ミニメソ式妨害法のすすめ
季節はアト麦の収穫が終わる頃。ウリスタニアの大通りを通り、都市外へ出て行っている軍勢があった。そう、今日より戦地へ向けての出陣が始まったのだ。
総数は六千強と、いつもより少し多めといったところらしい。六千強といえども実際戦闘するのは三千位で、残りは補給線を確保する兵士や商売人等の支援要員である。
ただ、今日出陣しているのは約半数といったところだ。
この国より暖かい主戦場の方に合わせているため、まだアト麦の収穫後処理の最中なのだ。だから村々から集まった食糧を持って後追いする部隊がいるという訳だ。
属国の辛いところだな。
見送りに来た縁者が大通り沿いに詰め掛け、別れを惜しむ、激励を送る等各々が好きな形で見送っているのだろう。と、その光景を上空から眺めていた。
「さて、俺達も行くか。ポクー」
俺とポクーはウリスタニアから北西へ進む軍勢を尻目に、北東へ移動を開始した。俺達は東の大森林を直接抜けて、ピットヤーグ王国に侵入するからだ。
俺への依頼は簡単に言うと、先の依頼と同じく雨を降らす事。
ただし、畑では無く敵軍勢に対してだ。
行軍というのははっきり言って生易しいものでは無い。
怪我、病気、脱走、死亡で戦場へ着く前に軍勢が壊滅する事もたまにあり、優秀な指揮官とはいかに行軍中の脱落者を出さ無い者と言われている程だ。
つまり今回の依頼は、行軍中の敵軍勢に対して妨害を行い、戦場に到着する者を減らせ。という依頼である。
脱落者の大半は農民兵や新兵、初心者請負人で構成される。先の依頼の様な数より質に重きを置いた救援部隊とは違い、戦争は物量、質より数に重きを置いている。
だから、妨害が上手く嵌れば大量の脱落者を見込めるという訳だ。
軍勢とは元々脱落者の見積もり込みで組まれているが、想定の範囲内から逸脱出来るか、俺達の力を見せてやろう。
ウリスタニアを出発した俺達は、いつもより更に空高くを浮かび上がり北東へ進んでいる。
既に低い位置の雲より高く、眼下には大森林の東端、ピットヤーグ王国側も視界に映っている。
流石にこの高度まで上がると風が強いが風に乗ると地上より涼しく、ゆったり出来る位には快適である。このまま依頼なんて忘れてしまいそうだ。
それと、今回の依頼中はずっと上空に滞在し続けるため、糧食やら備品やらをいろいろ大量に持って来ている。
それこそ兵站担当の兵士から苦言が出る程に。
風を乗り継ぎ一昼夜で大森林を横断し、ピットヤーグ王国側に抜けた。
既に敵国という事で下からは普通の雲やミニメソにしか見えない様にポクーを擬態させている。今は端から端まで歩いて一日程かかるサイズだ。
本来、ミニメソはこういうサイズのモンスターなのだ。
陸の【ロロル】、海の【アンテント・ファルヴァリア】、空のミニメソ。世界三大長大モンスターの一角を占めているのは伊達じゃない。
そんなポクーを上から見るとある箇所にぽこっと穴が空いていて、その底に俺は居る。そこから少し潜ればポクーの下端に顔を出せ、眼下の様子を見下ろせるのだ。行為としては見上げるだがな。
大森林付近のピットヤーグ側は発展しておらず、村や小さな町しかない。ウリスタニアにはダンジョンがあるため発展しているだけで、本来はここ等辺同様辺鄙な場所なのだ。ダンジョン様様って訳さ。
そして、眼下に見える村や小さな町の生活振りは酷いものだった。
ピットヤーグ王国はリーメイ公国と同じ属国とはいえ、成った経緯が違う。
リーメイ公国はアーリア王国王家からの当時のリーメイ公爵家への分権で成った国で、ピットヤーグ王国はファルクス帝国との争いに敗れて属国に成った国だ。
