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双銃使いの恋の法則  作者: 姫羅唯あやか
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第二章〜契約〜

第二章〜契約〜


蒼い髪の女の子。彼女を守ると誓ったのは今でも覚えている。絶対に怪我をさせたくない。だが彼女の職業柄、それは無理な話だ。だから少しでも怪我をさせない為にも、努力は出来る限りすると決めた。


「俺が部隊を連れて行くので、我らが司令官殿はここで待っていてください」


『司令AR部隊司令補佐』と表記された腕章を腕に着けた少年ーーギンガは言った。

ギンガとダリアットは現在、空挺船艦といわれる空中を移動する船に乗船していた。理由はもちろん、囚人ナンバー3254 リナ・ファリスを捕らえるため、目的地へと移動しているのである。


「何故そうする必要がある? お前に戦わせておいて、僕は座って見物していろということか!?」


「そうは言ってませんよ……。司令官がわざわざ出て行ってどうするんですか?」


「あれは……僕のミスで取り逃がした……。だからこそ、自分で決着をつけなければいけないんだ」


悔しげに言う可愛い上司の姿にギンガは心の中で萌えていた。


(あぁ、悔しそうに言うダリアット様……何て可愛いんだ……!)


今すぐにでもダリアットの頭を撫でたくて仕方がないが、そんな自分をどうにかして押さえ込む。


「そうですけど……。今回は部隊を率いてここまで来ているんです。少しは我慢してください……。司令官がそんなだと、部下たちが不安になりますよ」


「そうだな……悪かった……。よし! 切り替えて行く!」


ぱんっとダリアットは自分の頬を叩いて気合いを入れた。その姿を見て、ギンガはほんの少しだけ安心した。いつもの彼女に戻ったと……。

時計を確認すると、目的地まであと三十分前後。その間、何をするか……。ダリアットの方を見ると、


「こんな時まで仕事しているんですか……。本当に仕事好きですねぇ……」


早速、ノートパソコンを開いてかちかちと仕事に励んでいた。

書類仕事が嫌いなギンガとは大違いだ。やるにはやるが、書類仕事を好きになれないのがギンガの本音だ。


「好きではない。ただ…………。明日までにやらなければならない仕事が終わっていなくて真面目にヤバいと自覚しているからやっている……」


後半はほぼ棒読みだった。どうやら、本当にヤバいということなのだ。


「手伝いませんよ?」


「薄情者め……!」


自分の仕事は自分でやる。それは当たり前のことだ。










シンライラ大陸――グリース王国最北の雪原にて。


「こ、ここどこ………?」


桃色の癖がある髪に、ライトクリーム色の人懐っこい瞳をしている少女ーー囚人ナンバー3254 リナ・ファリスは目覚めると同時にそう言った。

自分の周りに見えるのは、雪、雪、雪……。雪だけ。木の一本も立っていない。薄着のこの服でここにいるのはとても危険だ。


「死ぬ……」


「いやいや、死なれたら困るよ……!」

 

いきなりの自分以外の声にリナは驚いて飛び上がる。ぶるりと背筋が凍った。


「……誰?」


周りを見回してみても、誰もいない。周りには、雪しか無いというのに声が聞こえる。不思議だ。


「いや、君の足下……!」


足下と聞いて、リナは自分の足下に視線を移動させる。すると、そこには仰向けになってリナに踏まれている少年の姿があった。

リナは踏んでいたことに気がつかずにいたことに驚き、急いで少年の上から退いた。

少年は雪をはらいながら立ち上がると、真っすぐにリナのことを見た。

リナと同じ十五歳程の年齢だ。バランスよい長さの金髪に青い透明度のある瞳。寒いからか、少年は厚着をしている。着用している服から、身分はどこかの有名貴族の子息のようであった。

そんな少年と自分の服装を比べてしまうと、リナは何だか自分が惨めになった気さえした。


「わ、私に何か用でもあるの?」


少年から目を逸らしてリナは言った。少年の姿があまりにも眩しすぎて、リナは凝視することが辛かった。

少年は頭を掻きながら、


「知ってるか分からないけど……、各国には特殊な力があって……。この国ではある年齢を越したら、その特殊能力を使うことが許されていて……。それで、今使ったんだ」


「つまりはどういうことなの?」


「えぇと……。その特殊な力というのがこの国では……召喚なんだ。オレは今、召喚を行った。その結果、君を召喚したということで……」


だからか、とリナは手を打った。

ダリアットに肩を掴まれたとき、もう終わりだと思った。次の瞬間、目の前が真っ白になり、肩を掴まれている感覚が消えた。そして、視界に飛び込んで来た光景が雪原というわけだ。


「取り敢えず、私としては助かったわ。ありがとう……あっ、名前……」


少年の名前を呼ぼうとしたが、まだお互い名乗っていなかったことに気がついた。

でも、目の前の貴族の子息っぽい少年と自分は話す権利はあるのだろうか。囚人服を着ている自分は今すぐに立ち去るべきではないか……。と、様々な考えが一瞬にして頭の中に浮かぶ。


「そうだね、まだ名乗ってなかったよ。オレの名前は、ラカフ……。よろしく、えっと……」


「……り、リナ……。リナ・ファリス……。それが、私の名前……」


リナにとって囚人3254と呼ばれるよりはまだマシだが、あまり呼ばれたくない名前だ。だからか、自然と声が小さくなってしまう。


「女の子らしい、いい名前だね。リナ……か。誰がつけたの?」


女の子らしいと言われて、リナの顔は赤くなった。この世に生を受けてから、女の子らしいだなんて言われたこともなかった。


「ダリアッ……」


つけてくれた人物の名前を言おうとして、リナは言葉を止めた。この少年に彼女の名前を言いたくはなかった。ラカフの顔をちらりと見やると、教えてと言わんばかりに目を輝かせていた。その目にリナは押し負けてしまったのか、重い口をそっと開いた。


