68『当たり』
『♪』
「はぁ……」
大きな金魚が入った袋を手に、嬉しそうに歩くキャロル。
そして俺は一層寂しくなってしまった財布を手に溜め息をついていた。
結局、金魚すくいはあの後何回も失敗し、見かねたおっちゃんが大きな金魚を譲ってくれたのである。おねだりっていうのはとてつもなく恐ろしい行為だ。勝てるわけがない。
何故か逸れたユイのことも気がかりだし……まぁユイは逸れても俺の匂いやら何やらを辿ってまた会うことが出来るはず。何しろあの見た目だ、声を掛ける様な奴も居ないだろう。
とりあえず今はキャロルを連れて他の皆を探さないと……
「ちょっと! これハズレしか入ってないんじゃないの!?」
ふと、くじ引きの屋台でいちゃもんをつける少女が居た。
黒地に花火の柄が描いてある浴衣を着ている。
あれ……アサギじゃないか?
「そんなこと言われてもねぇ、お嬢ちゃん。こればっかりは運だから……」
「こんだけ引いて一枚も当たりでないってどういうことよ!
これで20枚連続ハズレよ? いくら商売だからってひどすぎるわ」
特徴的なアホ毛をぴこぴこ動かして屋台のお姉さんに抗議する少女。間違いない、アサギだ。
何やってんだあいつ……他の客もドン引きしてるじゃないか。
可哀相にと同情する視線や、逆に凄いと感心する者など、その屋台の周りは見物客で溢れていた。
「っと、すいません……」
他の客の間を擦りぬけ、抗議を続けるアサギの頭を軽く叩いてみる。
「っ何すんのよ!……ぁ、圭一」
「……何やってんだお前。他の客に迷惑だろ」
「だ、だって……」
アサギは水色の瞳を僅かに潤ませ、景品の欄を指差す。
当たりと書かれた棚には、綺麗なアクセサリーやいかにもな高級品の数々が並んでいた。
これは当たり出ないだろうな……
「お前なぁ……当たり出るわけないだろこんなの」
俺がため息交じりに言うとアサギは俺の顔をキッと睨み、それからしょんぼりと俯いた
「あんな雑貨なんていくらでも買えるわ……私が欲しいのはアレよ」
アサギはしゅんと肩を落としつつも、棚の端を指差して見せた
棚の端には、薄汚れた一枚のカードが置いてあった。
汚れているせいで絵柄は見えないが、微かに金色の枠が見える。
あのカードはそんなに珍しい物なんだろうか……
「あんなのが欲しいのか? 意外だな」
「あれをバカにしないで!」
アサギはギッと俺を睨んで財布に手を伸ばす。よく見たらブランド物の長財布だ。
そういやこいつ、お嬢様だったっけ……
「あれは『クラウディアのタロット』よ。間違いないわ!」「いや知らん」
声高に言い放ったアサギは目に怪しい輝きを宿しながら三枚の100円硬貨をお姉さんに投げつけ、くじ引きの箱に勢いよく手を突っ込む。
いや、待てよ。一回300円のくじ引きを20回って……バカなのかこいつ。
「(ごめんねお嬢ちゃん……こっちも生活が掛かってるんだよ)」
お姉さんも満面の笑みだ。絶対策略に引っかかってる。
タロットだか何だか知らんが、アサギが欲しがるということは相当な何かなのだろう。
「……」
しばらく難しい表情で箱の中を探っていたアサギだが、ついに折りたたまれた一枚の紙を取り出してお姉さんに投げつけた。お姉さんは慣れた手つきでそれを破き……
「……残念。また挑戦してね」
『ハズレ』と書かれた紙を、ひらりとアサギに手渡した。
「……ッ!!」
呆然とその場に立ち尽くすアサギ。そしてそれをニヤニヤと意地悪く見つめるお姉さん。
どよめくギャラリー。状況を理解せず自分もやってみたいと俺に視線を送るキャロル。
キャロルは目を合わせたら負けだ。見なかったことにしよう。
こんな有様じゃ、アサギが諦めた後他の客は絶対寄り付かないだろうに……
『あのー、私やってみてもいいですか?』
「!」
雑踏の中から一人の少女が名乗りを上げた。
その少女は奮闘するアサギの傍でしばらくじっと様子を伺っていた子である。
艶のある黒髪と紅い瞳が綺麗な少女だ。その背には大きな黒い翼が生えている。
この子も人に化けた魔物なんだろうか……だとしたらまず羽を隠せと言ってやりたい
『じゃあちょっと引いてみますね。えへへ』
軽く困惑するお姉さんに硬貨を手渡し、くじの箱をガサガサと漁る少女。
アサギの引く姿を見てなかったのか? 絶対当たるわけないのに……
『えぇと、これ。お願いします』
にへら、と笑いながら少女は摘まみ上げた紙をお姉さんに手渡す。
お姉さんはアサギと同じように慣れた手つきで紙を破り……さっと青ざめた。
少女はお姉さんの顔を見てにっと口元を歪ませ
『……じゃあ……景品、貰いますね?』
棚からあのカードを手に取り、少女は満足げに微笑んだ。
『折角なんで、これはあなたにあげます。大事にしてくださいね』
それから硬直するアサギの手にカードを握らせ、漆黒の夜空へ飛び立つ少女。
俺を含めたギャラリーとアサギはしばらく呆然とそれを見つめていたが、
状況を理解すると同時に屋台のお姉さんの方へ振り返った。
「あ、はは……参ったねこりゃ」
冷めた笑みを浮かべるお姉さんの手には、『当たり』と書かれた紙が握られていた。