だから街中で立派な建物がファルクス帝国関係者が住み、それ以外が元々の住人の住処なのだろう。
ちなみに、公爵というのは一等地爵、公王家のアーリア王国風の呼び方だ。
リーメイ公国には建国由来からアーリア王国風の呼称や制度が色濃く残っていたり、混ざっていたりしているのだ。特に交流が多い公国西側とミュレス山脈に隔たれあまり交流がない公国東側では、呼称や制度に隔たりがある。
そのため、領地間を移動しない領民ならまだしも、移動する商人や請負人等は、制度等をある程度熟知していないと上手くやっていけないため、ある程度以上の者は勤勉な者が多い。
しばらく地図や眼下の様子を見ながら東へ東へ進み、街道上を東へ進む軍勢に追い付いた。
ピットヤーグ王国の簡素な地図や大体の爵位持ちの紋章一覧は渡されているが、ここから旗持ちが持つ旗の紋章が見える訳がない。
もうちょっと各紋章に特色を付けて貰いたいものだ。彼等は見栄を張りたいのか隠れたいのかどっちなのだろう。
まぁ俺は何奴だろうと妨害工作をするだけさ。
仕事はきっちり。やるやらないの問答をする程新人でもなし。
「ポクー、触って良いよ」
くぐもった声でポクーに指示を出した。
俺達への依頼は雨を降らす事。そしてその水の供給元は雲だ。
ただ、この雲に触る行為はかなりの危険を伴う。
感電である。
雷雲じゃなくても雲への接触は十分な備えが必要で、昔それで死にかけた。今でこそ殆ど消えているが樹状の赤い線が体中に広がっている。
今の俺の装備はパッと見全身金属鎧。ただし、俺の体型に比べて大きく、金属板の内側は全身革装備を着込んで一式となしている。
戦闘用として使う事が無いので、可動域はあまり無いが、感電防止のため作り上げたもの。いや、作って貰った。俺に板金や革、裁縫の技術があるわけないだろう。つまり、作らせ上げたものだ。・・・・語呂悪いな。
そんな装備を着込み、緊張の瞬間を迎え、ポクーが丁度下側に漂っていた雲に接触した。ポクー自身は元々そういう事が多いミニメソであり、雷には滅法耐性がある。
感電の怖いところは音がしない時でも実際は。という事がある事。だから俺は動かず指示のみ行う。
「ポクー、放水開始して」
やっちゃえポクー。
突然の雨。雨具の用意も無く、濡れた体。行軍という重労働。体力の無い者から発症。最悪死ぬ。嫌なら脱走。
もしかしたら俺は劣等な指揮官を作る才があるのかもしれん。敵対国にとっては厄介な奴だな。と、一人ごちた。
雲を一つ食い潰しながら放水を開始し、しばらく経った。
ただ、下の状況の確認はしていない。
何故なら地表からたった下の方の雲位しか離れていないからだ。だから顔なんて出したら下手したら見付かる。どれ程の奴が軍勢に潜んでいるかも分らんしな。
そうなると天気雨から妨害行為に認識が早変わり、いつかは露見するにしても遅ければ遅い程良い。
現在も他の雲やミニメソ同様に風に乗って移動している。
だから後、四半時もせず今下の軍勢はポクーの勢力圏から外れる事になるだろう。
そうなれば進行方向へ顔を出し、次の目標を探し、進路上にいればそのまま追い付き、いなければ夜中に風上に移動すればいい。
この辺の軍勢はヴィーゼヌ領の軍勢と同じく、山脈を回り込むために遠方の部類に入る。だから普通に考えれば脱落者比率が高い軍勢達でもあり、集中的に狙えば壊滅的打撃を与えられる可能性もある。
さてどうするべきか?
集中か分散か。依頼主に受けが良いのはどっちだ?