「ダリアット……」


「ダリアットさんっていうんだ……。へぇ〜」


ラカフの反応に、リナは内心驚いた。彼の様子は何も変わっていない。驚いてもいないし、狼狽しているわけでもない。


「う、うん……。あの……知らないの? 彼女のこと……」


思い切ってリナは聞いてみた。この大陸でダリアットの名前を知らない人などいないはずだ。この帝国の司令官の一人であり、彼女の容姿からして誰もが吸い寄せられる美しさを誇る彼女のことを知らない人間はいないと断言してもいいほどだ。


「えっ…………もしかして、帝国の……司令官をやってる人?」


ラカフは思い当たる人物はその人くらいしかいないなというような表情を浮かべている。

リナはこくりと首を縦に振った。


「と、取り敢えず! 寒いから、これ着て……!」


着ていた服を脱いで、ラカフはリナに着ていたコートを着せた。

ラカフが着ていたコートの温もりがまだ残っていて、思わず頬が緩む。


「あ、ありがとう……! で、でも貴方は……」


コートを脱いだらラカフの格好はどこかの学校の制服を纏っていた。


「大丈夫。オレよりも、リナが風邪引いたら大変だからさ。ここは寒いから、一旦、オレの家に来てもらってもいいかな?」


すぐそこだからというように、ラカフは後方を指差した。指を指した方向には何も無い。そのことをリナが言うと、ラカフは困ったように、


「ちょっとしたマジックを掛けているからね。余程近くまで来ないと見えないんだ」


「へぇ……。じゃあ、少しだけ……お邪魔させてもらいます……」


リナはラカフの好意に甘えて、彼の家に行かせてもらうことになった。

ラカフの言う様に、本当に近くまで行かなければ家の外観は見えなかった。中世の城のような外観。ただただ白く、吹雪になればマジックを掛けなくても自然にとけ込むことが出来そうだ。

門を潜って彼の家に入ると、城の外観に合った内装だった。シャンデリアが釣り下がる廊下を歩き、リナは客室と思われる部屋に通された。

「好きな服を選んで着ていいよ。着替え終わったら、廊下に顔を出して」とラカフに言われた。リナは勿体ないと断ろうとしたが、このままの格好じゃラカフと向き合って話すことが恥ずかしいと思い、言われるままに着替えることにした。クローゼットには様々な服が入っており、リナは企業に勤める女性会社員が着るような服に着替え、廊下に顔を出した。

再び部屋を移動し、今度はラカフの自室と思われる最上階の部屋へと入室した。

椅子に腰掛け、ラカフと向かい合うような形になる。


「服、ありがとう。それと質問してしてもいいかな」


リナはここまでの道のりで気になることがあった。こんな大きな城だというのに、人が誰もいない。そのことが気になって仕方がなかった。ここにはラカフ一人しかいないのだろうか。


「なんで、誰もいないの?」


「そ、それは……。家の事情で……あんまり言えることじゃないんだ、ごめん。それよりも! 外で話した特殊な力についてなんだけど……」


「確か、召喚て言ったよね? 貴方が私のことを召喚した所までは理解したわ」


「うん。召喚した後のことなんだけど……。召喚した相手の合意によって、従者になることができるんだ。どうかな?」


つまりラカフはリナに、オレの従者にならないか? と聞いているのだ。

リナは深く考えた。もしも、この申し出を受けたら自分の状況はどうなる?

受けた場合には、これからラカフと共に過ごすことになるのだろう。それは問題ない。だが、リナには一つ問題がある。それは、司令官ダリアットに追われる身であるということだ。いつかは再び彼女と会うことになる。彼女に会えば、自分は間違いなく捕らえられる。ラカフに関して言えば、リナのことを匿っていたということで共に捕らえられるかもしれない。

受けなかった場合はどうなる? 申し出を断り、この広い城から去る。誰にも迷惑をかけることも無く、再び捕われの身になるだろう。

どちらにせよ、捕まることには変わりはないことが明確だ。

リナとしては、この申し出を受けたい。でも、彼に迷惑がかかるのなら受けない方がいいのだろうか……。

リナはごくりと唾を呑み込み、自分の置かれている状況をラカフに話し始めた。軽蔑されるかもしれない、もしくは軍に通報されるかもしれない。それでも、嘘を吐いてまで少年の従者にはなりたくはない。

全てを話し終えると、ラカフは軽蔑もせず、通報もせず、リナの為に怒ってくれた。


「お前の話を聞く限り、何にも悪いことしてないじゃないか! それなのに、投獄……!? 信じられない! その司令官、最低だ……!」


「私のこと、信じてくれるの?」 


「当たり前だろ! オレは人の話をちゃんと聞かない奴が一番嫌いなんだ! リナ、もう一度言わせてくれ……オレの従者になってくれないか? お前が捕まってたとかそんなの関係ない! オレは、お前じゃなきゃ嫌なんだ!」


リナの細い肩を掴んで、言い聞かせる様に言った。リナはラカフの瞳を真っすぐに見た。


「……追われている身だけどいいの?」


「あぁ、もちろんだ!」


「もし、ダリアットが来たら……」


「そんときは、オレが守る!」


「……本当に、私でいいの?」


ラカフはニコリと口角を上げて元気よくオーケーの返事を出した。


「ありがとう……。本当に、ありがとう……!」


リナはラカフに教えられながら、契約を結んだ。初めての経験だったが、何だかとても嬉しい気持ちになったのだった。
















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