ダンジョン 誘う者と誘われる者2
「おーい、そこの自殺志願者」
「だからそれは酷いって。それで何?」
ギルマスとの話も終わり、まだギルド内で仲間探しをしていたラムに話し掛けた。
「いやぁ、お前達の散り際を拝んでやろうと思って付いて行くことにしたよ」
「だから勝手に殺すな!!」
「いやいや、では聞くがダンジョン初めてだよな、それにいつ潜るんだ?」
「明日です」
「・・はぁ」
駄目駄目だ。
「何ですか。その溜め息は」
「いいかラム。ダンジョンはいつでも入れるんだ」
「それは知ってる。でもそれが何だっていうのさ」
「明日なのは別にいいが、一日は日が昇る前から日が沈んだ後まであるんだ。だからダンジョンに潜る時はもっと明確な時間を決めるんだ。
基本は日に八回鳴る時の鐘を指標に潜り始めるんだが、俺達地上組の仕事開始が四や三の鐘が多いのに対して、ダンジョン組は三、七、五、四の鐘の順に多い。理由は分かるか?」
「僕達が四、三というのは分かる。・・・ダンジョンの方は知らん」
「ダンジョン組の三と七の鐘の組はグルだ。良い場所はこいつらが順繰りの持ち回りだ。その中に五の鐘の組が入る。だから六の鐘辺りがダンジョンが一番混んでいる時間帯だ。それが分かっているから四の鐘辺りに入る者が四番目に多い。その他の鐘は暗い時間だから普段から潜っている者達は多くない。ここまでは良いか」
ラムが頷いたので続けた。本当に分かっているかは分からん。
「そんな中一度も潜った事の無い初心者が利益が出るような場所を見付けられると思うのか?」
「でも、運良く見付ける可能性だって」
「確かに無い訳では無い。だがその場所は安全か?」
「モンスターが出るんだ。安全じゃあ無いけどそれは何とかする」
「・・・はぁ」
「だから何ですかぁ!僕だって低階層のモンスターなら余裕だ」
「いやいい。カーサとはいつ合流だ。話はその時にまたしよう。どうせ準備も終わってないんだろう」
これは前途多難だな。
昼前にカーサが合流した。
「それでリト、早く話の続きをしてくれない。この後買い物に行きたいんだけど」
「ラム。リトさんが一緒に潜ってくれるどころか、ダンジョンについても教えてくれるのよ。初めての私達はしっかり聞くべきだわ」
小柄なラムに対してカーサは頭一つ分高く、ジョブは共に剣士だがラムが小剣に対してカーサは剣を武器としている。服装は地上組剣士では標準的な服装だが、ラムの方がやや軽量な装いとなっている。
まずは合流したカーサにラムに話したところまで話した。
「……。ここまでラムには話したことだ。ここまではいいか」
「はい、大丈夫です」
さて次だ。
「そうするとラムが、でも、運良く見付ける可能性だって。とほざいた」
「むー、リトはそのあと、可能性は無い訳じゃ無い。とか言ってたじゃない」
「その通りだが分が良くない賭けだ。鉱夫は日当だ。良い場所とかに関係なくお金は払わないといけない」
「それは分かるけど。じゃあまずは自分達だけで潜って良い場所を探したらいいかな」
「それも一つの手だな。話しは変わるが二人とも」
二人の顔を見渡し、
「殺人経験、ある?」
二人はこの言葉を聞いて、動きが止まった。
「無いのか」
「・・・リト、ダンジョンと殺人って何の関係があるのさ」
「ええ、私もラムと同じ意見ですわ」
「じゃあ今度は。二人ともダンジョン組の装備見た事はあるよね。地上組とどう違う?」
そう問うと二人が考え始め、そして、
「良い装備の人が多い」
「一般的に金回りがいいからね。他には」
「靴がごつい人が多いわ」
「ダンジョン内は悪路だから靴は厚底や鉄板入りは常套だね。他には」
「兜をつけてる」
「おっ、いい感じだ。他には」
「他・・兜・・・・全身鎧とまではいかないけど重装備の人が多いわね」
「おっ、それが俺が待ってた答えだ。カーサにはこれをあげよう」
もちろん俺謹製の干し肉だ。
「あ、ありがとうございます」
「それでリト。重装備がなんだっていうのさ。僕達に比べて金回りがいいからだろ」
「お前はもう少し頭を使え。お前は金回りが良くなったらその革主体の軽装備から金属主体の重装備に変更するのか」
「速さを殺すような装備にする訳無いじゃん」
「うんそうだな。じゃあ請負人以外で一般的に重装備している者達は一体何の職業に就いてる」
「回りくどい言い方~。そもそも僕達以外で武装してる職業なんて騎士か兵士位じゃん」
「猟師や漁師とかも武装してる職業だろ。まぁいいか。ではその重装備をしている騎士や兵士がお相手するのは何なんでしょうか?」
「・・・・・酔っ払い?」
「お前のその偏見に満ちた考えはどうでもいい。もっと一般的な意味で」
「犯罪者や敵対国の同業者。つまり人ですわね。もしかしてリトさん」
カーサは気付いたな。それに比べラムは駄目駄目だな。
「そういう事だ。ダンジョンでの重装備の意味は対モンスター用ではなく対人用だ。ダンジョンの低階層で気を付けるのはモンスターではなく人なんだ」
「えっ・・・・」「・・・・・」
「二人ともどうする。殺人に躊躇するならダンジョンは止めといた方が良い。あそこは縄張り争い、強奪、快楽殺人者で毎日のように人が消える場所だ」
二人は沈痛な表情を浮かべ黙り込んだ。
「まぁダンジョンは混沌としていて楽しい場所ではあるんだけど、モンスターは幻体だから地上と違って干し肉の材料が人肉だけなんだよねぇ。種類が少なくてかなわん。はぁ、困ったものだよ」
カーサとラムは手にしていた干し肉を落とした。ラムはカーサにあげた干し肉の包みから一個拝借して齧っていたやつだ。
「うん?二人とも。・・・どうしたんだい?」
「「ひっ」」
「ん?・・それでどうする、明日潜る?潜るんだったら手入れに出してる解体包丁受け取りに行くんだけど」
「ピリアンさん。依頼完了しました。無事に彼女達にはダンジョンを諦めて貰いました」
「そう、それは良かったわ。これで心配事も一つ消えて、お詫びに行く必要も無くなったわね。それにしても随分脅したみたいね。ここから見てたけど途中から二人とも挙動不審だったし、最後は干し肉から逃げてた様に見えたのだけど」
「干し肉信者を二人逃した気分です」
こうして身の丈に合っていない事をしようとした二人の説得に成功し、次の日には予定通りモルツさんの依頼を受けた。




