水枯れを救え2
移動十三日目。漸くモズナン地方の町『ハルスニア』に着いた。
「長かったなぁ」
俺は一人ぼやいた。だが他の者も多かれ少なかれ同じ気持ちだろう。
天候次第で行程に遅れは出たりするが、あの天候なら九、十日の道のりといったところだった。だが、やはり救援とはいえ軍事行動の一種だからか、他領に入る度に少しずつ遅れていったのと一般人がいたのが痛かった。
まぁ基本報酬が増えるからいいんだけどさ。
ハルスニアはモズナン地方といっても救援場所ではない。
干ばつが起こっているのはボーグ山脈北側の地域で、山脈北側は傾斜がきつく短い川しか無いため元々雨が少ない時期には水不足に悩まされている地域なのだ。川に関しては夏近くまでボーグ山脈の山々からの雪解け水があるそうだが、これから元々雨の少ない時期に入るため今時分から雨が降っていないのは由々しき事態という訳で俺達が派遣されたのだ。
幾ら川水があっても畑の散水作業は重労働だから、雨が降らないと早々に先細ってしまうという訳さ。
水生成の魔法とか、習えば大体の者が使える水を出す方法が幾つかあるが、一般人だと精々飲み水位の水を出す事しか出来ず、用水全てを賄える訳では無い。
だから此度の救援に来ている請負人はその手の使い手達が多く来ている。彼等なら一般人より遥かに多くの水を出せるため、給水や畑の散水に駆り出されてるという訳さ。あとは物資等の運搬係とその他支援関係の者達だ。俺はその他に分類されてるんだろうか?
ハルスニアには各地から来た者達が、町を囲む様に天幕やテントを多数の設営され、騎獣や輓獣の世話風景が見受けられた。
俺達も先にウリスタニアから来て現在ここに居る者達に合流した。
「我々二十五班は四班、六班と共に『カザヴェル領』に向かう事になった。移動開始は明日朝食が終わり次第すぐだ。朝食前に撤収準備をしておくように」
到着初日、早速班長から明日からの予定を承った。
「まぁた移動かぁ。やんなっちゃうぜ」
俺の隣でそう呟いたのは二十五班所属の請負人のハンクス。ハンクスは俺と同年代の魔法使いで、中々反りが合う青年だ。
他の二人も反りが合わない訳では無いが、世代間ギャップがあって仕事外での話題が微妙にずれる。他の二人もハンクスと同じ魔的な力を使う者達だが、そういう者は大抵晩熟で、二人も例に漏れず十以上離れている。
そんな中ハンクスは、俺と同年代という若い世代だが、この依頼に呼ばれる程の将来有望な請負人である。
「仕方ないさハンクス。俺達は雇われだ、報酬分は粛々と役目をこなすだけさ」
「良いよな。お前はそんな相棒連れてて」
「相棒連れてないテイマーってここに呼ばれた意味あるのか?」
到着二日目の朝。俺達二十五班は他の班と話がついた他の領地からの救援隊と共に、カザヴェル領に向けて歩き出しだ。
カザヴェル領はモズナン地方の領主の一人、カザヴェル四等地爵が治める地だそうだ。四等地爵は領地持ち爵位を表す地爵としては下から二番目である。
場所は地図上ではウリスタニアの真北から少し西といったところでここからまた数日は掛かる程遠い。
しかもこの地方の国境の要衝のために道に嫌らしい仕掛けがある。
それはこの地方独自の車軸幅の規格と故意の蛇行道である。車軸幅の違う車を轍に嵌め、時間稼ぎをするためのものだ。これが存外馬鹿にならん障害となるらしいのだが、今は同国人に対して牙を剥いている。
そして他領の者と一緒に移動しているのはここがボーグ山脈にほど近いためだ。
ボーグ山脈は大型飛行モンスターであるワイバーンや【トットルム】が巣食う危険地帯であるため手数を揃えたという訳だ。もちろんこの地方に人が住んでいることから分かる様に、ほど近いといっても奴等の通常の行動範囲外のため運が悪ければ、といったところだ。
それに大した訓練もしていない農民兵主体ならまだしも、兵士や請負人主体の俺達にとってワイバーンやトットルムの一匹二匹など物の数では無い。たまにはワイバーンの干し肉というのも中々乙なものかもしれんと考えるまである。
ハルスニアを出て海へ到着し、そのまま東へ進路をとり少し進むと環境が変わりだした。
「枯れてるな」
川辺から外れると可哀想な植物が増えてきた。
川の水はまだあるが、雨が降ってないからこれから先細りだろう。
結局、ワイバーンの干し肉化は出来ず出発から六日後にカザヴェル領領都ハウンに到着した。
そして実感した。この地方の道の厄介さを。
途中までは俺達同様救援部隊が多く、他の地方で使われている車軸幅の轍が出来上がっていたが途中から無くなり、そこからがくんと進行速度が落ちた。
だから予定を一日過ぎての到着だ。
事前情報ではカザヴェル領には既に十二班、十六班、それとここまで共に来た者達の一つ、『ツェストラン領』の者達が救援活動をしているそうだ。
今は領都外の村々に派遣されてるのか、ここの領軍以外見当たらないが。
ハウンではここの家臣団に出迎えられた。
カザヴェル卿自体はハルスニアに居たそうだ。
ハルスニアにはここと同じように領主自ら、もしくは右腕たる家宰や重臣が救援部隊の派遣要請に集まっているそうなのだ。
そして俺達の雇い主であるヴィーゼヌ卿にとって得になるだろうと指揮官連中が派遣先の一つにこの領を選んだという訳だ。予め決まってたのかもしれんが。
つまり何のメリットも無い、示せない領地は、いつまでたっても救援の手が差し伸ばされないというのが現実だ。
指揮官連中が話し合いのため離れていったので、改めてこのハウンの街並みを眺めた。
ここハウンはウリスタニアと同じ様に城壁に囲まれた都市だが、敵対者の違いからかここの城壁は対人用だな。と特に干ばつとは違う事を考えられる程には影響が出ていない。
まぁ雨があまり降らなくなり、雪解け水も減り出すのがこれから先だからな。今は釣り合いが取れているのだろう。他の村々は分からんがな。




