絵画工房からの依頼
「あらぁ、初めて見る顔ねぇ。ダンジョンからいなくなったと思ったら何処に行ってたのかしら」
「初めまして、リトと申します。洞窟より空、生肉より干し肉を求める求道者ですが、たまには休暇もいいものです」
「あらあら、いつも半分休暇中みたいな人がそれを言うのかしら」
「朝から晩どころか次の日もその次の日もずっと仕事場にいる俺にそれを言うとは誰かさんは過労死したのだろうか」
「仕事場に居るのと仕事をしているかに関係は無いわよねぇ」
「マスター、いつもの」
とりあえず換金で得た金を手に食事処に入った。今回は稼ぐ気も無かったから本当に微々たる金にしかならなかった。
再びギルド側に戻ってきて、
「それでピリアンさん、何か仕事無い?」
「はい」
ギルマスは紙の束を俺に渡してきた。
「扱いがぞんざいだなぁ。えっと、・・・・・ふむ、・・・・・・ふむ、・・・・・ふむ・・・・・・ふむ・・・・・・・ふむふむ。とりあえずお得意様辺りを受けるか」
「はい、全部ですね」
「・・・個人のお得意様辺りを受けるか」
「連名、団体名での依頼はありませんので、全部ですね」
「・・・同業以外の個人のお得意様辺りをいくつか受けるか」
「二つ以上は確定っと」
「さてと、上手い具合にスケジュール調整を」
「こちらがプラン一覧となります」
「・・・・用意が良いね」
「はい。ギルド員により良い仕事をしてもらうための補助位当然です」
「へ――――」
日に日に手強くなっていくギルマスに危機感を覚えつつ、幾つか依頼をこなし今日はメイヤーさんのところの依頼となった。
メイヤーさんと弟子のアリーシャさん、ノキナさんの三人はすっかりポクーの上にも慣れ、少しずつウリスタニアから離れた地まで赴くようになっている。
さて、今日はどこまで乗せればいいのかな?
「・・・高くですか?」
「はい。今日はいつもよりもっと高くへ行ってください」
どうやら今日はいつもより高い位置をご所望の様だ。
「なるほど。だから今日は着込んでるんですね」
「ええ」
「分かりました。・・ただ」
「ただ?」
「道具類は全て仕舞ってください。吹っ飛びますよ」
「「「えっ・・・・・」」」
「日にもよりますが。あの雲達を見てください」
俺がテキトーに指差した雲達を三人が見上げたのを見て、
「あれ遅そうに見えますが、実際は標準獣車の三、四倍の速さで動いています」
「・・・うそっ」
「大体ですけどね。今日はこの季節にしては風も穏やかですが、地表と上空は環境が違う事を覚えておいてください。
もちろんあそこまで上がる気はありませんが、地表ではそよ風も上がれば強風の場合が高いので確認後に道具を広げてください。・・・・どうしました?」
弟子二人はメイヤーさんの後ろに移動していた。
「人は大丈夫ですの?」
「命綱はつけてますが。・・・そうですねぇ、ポクー、六」
ポクーに大きくなって貰い、
「フォルムチェンジ、鉢」
そう言うと、ポクーの形が変わっていき、鉢っぽい形になった。
その後、縁の高さを調整して、
「・・・こんなもんかな。どうでしょうか、これなら多少風除けになりますが」
「そんな事出来たんですか」
「一応は。ただポクー自体が風の影響を受けやすくなるので揺れは悪化しますが」
「両立は無理なんですの?」
「俺達が受ける風の影響も含まれますから両立は難しいですね。すっぽり覆われれば別かもしれませんが」
「それは本末転倒ですね。・・・・ではそれで今日はお願いできますか」
「はい」
鉢に見えなくもない形になったポクーに乗り込み、三人の命綱を係留し、空へ浮かび上がった。
直ぐにウリスタニアを囲う城壁の高さを越え、都市中央部にそびえ立つ大鐘塔を頂きを上から見える高度まで到着し、一度上昇を止めた。普段はこの高さでいろいろな場所へ絵描きへ行っている。
「では、今から未知の高さですが、いいですね?」
三人の頷きを以って、更に空高くへと上昇を開始した。
そして今度は大鐘塔の倍位の高さで停止し、
「今、大鐘塔の倍位の高さです。地平線まで徒歩で二日程の範囲が見えています。
それと覚えておいてください。大体この見えている範囲が比較的安全な範囲です。それ以上ウリスタニアから東や南に離れると危険度が上がりますので、行きたい場合は事前に相談してください。場所によっては護衛の人を追加しないといけませんので」
再び上昇し開始し、少しして停止した。
「南に『ミュレスの森』が見えてきました。あの辺りは開拓村の名残がありますが、完全に危険地帯です。それと、あの辺りに赴く場合は直ぐに降りられる場所を見付けられるかは不透明だと伝えておきます」
ミュレスの森はウリスタニアから南にある森で、『ミュレス山脈』麓に山脈に沿う様に広がっているためそう呼ばれている広大な森だ。
そして何度も開拓村が出来ては消えていく危険度の高い森でもある。
再び上昇を始めようとしたが、メイヤーさんから声が掛かった。
「リト様。今日はこの高さでお願いしますわ」
「はい、この高度ですね。風は運よくあまり吹いてませんが、突風には気を付けてください。あと気分が悪くなってきたら早めにお願いします」
「どうしよアリー、下見えないわ」
「キィはこわがりねぇ。そんなんでこの先やっていけるのかしら」
「ん~~」
「アリーシャ。ノキナを煽ってないで準備なさい。それと安易に縁から下を覗いてはいけません」
「はーいっと」
弟子二人が準備をしている間、メイヤーさんはポクーの上をあっちへこっちへ移動しながら今日の題材の検討を始めた。
俺も指示されるままポクーに移動を命じたり縁の高さを再調整したりし、それが終わると一通り全方向を見回し、差し迫った危険が無い事を確認し、三人の邪魔にならない位置で木炭片手に俺も絵描きを始めた。
休憩を挟みつつ昼過ぎ。上空で作業を再開して直ぐの頃、
「きゃっ!」
突然の強風が俺達を襲い、メイヤーさんが描いていたボードが俺の方に飛んできた。
おおっ、と少し驚いたがボードを危なげなく掴み、
「皆さんそのままの体勢でいてください。ポクー、縁上げて降下して」
ポクーは指示に従い、吹き続ける強風の中地表に向けて降下を開始した。
「ふーー。ここまでくれば安心ですね。皆さん大丈夫ですか」
「・・ええ。なんとか」
「私も」
「だいじょうぶです」
皆大丈夫の様だが、道具が辺り一面に散乱していた。
どうやら今日はここまでの様だ。




