04『洞窟の中で』
……てなわけで洞窟に足を踏み入れたまではいいんだが
魔物が全くいない。どういうことだろうか。
決して探してないとか、そんなチャチなもんじゃ断じてない。
まるで結界でも張ってあるような、そんな恐ろしい物の片鱗を味わったぜ。
洞窟=モンスターってのは常識だ。
しかし何も出てこなかった!
結局一番奥まで進んで見つかったのは宝箱(?)が一つだけ。
入り口からして大きな洞窟だと思ったが、それほど大きな洞窟ではなかったのだ。
そして俺は今、謎の箱と向かい合う形で座っている。
謎の箱は60×80Cm程度の箱で、子供が丁度入れそうな大きさだ。
黒光りする漆器の箱で金色の装飾が施してある
……宝箱というよりは宝物の箱だ。
中には何が入っているんだろうか。これは知的好奇心だ。
だが、箱には細い鎖が幾重にも巻いてあり、意味不明なお札が貼ってある。
果たしてこれは開けていい物なんだろうか?
もし、何かやばいものを封じ込めた箱だとしても
箱を見つけたら開けたくなるのは人のサガだ。これはもう開けるしかない。
「よ……っと、固いなコレ」
俺は固く縛られた細い鎖の戒めをとき、お札を力任せに引きはがした。
――バチッ
……小さな火花が散った気がする。お札は本物か
さて、もはや気にしてられない。さっさと開けてしまおう。
箱の蓋に手を掛けて、力を込めて……
うん……開かない。
……これは本当に『箱』なんだろうか。
鍵は掛かってないはずなのに開かないってどういうこと?
その時、あるモンスターが俺の脳内に浮かんだ。
それは宝箱に擬態し旅人を食らうという恐ろしい魔物。
その名は…『ミミック』 ある程度メジャーな魔物である。
ひょっとしたらこの箱はそういった類の魔物なのではないか。
そう考えてみた俺は支給品ポーチからスキャナを取り出し
謎の箱に向けてスイッチを入れてみる。
種族 :封印術式
名称 :ぱんどらのはこ Lv999
契約者:
耐久力:003%
「(…なんじゃこりゃあ…)」
どうやら魔物ではないらしい。それどころかとんでもない箱だコレ……
ぱんどらのはこって何? ひらがなで可愛い感じだけどLⅴがやばすぎる。
てかコレやっぱり封印だったのか……
まずい。これはかなりやばい。
パンドラの箱といえば悪しきものを封じた箱。
古い文献に載ってる最強にして最古の封印術だ。
封じられた魔物は『外から破られない限り』世に出ることはできないといわれている。
さっき俺……鎖解いて、お札剥がしてしまった。
今この箱を縛るものは残り3%の封印のみ。
終わった……いや終わってたまるか!
封印が消える前に先生に引き渡せば何とかなるかもしれない。ならないと困る。
俺はパンドラの箱を抱え、洞窟を後にする。
それ程大きな洞窟でなかったことが功を奏した。
洞窟の外には、さっきの女の子を抱きかかえた桜がおろおろしていた。
そういや何も言ってなかったな……すっかり忘れていた。
「あ、圭一君っ どこ行ってたんですかぁ……私不安で……」
「ごめん! ……ちょっと急ぎの用ができたから早く学校戻ろう」
桜は頭に疑問詞を浮かべながらも、俺が持っている箱に目線を移し
「その箱……圭一君の使い魔ですか……?」
「えぇと……まぁそんなところかな」
「そうですか、良かったです……」
ほっと胸をなでおろした桜は、嬉しそうに微笑みながら女の子を撫でている。
……意外と豊かな膨らみに目が行ってしまうが、気にしている暇はない。
「それはそうと圭一君、まだ時間たっぷりありますし、ちょっとお話しませんか……?
私……圭一君の事とか、色々知りたい……ですし……」
桜がもじもじしながら何か言っているが、やっぱり気にしている暇はない。
「ごめんな桜!ちょっと急ぐぞ」
「……えっ?」
俺は右手に箱を抱え、左手に桜の手を引いて
学校への帰り道を急ぐのであった