人集まるところに乱あり。先の依頼なんて目じゃない程人が集まっているからあちこちから諍いと兵士の介入事が起きている。
治安維持にも貢献する事とし早く脱しゅ・・・出発したのさ。
「まったく、あと十数日もすれば好きなだけ暴れられってのに、元気だよなぁ」
あそこなんて魔法の応酬だ。周囲への被害が堪らんなぁ。力試しも戦陣の華か。
「うん?」
ごしごし
「・・・うん?」
歳かな。変なものが目に映ったんだが。
生存報告込みの中間報告を終え、三日掛けてメセトェスに近寄って来たんだが、敵拠点から少しだけ離れた位置に変な縮尺の生物がいる。双眼鏡でも像がぼやけてよく分からない距離だが、デカい。デカい二足歩行モンスターだ。
デカけりゃ強い訳でもないが、何やら嫌な予感がする。だから多分相当強いモンスターではあるのだろう。
「さてさて、どんな面か見てやろうか」
幾ら強くたって飛行可能なモンスターってあまりいないんだよねぇ。
何か分らんがあんな珍しそうなモンスター。連れてる者は俺でも知っているピットヤーグ側の有名人かもしれん。
「ぷっ! 【イオロス】だとっ!」
二足歩行で人の数倍の大きさ、更に背に翼を持つ六肢翼人モンスターなんて希少種、あれは間違いなくイオロス。
これはやばい。
イオロスは個体数が少なく判然としないが、ランク6は確実視されている飛行モンスター上位の一角。
そんなイオロスを連れている者なんて一人しか知らない。
「『空翁』が来てる・・・」
空翁。ピットヤーグ王国にその人ありといわれた人物の二つ名だ。名は知らん。
俺が生まれる前後に戦場で名を馳せた人物で、参戦をぱったりと止めるまでの数年間、リーメイ公国側の飛行部隊の悉くを叩き落としたと言われている。
そんな人物が今回参戦してるなんて、聞いてないよ。
「よし避けるか。ポクー、今向かっている方向以外のに乗り換えて。慎重にね」
ああいう危ないのには近寄らないに限る。離れていた五日の間にあんなのが来ているとは。
風の乗り換えを指示し、ポクーが風の選定をしていると、気のせいだと思うがイオロスがこっちを見た気がする。
そしてそのイオロスの足元に人一人が近付いて行っていた。
ローブ姿でそれ以外何も分からんが、イオロスの近くに他に人影はないし多分あれが空翁と呼ばれる人物なのだろう。
その人物がイオロスの足元まで来ると、イオロスに持ち上げられ、背中の背負い籠の様なものに乗り込んだ。
うーん、移動かな?
他の多くの者達も撤収作業してるし、前線に向けて移動を開始する日なのだろう。ハルスニアも丁度それ位だろうし。
戦争の取り決めは無いはずなんだが、大軍勢同士は図った様に同じ様に動くんだよな。まぁ互いに何処からか情報が漏れるんだろうけど。
ポクーが進路を変えると同時に、イオロスが翼を広げ離陸を開始した。
イオロスの翼はワイバーンと同じ膜状の翼だが、体に対して少し小さ目であった。あれは飛行の一部を魔的な力で補助してるタイプだと思われる。
飛行は完全な筋力型から完全な魔力型まで分かれ、前者はワイバーン等、後者はミニメソ等、イオロスは前者寄りの筋力が主で魔的な力が補助の様だ。
ちなみに、人は有翼人種以外は完全に後者である。
ただし、卓越した使い手じゃないとそもそも飛行自体が難しいため、緊急回避や亜流として近接戦での無歩行移動として一瞬だけ行使するのが主流である。
「うん?・・・なんかこっちへ来てないか。あれ」
ある程度の高度まで上昇したイオロスは、しばらく町上空を旋回飛行しながら高度を上げ続け、今は一直線にこちらへ向かって来ている。
え、えーーと。地図によると彼等の行先に相応しそう・・・・・やばいっ!
「ポクー急いで上昇気流に乗れ! 逃げるぞっ!」
どういう訳かこちらの存在がばれてるっぽい。
奴等に勝てる気はせん。だからここは逃げの一手。
「それと、モデルチェンジ、積乱雲」
モデルチェンジはざっくりなフォルムチェンジの事である。簡単に言うと細部はポクー任せで、日や時間毎に変遷していき、「あれ? あの雲昨日も見たな」を防ぐためのものである。
俺は普段は層雲モデルに乗っている。今回の依頼中は幾つか使い分けたがな。
「さて、どうするか」
今はポクーに下端付近から上端付近へ運ばれている途中である。
この積乱雲モデルは時間稼ぎ。しばらく見ていたから分かったが、イオロスもワイバーン同様に上昇自体はあまり得意では無いみたいだ。だから、上へ避難すればしばらく大丈夫なはず。
「えーと、えーーーと、空翁の情報は。・・思い出せ。思い出せ~」
目を瞑り、空翁についての情報の思い出しにかかった。
なにぶん俺が生まれる前からちっちゃかった頃に活躍した人物だから、年寄りの話位にしか出て来ない人物なんだよな。
「えーと。何か。・・他の二つ名。・・移・塞・・! 思い出した、移動砲台だ」
空翁と呼ばれる前は移動砲台と呼ばれていた事を思い出した。
固定砲台は大火力な魔的な力を使う者を揶揄った呼び方。つまり、空翁自体は大火力な魔的な力の使い手とみた。イオロスは完全な足でもないだろうが口から何かを吐く等の遠距離攻撃手段を有した種では無かったはずだ。
だから、基本は中遠距離タイプだと当たりを付け対応を練るか。
「ポクー、奴等は今何してる?」
「・・・なるほど。既に回り旋回しつつ上昇中か」
速いな。こっちだって風に乗っているから、決して遅くは無いはずなのだが。
俺の場所は空翁辺りが魔力感知して割り出しているのだろうが、範囲がこれまた凄まじい。
ランク6確実と言われるイオロスを使役する程の人物だ。やはり実力は化け物っぽい。
「ポクー、ここまででいい。ここを基点にいつものに戻って。ついでに蓄えている水は奴等にぶっかけてやれ。・・・うん、魔力は好きなだけ抜き取って良いよ」
さぁて、あとはでたとこ勝負。逃げ切ってやるぜ。




