骨休め1
ハルスニアでの解散後、俺はハルスニアから南東方面に向かっている。
行先は『ムルバール』と呼ばれる町だ。
ムルバールは避暑地として有名なグレンテール近くにある町で、穴場的な避暑地として知る人ぞ知る町。
うん、俺はこの戦時体制移行期に遊びに行くのだ。
流石に今回は働き過ぎたらしく、雨音の耳鳴りがするようになったため、骨休みが必要と判断したのだ。
ちなみに、ハルスニアへ帰っている間にその耳鳴りは消えた。
夜のうちに移動してきたので、一度最寄りの川辺で支度をして、再び空に上がり、この辺りの地図を広げ位置関係の確認をした。
俺もムルバールは話には聞いただけで行った事が無い。だからポクーに大体の方向と距離だけ指示してここまで来た。
「うーん。あれだな」
そこそこ良い辺りまで来ていたようだ。流石はポクー。
ムルバールに到着した。
ムルバールはグレンテール同様に公国最大の湖『セリーヌ湖』の畔にある町の一つ。規模としてはグレンテールとその辺の漁村の間位の町だ。
さて、もうすぐ夏本番だから宿は空いてるかなぁ。
多分戦時体制移行の影響だろうか、何やら浮き足立っている感じだが特に気にせず街中を進み、いつもより豪勢な宿に予約してから、店に寄って湖畔にやって来た。
「お裏は水にあくせくしてるのにこっちは関係ないなぁ」
山脈の南北で環境が違い南側は豊富な水量を誇っている。
「ここにするか」
湖畔に植わっている木を背にし、そこからの眺めを描き始めた。地図製作の練習のため始めた絵描きも最近は趣味の一つに成りつつある。
湖には遊覧船が数艘行き交っていて、ここだけ戦時体制から切り取られた印象を受ける。
こうして骨休み初日はまったりと過ぎていった。
骨休み二日目。いつもより豪勢な宿は俺には合っていない気がするが、何となく負けた気もしたので今日も泊まる事にし、再び湖畔にやって来た。
まだ朝という事で漁師たちが漁をしている光景が目に入った。この町ではこの時期昼間は漁が禁止だそうで朝方しか見れない光景だそうだ。まぁどうでもいいが。
今日は昨日背にした木の近くからポクーに乗り込み、空に少し上がって湖面上空に位置取った。
僅かに違う風景を如何に書き分けられるか、趣味擬きといいつつも練習を欠くつもりは無く、今日も木炭片手に描き始めた。
気温が上昇していき、それと同様に観光客の密度も上昇し始めた頃、既に木炭を置き寝そべっていると、どこからか声を掛けれられた。
「おーーい!そこの者~」
起き上がり声のしたであろう方を向くと、三人の人物がそこにはいた。
声を掛けてきたのはその中の青者だったが、見た感じ、一緒にいるご夫人と少女の付き人っぽい。
「何ですか~?」
高度を下げ、湖畔に寄ると青年に尋ね返した。
「お聞きするが、あなたは船頭の類でしょうか?」
「いえ、あなた方と同じ観光客ですが」
「・・やはりか。お嬢様、この者はここの者では無かったみたいです。ですの
「やーー!! のったいのーーー! おそらとびたいのーー!」
「・・・何とかお願い出来ないだろうか」
青年は申し訳なさそうに、こちらに聞いてきた。・・事情は理解した。この位の願いなら叶えてやってもと思うが。
でもなぁ。
「ちょっと付き人さん」
付き人の青年を呼び寄せ、ご夫人と少女から背を向けると話し始めた。
「何でしょう?」
「俺は請負人でして、報酬次第では受ける事やぶさかではないんですが」
「ふむ、幾らだ。法外で無い限り都合しよう」
「いえ、ただ乗せて、わぁーってする位なら金取りませんけど、遊覧飛行までするなら先にここで商いをしてる方々に話を通してからでしょうと思いまして」
「・・そうだな。では少々ご足労願えるか。私はカート、お忍びなので伏せさせていただくがある家に仕えている」
「リトといいます。普段はもっと南の方で活動しています」
先程の話を付き人がご夫人に伺いに行き、了承を得たので、遊覧船乗り場の者に統制組織を聞きに行った。
その結果、統制組織はこの地の商人ギルドだった。あんまり大きな町じゃないから商い関係は全てこの地の商人ギルドが仕切っているみたいだ。
ウリスタニアと違い楽だな。あの都市は大きすぎて、細かく統制組織が分かれているため、下手打つと統制組織を探すだけで数日掛かったりもする。それに区毎に支部が在ったり境界線で揉めたりで、人が多くなるといろいろ大変なのだ。
商人ギルドに到着すると受付に事情を話して指示を仰いだ。その結果、正式な船頭を雇い、売り上げの二割を納める事で許可を取った。
思ったよりスムーズに事が運んだと思ったが、どうやら前にも似た事案があったそうだ。まぁ俺以外にもモンスターを使役するものはそれなりにいるからな。
船頭に当てが無かったため受付に確認し、遊覧船乗り場で暇をしていた船頭を雇い入れた。
手続きを全て終えると昼は少々過ぎたが、十分許容範囲の時間だ。
「では、お願いしますわ」
俺達が商人ギルドに行っている間、ご夫人と少女は護衛として雇われていた者と一緒に他の場所を回っていたそうで、それと合流し、遊覧船乗り場まで来た。
「はい。ポクー、六、フォルムチェンジ、舟」
「わぁ~~」
ポクーの形が変わっていき、舟の様な形になった。このフォルムは一般的な舟をそのまま模したもので、横風に滅法弱いので殆ど風が吹かない時のみ使用可能だ。
そして変形時の光景を初めて見る者の驚きの表情を見物し、
「では、ご乗船ください」
皆に乗船を勧めた。
少女は真っ先に突撃しご夫人叱られる場面があったが、全員が乗船を終え、今ポクー製舟の上には俺と雇われ船頭、付き人、ご夫人、少女が乗っている。
少女の命綱はそれはもうしっかりと括り付けた。ものすごく抵抗されたが三人がかりで取り押さえ、外す時にはロープを切って外す事前提で括り付けた。
「では、まいります」
船頭の合図で湖面から上昇し大人の背丈の二倍程の高さで遊覧飛行が始まった。
予め船頭と簡単なサインの確認を終えているので、ルート選定は船頭に任せ、船頭の指示通りにポクーに指示をし、ゆっくり湖上を回った。
少女は出発当初、く興奮し、歓喜の声や船上を命綱が許す範囲を前へ後ろへしていたが、途中から口数が少なくなり頭が上下し始め、遊覧船乗り場に帰り着く頃にはご夫人の腕の中で夢の住人になっていた。
「今日はありがとうございました。とても貴重な体験でしたわ」
「いえいえ」
「お嬢様も満足していらっしゃった様子。今日リト殿会えた事を幸運に思う」
お付きの者から報酬を頂き、一行が去って行くのを見送ると、
「船頭さん。今日はありがとうございました。ではこちら・・・」
「あのぅ」
雇われ船頭に約束の報酬を払おうとした時、横から声を掛けられた。
その声に雇われ船頭が対応した。
「はい。何でしょうか?」
「こちらの舟は随分目新しい事をしているのですね。私共も乗せて頂けますか?」
「え。えーと」
そう言いつつ雇われ船頭がこちらに視線を向けて来た。・・・どうやら俺の一日はまだ終わらないようだ。




