進みゆく戦争準備
ウリスタニアへ帰って来て数日。
ギルドへの報告書提出も終わり、お得様回りをしていた。放浪+先の依頼振りと何気にお得意様の依頼を受けていない期間の最長記録を更新した。
俺のお得様は依頼品を目的地まで運ぶ、運搬依頼を頼む者が最も多い。
空路だと陸路の様に各町へ寄る必要がないので、入場時に掛かる税金が最小で済むためだ。交易においてこの積み重なる税金が馬鹿にならないのだ。それに御者や護衛の者達に払う人件費も決して安くない。
だから俺が放浪で少々依頼を受ける日が不規則でも、お得意様は中々離れないのさ。俺にとって運搬依頼はボロい依頼だ。
そんな運搬依頼を受けているとおのずといろいろな場所へ行く。だから現状進みつつある戦争準備がどの地域でどの程度進んでいるのか上空から見ているとおのずと分かってくるというもの。
ウリスタニアを含むヴィーゼヌ領は、陸路で戦場から最も遠い地域であるため準備が随分進んでいるが、西に進むにしたがって準備の進みが遅い。
それに領地や領主の傾向によって対応や比率が違うのも分かる。
例えばヴィーゼヌ領では、戦場から遠いため主に物資運搬用の荷車が大量に用意され、戦闘要員は少なめな対応を執っている。
もっとも、ヴィーゼヌ家は二等地爵家、しかもダンジョンから得た莫大な資産を持つ大きな身代の二等地爵家だ。だからその辺の下の地爵家よりも戦闘要員の割合が少ないだけで、人数自体は劣るものでは無いが。
「遂に来たか」
ある日の朝ギルドに入ると、カウンター傍に依頼ボードが増設されていた。貼られている依頼は一つ、雇い兵の募集。
「リトさん、おはようございます」
「おはようございます、ピリアンさん。遂に来ましたね」
「はい。各ギルドに一斉に依頼が届いたはずです。今日から受付開始します。どうです参戦しませんか?」
「うーん」
「あら? 脈ありですか。驚きです」
「そうですか? 俺もそろそろ参戦をと考えてはいるんですよ」
「なら何故帰って来たんですか? あちらで再雇用して貰える話だったはずですが」
「いやぁ、ここってデカいじゃん。だから小回り利きそうにないから嫌なんですよね。どこか身代の小さな家か個人参加したいと思ってるんですよ」
「え、えーと。前者は何となく言いたい事は分かりますが、後者は完全に火事場泥棒発言ですね」
「心外だなぁ。まぁ当たらずも遠からず。・・ちょっと鍛えて来るか」
最近あのワイバーンしか狩ってないから腕以上に感が鈍ってる気がすると、工房や商店、貸倉庫を回り準備を整え、翌朝。ダンジョン第七出入り口にやって来た。
ダンジョンはモンスターとの遭遇率が高いので訓練にうってつけな場所である。
それに俺とポクーがこの都市に来たのも、実はダンジョンに目的があったからだ。ただ、その目的は険しくまだ準備も出来ていない。今はじっくり力を蓄える時。
受付に並び、一回ぽっきりしか入れない板を購入し、ダンジョン出入り口前の兵士に見せ、もう荷物にしかならないので兵士に渡し、ダンジョンに足を踏み入れた。
ポクーにはオイルランプを二つ載せて視界を確保し、他の荷物も同様に載せている。予備の松明やランプの照明器具に、食糧や食器、魔水、応急道具等いろいろだ。
ダンジョン出入り口の違和感を抜け、一、二階層は足早に通り抜けた。今は戦争前だから鉱石は採れば採るほど売れるため、この時期にしては人が多い。
三階層に入ると、同業者や鉱夫達が出す採掘音がぱったり止んだ。流石に三階層まで来るほどには過密では無いようだ。
「さて、ここから本番。行くよポクー」
ポクーには体の一部を伸ばして貰い、ランプの一つは左後、もう一つは右後ろ上に配置して視界を確保して貰っている。
三階層に入ってすぐ、二匹のリットラッゼが暗闇の中から現れた。
二匹のリットラッゼは互いに競う様に接近してくると、その見る者によっては可愛らしいと思われる顔に隠す、不釣り合いな程大きな前歯を俺の足に突き立てようとして来た。
もちろん蹴って終了。うん、リットラッゼはランク0、つまり弱い。
横並びだったため上手い具合に二匹纏めて蹴れ、二匹は壁まで吹っ飛び壁に衝突すると辺りに体液をまき散らした。
「うーん、ちょっと強く蹴り過ぎたか・・」
力加減をミスるとは。こんなに鈍ってたのか。
これは本格的にダンジョン籠りが要るな。
リットラッゼを撥ね、グリムの頸部を刺し、【ルーダメゼット】の頭を貫き、もう何度目かも忘れたモンスターの来襲を退け、漸く角部屋に到着した。これで後ろから来襲する可能性がぐっと減るので今後は前方に注力していたらいい。
ダンジョンのモンスターは正しくダンジョンの床や壁から湧き出るのだが、湧き出切るまでそこそこ時間が掛かり、動かず無防備なのだ。そういう所も角部屋の有利さを後押ししてくれる。
「ふぅ、疲れた」
今はモンスターは来ていない。
そもそもモンスターは採掘音等大きな音に寄って来る事が多いため、大きな音さえ立てなければ遭遇率が下がるのだ。
「ホトンタッペ以外なら余裕なんだけどなぁ」
ホトンタッペのあの突進力は守る者が後ろに居る時だけでなくても厄介だ。もっとも、ホトンタッペ一匹ならさして問題は無い。
ポクーに載せて来たランプの油の残量を確認し、時刻を確かめる用の蝋燭に火を点け、台ごと地面に置き、拠点の設営終了。
一人だとこんなもんだ。今日は久々だからダンジョン内で寝泊まりする予定では来ていない。
設営も終わると、丁度良いタイミングでモンスターが現れた。
さあて、続きをやりますか。




