依頼前半終了
空に上がりっぱなしで四日目を迎え、日が経つ毎に街道を移動中の軍勢が増えていっている。
今はリーメイ公国ではハルスニアに当たる山脈切れ目にある一時集結地、『メセトェス』と名目上呼ばれている町の上空にいる。
アーリア語とピットヤーグ王国で使われているファルクス語は、随分違う言語体系であり翻訳が安定してない。なので何となく音だけ合わせている。余談だが、本来は、メセツトェィスが近い発音らしい。
高度は日々少しずつ上げ、今はボーグ山脈の平均的な山の山頂程度の高さを浮かんでいる。
メセトェスには各地からの軍勢はまだ到着していないが、今日は下見に来た。それに毎日天気雨が降ったら不自然だしな。
流石にここまで来ると精鋭部隊である飛行騎兵が飛び回り、巡回やら伝令やら行ったり来たりしているのを眼下に収めた。
彼等も専ら下を見ているから下手な行動をとらない限り、早々見付かりはしないと思っている。もっとも、彼等は精鋭なので油断する気はさらさら無い。
魔力感知能力が高い者もいる前提で行動しているので、魔法や魔道具を使わず、火打石等の原始的な方法で煮炊きをしている徹底振りさ。
ただし、ここまで気を付けているが見付かる時には見付かるだろうがな。まさに戦争の妙。どれ程の化け物が参戦してるか分らんからな。
ポクーの下端から顔を出し、天地逆さで西側の景色を目に焼き付けた。一応出した頭を覆う様にポクーの一部がせり出しているので真下からは見えないはずだ。
やはりというべきか、モズナン地方と似た様な地形、気候みたいだ。
ただピットヤーグ側の山脈切れ目付近の大地は広く、メセトェスはボーグ山脈東端の北側にある。ハルスニアは山脈西端の南西にあるので海までの分、こちらが近い配置である。
上空生活九日目を迎え、更に上昇し、ボーグ山脈最高峰の更に上を浮かんでいる。
雨っぽい放水は順次行っているが、上空過ぎて当たっているかは未知数な状況である。
この高度にはもちろん意味がある。
これ程の高度だとちょっとやそっとで飛行機兵が来れない高さだからだ。
大きく二つ理由があって、一つは、飛行モンスターならまだしも人はいきなり空高く上がると頭痛や眩暈、嘔吐、ときには死ぬ事もあるという生理的な理由。
もう一つは、この辺の飛行騎兵の騎乗モンスターといえば、ワイバーンが多数を占める。ワイバーンは上昇が達者ではなく、旋回しながらゆっくり上昇する事しか出来ないのだ。
つまり、襲撃や奇襲を受ける可能性が軽微なのだ。
「ううむ。ちょっと寒いな」
そんな上空で寒さを感じつつも寝そべって地図を描いている。
領軍から渡された地図は簡素過ぎるもの一枚で、ピットヤーグ王国全土の主要な都市と街道、河川しか描かれておらず、殆ど役に立たない。せめて地方毎に一枚、地図が欲しかったよ。
それで、今日は良い位置に雲がないので妨害工作を休憩にし、地図を描いているという訳だ。昼間の不自然な移動はデメリットばかり。
十八日目。昨日公国内に帰って来た。
中間報告のため一度ハルスニアで合流する事になっているからだ。
昨日は久方振りに地表に降り立ち、宿屋に泊まり、身支度を整えてからハルスニアへ再び移動を始めた。
ポクーに乗りハルスニアへ向かっていると、前方左方向から北上している大軍勢を視界に捉えた。
ルート的には公国の南東や南の地域の者達が通る道であり、日数的にも誤差の範囲。途中途中で軍勢が合流していくから、多分あの大軍勢の中にヴィーゼヌ領からの軍勢が含まれているだろう。
大軍勢を置き去りにし、先にハルスニアの発着場に到着した。
発着場で確認するとヴィーゼヌ領からの軍勢は未到着。やはりあの大軍勢のどこかだな。
先の依頼からの居残り組みや顔見知りの者達と挨拶をしたり情報交換をしていると、大軍勢の先端がハルスニアへ到着し始めた。
到着した者の大半は疲れ果てていた。
まぁ一般人やそれに毛が生え程度の連中は到着しただけでも上等さ。
中には暇過ぎてやってらんねぇって態度の連中も交じっている。だけどご愁傷様、このペースじゃ前線の砦までまだ十日程歩く事になるんだよね。
そうこうしているとヴィーゼヌ領からの軍勢っぽいのが判別可能な距離まで近付いて来た。
ご到着か。
到着したヴィーゼヌ領からの軍勢も到着早々に拠点の設営を始めた。
一時集結地への集結日よりまだ早いため彼等はここで数日間休憩となるだろう。
設営も終わりに近づくと、今度は荷車から細長い桶と樽が出され、細長い桶を地面に並べると、樽から液体を注ぎ始めた。
そうすると、その桶周辺に人がワラワラと集結し、その桶に足を突っ込み悶え始めた。
見てる分には面白い光景だ。
あれは治療行為。注がれた液体はコメット薬を薄めたもので、足裏の治療をしているのさ。今あの桶の中は赤黒くなってるだろうしな。
完治とまではいかんが、あれをすると随分治りが早くなる。それに夕食時出される一杯の酒にもコメット薬が添加されている。
この別名コメット法のお蔭で行軍中の脱落者が減ったという記録があり、今では標準的な行軍方法となっている。もちろん与える側の方針によって頻度や希釈倍率は変わるが。
さて、そろそろ行きますか。
拠点中央に近付き、兵士に取り次いで貰い、一つの天幕へ案内された。
中にはラインバン二等佐と数人の兵士が机を囲んでいた。
「任務ご苦労であった。報告を聞こう」
早速だな。まぁ世間話する間柄でも無いか。
「はい」
ここまでの報告を始めた。




